第11話その終『和解:依頼とネガイ』
※この『物語』は『フィクション』です。
※それなりに『大切にしたい』気持ちで読んでください!
「…は、ははははは。そうだよな。ヒトメ。」
――俺は空を見上げる。少しずつ雲の間に光が差す。
『誰か』が笑ってるように。いつも見てきた『暖かい夕日』の光が俺らを彩る。
「おじちゃん、雨…あがったね。」
「…」
「…どう…したの?」
「…いいか、ガキ。いいことを教えてやるよ。」
「何?」
ゆっくりと晴れていく。
その中を俺はゆっくりと歩く地面はぬかるんでいる。
テグラ戦でボロボロの身体。腕はその前からすでに傷付いている。
だが、まっすぐと視界だけは夕日の光が視える。
赤いきれいな夕日が目に映っている。
何もなかったこの場所に空はだんだんと晴れていく。
お前が与えてくれた、俺ができる精いっぱいの力で伝えるから。
「ガキ、お前はやっちゃいけねーことを一つしてる。」
「?」
「弱いものいじめだ。」
「僕、誰もいじめてないよ?」
「今、お前は心の弱い『自分自身』を、いじめて泣かしてるんだよ。」
「え」
救うよ。ヒトメ。見ててくれ。涙で顔がぐしゃぐしゃでも。
俺が誰かを思いやって、今を一歩、歩くから見てくれ。
「お前はそうやって母親が死んで殻に閉じこもろうとしていた。
だが、それだとお前自身が救われないんだよ。」
――ソライがそうしたように。
「それどころか、お前にかかわってきた、
家族や友達いろんな人間も弱いものいじめされた。
お前をみて哀しい気持ちになっちまう。」
――ユウジにしてしまったから。
「そしてお前自身が弱いものいじめをして、何一ついい気持になっちゃいない!」
――ニッちゃんは自分の暴力を嘆いた。そして進むための心を理解した。
「確かに死ぬのが怖いこともわかる。
それを恐怖するあまり泣きたくなるのもわかる。
だけどな、泣いていて下ばかりを向いてちゃダメなんだよ。」
――ユミはダンジョンが怖かった中、勇気を持ち進んでくれた。
「胸を張って堂々と前を向いて、ガキはガキらしく馬鹿みてぇに笑ってるくらいが、
ちょうどいいんだよ。」
――ハナビ達には笑ってもらいたいから。
「でも怖くてたまらないよ!」
「死ぬのが怖い?当たり前だ!俺だって怖い!
でもな、その気持ちがないと『もっと生きていたい』って思えねぇだろ?
だからその気持ちを大切に持って、今を生きろ!!!!」
――今度は軽薄な言葉じゃない。『ここにいる俺』が伝えたいことはこれだよ。
アルゴニック!
「そして馬鹿みてぇに笑え!恐怖ごと笑っちまえ!!
お前は今、生きてんだよ!!心を持って生きてんだよ!!
哀しみも恐怖も一生懸命、大事に抱えろ、それはテメェのもんだ。
その笑顔がテメェがこれからの長い人生でより多くの人たちと、
幸せを勝ち取るための、きらめく大切な宝物だ。」
俺は少年の肩に手を置く。
――ここにあるのは夕日と二人分を泣きはらした顔だ。
「………はは。変な人…。」
――そこに少しの笑顔が二人分。加わった。
俺の頭上に虹がかかっていく。
光が俺にあたってまぶしい。
「…うん。ありがとう。おじちゃん。
そういわれると哀しくても前に進めれるような気がする。」
「だろ!」
――俺は満面の笑みで言葉を返す。
▽▽▽▽▽▽▽▽
××××××××
【アクセスポイントを検出しました。】
「ふふ。」
【接続開始】
少年も泣き笑いながら、俺を見つめる。
【接続中】
その時だった。
【パスコードの入力を確認】
俺は完全に油断していた。
【正常に接続を確認しました。】
「あ!何!?これ!?」
【初めまして。】
「どうした!?少年!?」
――俺は気づいていなかった。この少年との出会いは、真実の入り口だったんだと。
××××××××
【取引しましょう。
絶対条件中、現在のあなた様の状況をもとに基準たり得るか
演算をし審査と確認を開始します。
審査通過後、以下の確認に了承するか、拒否をご選択ください。】
「眼に!!眼に!文字が!!!熱い!!眼が熱い!!!!おじちゃん!!」
「はぁ!?文字?」
――俺は少年の眼をのぞき込む。
その右眼は白目を含めてどす黒い色に変わり
確かに文字らしきものが浮かんでいた。
これはなんだ!!?何が起こっている!?
【絶対条件
-第0項目-クリア-
-第1項目-クリア-
-第2項目-クリア-
-第3項目-クリア-
-第4項目-クリア-
-第5項目-クリア-
-第8項目-最終確認にて確認のため、保留。
-第9項目--クリア-
-第10項目-クリア-】
なんだこれ?次から次へと文字が眼の中を流れていく!?
しかも予想以上に速い!
くそ!誰かに伝えようにもこの場には俺しかいない!どうする!!?
「熱い…おじちゃん。熱いよ!」
それにしてもこの文字どっかで見たことある気がするんだよなぁ……。
なんて考えてる場合じゃない!病院で診てもらって治るのか!?
【第11~20項目の権利と補償および責務については
この後の最終確認にて承諾するものとする。
最終確認。あなたはIdを取得しますか?
警告。最終確認に承諾すると、あなたは”解”を言わなければいけません。】
【それでもなりますか?】
何だこれ?まるでわけがわからねぇぞ…。
「おい少年。大丈夫か?」
「うん…」
【承諾しました。】
と瞳の中の文字が言う。
「え…」
「あ、さっき、『うん』って言っちゃた。」
「「……あ…。」」
…
▽▽▽▽▽▽▽▽
――…しまったああああああああああ!!やらかしたああああああああ!!
あちゃーもしかしてまずいことになっちゃったっぽい???
ワンクリック詐欺的な……。
あ、ああーーーーーーー!!やばい!なんか…やばい!!
なんか俺やらかした!落ち着け!まだ取り返しが…。
【-第8条件-解答者になるための意思が確認されました。-クリア-
ただいまより権限と問いを渡します。
問い『奇跡はありますか?』
おめでとうございます。完了しました。あなたの解にすべてを託します。】
そう言って文字がすっと消えていくと同時に少年の瞳に俺のバンダナと同じような
【02】の文字が浮かび上がると、その文字はどこかへと消えていった。
××××××××
▽▽▽▽▽▽▽▽
……と、とりかえしがつかねええええええええ!!!
ちょっと待てええ!!目ん玉の文字ぃいい!!!
へ!?なにあれ!?なんかの怪奇現象か!!?
クーリングオフ!クーリングオフ!!
「…あ、あはははは…何だったんだ?今の…」
「わからない。」
もしかして……いやたぶん…これがIdの誕生?だ…。
いや…そうなのか??でももう眼が元に戻ってるし…。
「もう眼熱くないのか?」
「うん。もう大丈夫みたい。」
やばい。実際、目ん玉に浮かび上がる。
謎の存在に対して、なんかを承諾しちゃって、笑って済まされることじゃあないぞ…。
いや…俺、通行人Aなんで…!
…で、済ませたられたらいいなぁ……。
「そうか…まぁなんにせよ。大丈夫なら良し!」
――逃げよう。うん、あとで、いつか何とかしよう!
それにだ。やることもあるしな。
「うん。ありがとおじちゃん!」
「俺はーお兄さんだぞ!まだおっさんていう年齢じゃないやい!」
「あはは。」
「…じゃあな。少年。俺はそろそろ仲直りしに戻らなきゃ。」
「うん。おじ…お兄さんも元気でね。
僕も弱いものいじめせずに、前向いて頑張ってみる。」
「おう、じゃあな。」
俺は来た道をまっすぐ戻っていく。
――…俺を見送る少年は伸びをしながら、とても景気のよさそうな顔をしていた。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「「あ」」
俺とアルゴニックは偶然、家路の道で再開した。それも家が目と鼻の先にある位置で。
「…」
「…」
「あのさ」「あの」
……
「さっきは言いすぎた。俺には叶えられない願いがあるし。
お前の気持ちを汲み取れずそれでいて
えーっと…とにかく無茶苦茶言い過ぎた!…ごめんなさい!!」
アルゴニックは深々と謝る。
「…こっちも悪かった。俺自身ちょっと、周りを見れていなかった。
反省してる。おかげで今ある大切なものを手放しそうになった。
お前のおかげで気づかされたよ。ありがとう、
そして本当に申しわけないことをした、ごめんなさい。」
俺も深々とお辞儀をして顔を上げる。
「…」
「…」
「「あ、あの…!」」
「…お、お前から…。」
…
「…えっとその。お前を許すよ。
こういう時、どう返せばいいのか俺にはわからない。」
「俺もお前を許す。
お互いが悪かったんだ。
だからこれで、おあいこだ。」
「…サイム。」
アルゴニックは仮面越しからでもわかる真剣な表情…。
あれ?こいつの目ってこんなにはっきり見えたっけ…。
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――それに目線もこんなの…。あれ…。身体…。
気が付くと、アルゴニックは人型の姿へといつの間にか変貌していた。
ロングコートを羽織るように着こなし、身長は俺よりも低く170㎝くらいの男性。
ただし、異質に思えたのが、左腕が人間の腕。
右腕が道具…正確には、ホームセンターで売っている金具や木の破片。
そういったもので創られていてつぎはぎだった。
「サイム、この際だ。お前に言っておかなくちゃならんことがある。」
「聞こう。」
「依頼を出したい。俺の願いを叶えるのを少しでもいい手伝ってほしい。」
「どういうのだ?」
…。
「俺の願いは。誰もが自らの心で笑顔で居られる平和な世界を創りたい。
むろん、今はまだ【夢物語】だがな。
国や人種、貧富、宗教を問わず、少しでもいい。何百年かかるかわからない。
正真正銘。子供のころから願い続けてきた。俺の夢だ。」
……。
「俺は【別の世界】からこっちへやってきた。
その世界でも、ここと同じように哀しいことであふれていた。
誰かが誰かをけなしあう、そんな世界が耐え難いほど嫌になった。
でもな、それはどこの世界でも同じなんだ。
だからこそだ。そんな中に生きていて、少しでもいいんだ。
お前自身が
『明日をちょっとでも、ともに楽しく生きていこうと、これからも進んでいってくれないか?』」
…。
「お前一人だけでも、いや一人分でも、その心が持ったやつが、誰かとともに生きているだけで。【きっと】何かが少しずつ変わる…と俺は思っている。
一人一人がそう思うこと、それがおそらく進むことのできる数少ない手段だ。」
これがテグラが言っていた、善とも悪ともとれる願いの正体…か…。
▽▽▽▽□□□□
「………………報酬…。報酬は?なんだ。その願いの報酬は…。」
「…あえて俺ができることを言うのであれば。
サイム…お前に、俺が死ぬ直前に素顔と本名くらいは教えてやる。」
「……じゃあソライのまねごとをして追加報酬を求める。
俺の新しい願いを叶えろ。」
アルゴニックへ向けて少し笑い人差し指を突き出す。
「…なんだ?」
「『みんなを、俺達がヨボヨボに老いてもずっと見守っていてくれ。』
ずっとだ。お前が死ぬまで。
…だから俺が寿命で死んでも、その面を見せるな!
俺より長生きをして、生きているうちにその顔を見せるなよ!
互いが踏み外しそうになったら互いを守り。互いを信じあおう。
その顔を見せないために!明日を笑いあうために!どんなことがあってもだ!」
「……わかったよ。」
「「その依頼承った。」」
「また一緒にやり直そう。
一緒にやり直してそしてもう一回旅をつづけるんだよ。
今度は誰もが幸せになるような、そんな旅をさ。」
「ああ、ありがとう。」
▽▽▽▽□□□□
俺らはそのまま家路につく。夕日の中。
「そういえばさ、ニッちゃん達にはどうやって説明すんだ?ユウジとかカンカンに怒ってるだろう。」
「ああーめんどくせぇな。もう二人で土下座でもなんでもすりゃあいいんだよ。
つーか、お前。その腕なんだよ。」
俺はこいつの異形の腕を指さす。
「あー。俺の種族言ってなかったっけ?
俺はな、『人間と道具のキメラ』なんだよ。
哲学的にいうと道具でできた【スワンプマン】だ。」
「スワン?白鳥?」
「違うぜ、スワンプマン。詳しくは、また近日中だ!
後日話そう。今日は疲れた腹も減ったし。」
「おう、そうだな『アル』。」
「略すな!」
こいつもいつも通りの幽霊っぽい姿に戻り、二人で我が家に帰る。大切な日々へと。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「入るぞ!」
「おう!」
玄関前…
「「ただいまー!!!」」
俺たちが入ってきた瞬間。ワンルームの、みんなが顔を上げる。
なにせ、二人でスライディング土下座しながら入ってきたからな。
「サイムさん!!アルゴニックさん!!」
ニッちゃんが飛びついてきた。
「うわっと!」
俺たちは顔を上げると同時に、後ろに倒れる。
「いててて…」
「もう!心配したんですからね!!!」
「ニッちゃん落ち着いて…」
「ほら、ニッちゃん、僕の言った通り案外心配しなくても、
二人ともひょっこりと帰ってくるって。まさしくその通りだっただろう。」
「ソライさんの言う通りでした。」
「おい、最低の馬鹿ども。」
「ユウジ。さっきは…ごめん。」「申し訳ない。」
「いや、オレも出て行けとか言って悪かった。」
三人で謝り倒す。
「いやいや俺たちだって悪かった。
お前の作ってくれた飯に、ニッちゃんやハナビを怖がらせてしまった。
悪かった、みんなごめんなさい。」
「みんな、本当にごめんなさい。
俺も白熱しすぎた。」
許してもらえるだろうか、と少し不安に思っていると。
そんな不安が無駄だと言わんばかりに照れくさそうにユウジが話す。
「なぁお前ら、とりあえずさ。
ソライがさ、お前らは絶対に帰ってくるってうるさいもんだからさ。
絶対泣きつかれて腹がすいてるから、なんか準備しとけっていうことで。
ちゃんと料理しておいたんだ。
よかったら、食べないか?」
ソライナイス。二人でそう思う。
「お、いいね。」
「そうだな。腹も減ってきたし。飯にするか。」
「だな。」
「ちなみに今回はハナビが手伝ってくれたんだよ。」
「おお、ハナビ、えらいぞ!」
「えへへ、ユウジさんが細かく指示してくれたおかげで私も料理できたよー!」
「あんたたちすっかり元通りね。」
「おう、元以上だ。」
「ああ、改めてこれからは依頼人の立場としてではなく、
仲間として、この旅に加わらせてくれ。」
「おうよ!」
「さてと、飯だ!」
「ちなみにユミは全く料理できませんでした。」
「ユウジ、それを言わないでくれる?」
「あっはっはっは!」
俺達みんなで笑う中。ユウジが台所に行き。買ったばかりであろう、土鍋を取ってくる。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「で、え~~っと結局、今日の飯は?」
俺がそう聞くと土鍋が開かれ。口をそろえて笑いながらこう言った。
「「「「「すき焼き。」」」」」
…………そういえばアルを見つけた、あの塔にいた時。
一番食べたかったものが『すき焼き』だったなぁ。
いろんな具材が並べられた『一つの鍋』。
一つの土鍋をみんなで囲む。食材を取り合っても和気あいあいと笑いあう食卓。
――ようやく…ありつけた。
こうして俺たちの旅に七人目の仲間、
この旅の最後の冒険者、アルゴニック改め、アルが加わった。
そして01と書かれたバンダナの数字は
いつの間にか始まりを意味する文字【一】に変わっていた。
▽▽▽▽▽▽▽▽
――後日。今回のことを踏まえて、俺らみんなで社訓を一人一人、書きあった。
冒険社社訓
一つ、俺達は仲間だ。隣にいるのは大切な存在だ。だから互いを裏切らない。
一つ、思いやって行動する。互いがいる限り未来がある。分かり合い信じようとする。
一つ、ここに限らず困っている誰かがいたら、できるだけ手を差し伸べること。
一つ、哀しいことや嫌なことは相談すること。急いで乗り越えず慌てず見据えること。
一つ、間違ったことを起こしていると思ったら殴ってでも止める。
一つ、壁にぶつかったり誰かと争うなら、みんなの心を一つにして。
一つ、明日をともに笑いあい、輝かしい日が来るように歩んでいこう。
▽▽▽▽▽▽▽▽
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~ノヴァアージ知恵袋のコーナー~
~アルゴニックは…………自己矛盾を抱えて生きて…いるぞ!~




