第8話その8『ユミ先生と原罪:レイシスト』
※この『物語』は『フィクション』です。
※それなりに『光を探す』気持ちで読んでください!
黒い幾何学模様の顔に黒い服、黒いフードの人物は悠然とした態度で、俺らの前に座ってコーヒーを軽く飲む。
「サ、サイム。」
ユウジがそんな俺を叩きひっそり聞こえる声で話す。
「黒い模様の岩流人はまずい。」
「は?」
「原初、始祖。始まりだって、じっちゃんが言ってた。」
始まり…?
「ああ、これね。君も同族だね。
確かに私は、君の始祖でもある。君らはずいぶんと模様も薄くなったし、形がいびつにがなったねぇ。仕方がないとはいえ、ちょっと呆れるよ。」
…こいつ。さっきから目を合わせてない。俺らを見ていない。
だが、なんだ??この異様なプレッシャーは。
それにさっきからユウジが変だ。ずっと震えている。
「…なぜ、その模様が。」
「まぁ昔、いろいろと『食われたり』。あったからねぇ。」
「く、食われた??」
「まぁそこの君、同族なら種族的に感じているだろう?
私が言うより君が言う方がいい。彼へ助言してみてはいかがかね?」
ゆっくりとユウジへと手を伸ばしてリギョクは助言を促し、ユウジはちらっと俺は見て冷静に問いただす。
「なんだ?何を感じているんだ?ユウジ。」
「…か、格の差だ。種族的に人種的に。『この人に勝てない。』
サイム、絶対に喧嘩を売るな。多分、意志を見せた時点で死ぬ。
『黒色』は大昔、存在していた岩流人の始まり。今はもういないはず……だった。
今日この目で見るまでは。
戦闘をすれば1つの国を、1人で滅ぼすことができるってじっちゃんが…。
正確にはじっちゃんのじっちゃんが言ってたらしい。」
「…」
――…ユウジは聡明だ。今の言葉で場が張り詰めた。
おそらく俺達は、即死級ダンジョンの数倍危険な場所と状況にいる。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「にしてもよく着たねぇ…。
正直、呆れるほど陳腐な面々だ…。
我が『不肖の娘』に、
『劣等たる同族』、
それに……『あのクソ犬』の出自に、
裏切って狐に仕えた『あの鬼の子孫』か…。面白いね。
長く生きていると、こんな多人種の滑稽な組み合わせを見るとは…
…まるでかつての、『生き写し』のようだ。」
リギョクは俺達に目をようやく合わせ始める。
なんだ…こいつ…。
ソライは睨みつけるように、目を細めてなぜか尻尾を立てて警戒しているし。
ユウジはまだ震えているし。ハナビと先祖を言い当てられたニッちゃんは困惑しているし
それに生き写しって何のだ?
「そして…。
…
……え…。」
ここで、リギョクと始めて目が合う。
リギョクは俺の顔をじっと見つめ驚いたような表情になる。
「ちょっと君………まさか…。
…………このようなことがあるのだな…。」
リギョクはまるで幽霊を見た。ありえないといった表情だ。
そして不気味だった顔からはじめて人間らしい表情をした。
「まさか…解答権限の持ち主が…あのお方と…。
そんな馬鹿な…。
…いやいや…
……そんなはずはない。
でも…まさか、君は『キジタケ様』に近しい人物か?」
リギョクは俺の眼をじっと見つめる。
『キジタケ』??誰だそいつは…??聞いたことがない人物名だ。
「キジタケ?俺は武山冒険社の社長、武山才無だ。そんな名前は聞いたことがない。」
「………そりゃそう…か。
失敬。遠い昔のあるお方に、あなたの顔がとても似ていたものでね。
近しい人物と思ったのだが…。」
「そ、そうか。」
どうやら他人の空似らしい。世界には自分の顔そっくりの奴が3人いると聞く。
そういうこともあるのだろう。
…だが、どこか安心感を覚えたのはなぜだろう??
▽▽▽▽▽▽▽▽
「…俺たちはあんたに用があって、遠路はるばるここまで来た。」
「当ててみせよう。ここに来た理由は主に三つ。
一つ、ロボットたちの暴走の原因を突き止めるという依頼の報酬を要求しにきた。
二つ、警察に潜入している部下が戦争を起こそうとしているから止めにやってきた。
三つ、私の持っている超越の歯車イータを求めにやってきた。
あってるかい?」
「ああ、あってるぜ。話が早くて助かる。」
「まず一つ目の依頼の件だが…」
さて腕の見せ所だ。できれば30万円くらいほしい…。
「ここまでの旅費と、50万円を渡そう。」
「は?」
「今なんて…?」
「おや50万円じゃたりないかな?じゃあ100万円を渡そう。
私の娘であり、貴重な実験サンプルが逃げ出したとなれば、それくらいあるといいだろう。
まずは、前金の50万円を渡しておく。」
リギョクは懐から金が入っているであろう紙袋を、ポンと机の上に置く。札束が袋から漏れ出している。
思わず生唾を飲むほどの大金ッ!
「わかりましたァァァ!ぜひ、それで引き受けさせていただきますッ!!」
やべ、思わず俺は二つ返事で請け負ってしまった。
しかたがねーか!
…だって100万円だぜ。旅費まで負担してくれるし!
いくらでもがんばれちまうよ俺ッ!ここまで来てよかったぁ~!
「ついでに言おう。あの日、ロボットが消えた日のことを…」
「お師匠様。あの日のことですね。」
▽▽▽▽▽▽▽▽
「あの日は私とユミ君で新しいロボットを起動する。そんな日だった。
だがそのロボットが突如暴れだし、多くのロボットたちを攫っていってしまったのだ。
そのロボットは3125号。元凶である彼女を捕獲できたら残りの50万円を渡そう。」
「な…」
つまりハナビの妹が、姉を改造して、ハナビを追い回して歯車を求めている??
なんだ、その奇妙な構図は。
「あの……攫われたロボットたちは何者かに改造されて、
『超越の歯車』を何故か集めているんです。」
「……超越を求めて…。…そんなことをするのは…。
…やはり《奴ら》か。…まぁそうなると、昔と状況は酷似してるか。」
「あの知ってることがあるなら、教えてくれませんか?」
「……いや、教えないよ。いずれ知るだろうし。私は意地悪だからね。」
「お師匠様はめったに全部の情報を出してくれませんよ。基本あいまいです。」
「えええーーー…」
下手な交渉して『命』を取られるって考えたらあまり深い入りできないな……。
「さてと次に私の部下が戦争を起こそうとしているだったかな…?」
「ああ、そうだ。それを」「無理だね。」
え……。
「どうして。」
「では聞きたいのだが、例えば君たちは自身の血管に通っている、たった一つの白血球のみを自身で意識して制御したことはあるかね?」
「いや…ない…けど……。」
「それと似たようなものだ。」
…?
「その警察の人物が例えば『私に憧れた』人間だったとしよう。
君たちにはあまりピンとこないだろうが、勝手に戦争を起こそうというものは、『大罪の中で私一人』が言ったところでどうにもならない。白血球が細菌を自動的に攻撃するのと同じようにね。」
「それでも!ここで逮捕さえすれば…!」
「……逮捕ねぇ…。…サイム君。」
なんだ??空気が少し変わった??
プレッシャーだったものが氷のように凍てつき、鋭くとがったナイフのように感じる…。
「…社会を狂わす側の『悪党』を前に…何、程度の低い、出しゃばった発言をしているのかな?」
「ッ…。」
…このままだと殺される。このわずかな間の息が持たない。
『悪党』としてのリギョクの踏み入れてはならない領域へ、片足をつっこんでいる…。
『秩序を守る善』である警察とは完全に敵対関係にあるということだろう…。
ムッチーの言っていた話を聞いてくれるような人物ではない…のでは?
そして『さっきの例え』から、リギョクもスパイを『把握していない可能性』が高い……。
「はい…。」
「ありがとう。聞き分けのいい子は素晴らしい。
もし仮に私が止めたら、友人の『憤怒』がその人物を拾って、より成功確率の高い作戦を遂行するかもね。」
どうしよう…気持ちばかりが焦る。
このままだと東協都とか大傘とかで爆弾が爆発して、戦争状態になる…。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「さてと、歯車のことだがこれはあとで語るよ。まだ話すべき『時間』じゃあないんでね。」
時間??すでに状況がまずいとなっている現状で何の時間が…。
「…少し雑談をしよう。サイム君、腕に巻いたそのバンダナを見せてくれないかな?」
「え、ああ、はい。」
俺は自身の左腕に巻いた赤いバンダナをとりリギョクに見せる。
俺のバンダナがどうかしたんだろうか?
「これはどこで?」
「このバンダナ俺が、赤ん坊のころ孤児院に捨てられたときに、くるまっていたモノなんすけど。なんか中学卒業以来、01って見えるようなシミできちまってて。」
「……ふむ。やはり、これは【Id】の証だね。しかも01か…。」
リギョクは少し驚いた表情になる。
Id…確か@が去り際に、どうたらって言ってたような…。
「このバンダナがどうかしましたか?@も同じこと言っていた。その【Id】ってのはなんなんですか?」
…俺の生まれたころから辛苦を共にしたバンダナが何か関係があるのだろうか?
「いや、バンダナ自体は問題がない。ここでこれを燃やしても消えるわけじゃなく、君の大切なものの別の場所に表示されるだけだ。
サイム君は@…ウプシロンに会って、戦ったというならその時、不思議なことが起こらなかったかい?」
「…起こったけ?」
「サイムお前覚えてないのか?@の体が途中から溶けたりしたような…」
「そういえばあれはなぜか@本人も、驚いていましたよね。」
「ああ、そうだそんなことあったよな。」
そういえばノーツーが来る時だったか?@の身体が一瞬ぐにゃりと、歪んだように見えたのは…。
あの時のは幻覚じゃあなかったんだ…。
「へぇ…」
「なぁリギョクさん。Idって一体何なんだ?そのバンダナと何の関係が?」
…この人、情報を出すわりに中途半端に出すから気になることが多すぎる…。
だが聞いておかないと少しでも今後の役に立つためなら。
願いのためなら、聞いておかないと…。
その言葉に対して帰ってきたのは予想だにしていない言葉だった…。
「……君は覚えていないのか??」
「……へ??」
覚えていない?いつのだ…?
「文字のことを。バンダナに数字が浮かんだ時のことを。
目の中に文字が浮かんだことを。【あれ】との契約を。
……君は忘れてしまったのか?」
「え??」
なんだ??…なんのことだ??後悔した何かを忘れている??
……何かを俺は忘れている。…『何か』があって俺は【何か】を忘れている……。
「まぁ別に不自然じゃあない。
だけど、【あれ】に選ばれた君は【了承】してこれを手に入れたんだよ。
絶望の象徴、私や君が後悔の果てに、手に入れた【不平等で数少ない見返り】を。
君は手に入れてたんだよ。」
「【見返り】??」
「…少し私のをあとで見せてやってもいいかな。
ただそれが何なのかは、本質を君自身が【思い出】して【何】であったのか?
本質を『言葉』ではなく【体験】をしないと【Id】は何も意味をなさないよ。」
忘れてはならない重要なことが。何かあった気がする。
…なんだ?
【……】
「…Idが何なのかっていうヒントとかは…?」
「二つヒントを渡せるとしたら、
まず一つ目、Idは君が最も強く抱いた考えや感情を基準にしているものだ。
Idが何なのかを【自分が何であるのかの基準】を思い出さなければならない。」
「基準…?」
@を倒した謎の現象は俺の何かに関係がある…のか?
「そして二つ目、それ以上を知りたければ【扉】を開けばいい。
『オヨン・ルプルドゥ・アルゴニック・フィクショナライズドラマチスト』が、
《ヤツ》とともにこの世界に封印し、彼がひた隠しにしている【真実】がある【あの扉】の先へ進み奥にいる【超極】のもとへ向かえばいい。」
ヤツ??……超極??
「まぁそこら辺のことはアルゴニックに聞いておくれよ。
私はもう二度と【超極】に会いたくないんでね。」
「……………アルゴニックが何か知ってんだな…。」
「ああ。」
どうやらあいつは何か俺たちの知らないことを知っているらしい。
▽▽▽▽▽▽▽▽
少しリギョクから得た情報を得た順に整理しよう。
1、ロボットたちの暴走の原因は新しいロボット3125号に原因がある。
新しいロボットがハナビの姉をさらって改造した…目的は不明。
2、警察の協力は得られないし、警察内部のスパイ…いやリギョクの信仰者は止められない。リギョクは警察と敵対しているから逮捕に非協力的だ。ムッチー曰くこの都市以外で爆発がおこって戦争状態になる可能性がある。
3、Idという@との闘いに起こった謎の現象??はどうやら俺が忘れている【何か】とアルゴニックが知っている?らしい。@曰くIdが無ければ今後の歯車を入手できないとか言ってた気がする。
4、歯車に関してはなぜかまだ教えてくれない。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「…そろそろ時間だ。」
……そういえばさっきから無駄に時間を気にしていたな…。
……あれ…なんの時間だ??
「さて改めて歯車についてだ。『時間』が来たんでね…。歯車を渡すには条件がある。」
「条件?」
「『今から来る』であろう、《困難》を君たちの死力を使い、きり抜けられたら私の持っている破壊を司る歯車『イータ』を君たちにあげよう。」
「今から来る困難って?
いったい…」
「…5」
指を一本折り曲げるリギョク。
「4」
また一本、指を折り曲げる。
「3」
少しずつ廊下から音がする。
「2」
大勢の足音だ。
「1!」
リギョクがカウントダウンを終えると突如、ここの扉が大きく開かれて。
「警察だ!全員そこを動くな!」
怒声にも近い声で武装した大量の警官隊が、応接室の中へと押し入ってきたのだった。
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~ノヴァアージ知恵袋のコーナー~
~『ある嘘つき』は『Catch Me If You Can!!』と落書きし仕事を終えるぞ!~