第1話その1『危機開会の塔:来訪者』
※この『物語』は『フィクション』です。
※それなりに『始まりを歩む』気持ちで読んでください!
「2021年 7月28日のお昼のニュースをお伝えします。
東協都外周部、近辺に現れました。中型モンスター群の突然発生は、中級の冒険職ギルドにより結成された、冒険職連合によって退治されたとのことです。
冒険職連合を取りまとめたT級冒険会社『暴威軋轢社』の社長、ナヨさんにインタビューをしました。」
「いや~~危ないところでしたね。今回のスタンピートした種族は、主に大猪にそれの上に乗るヒトガタ系のモンスターが大半でしたね。」
今回のスタンピードの原因は?
「古代遺物が関わっていました。
モンスターの脳の交感神経に異常をもたらす古代遺物を偶然モンスターが起動してしまったのと、あとは環境じゃあないすっかね。我々では断定できませんね。」
「やはり近年の環境変化によるモンスターの凶暴化は目まぐるしく変わっていますね。もし古代遺物を見つけたら、お近くの交番か冒険職、鑑定屋まで持ってきてください。
続いてはスポーツニュースです… 」
あーー平和だねぇ。それでいて暇だねぇ。いやーいいことだ。暇と余裕があるっていうのは、実に気分がいい。
こんな平日の真昼間から、足を組んで、テレビでくだらないニュースを聞きつつ、クッソまずいコーヒーを飲み、だらだらできるってのは非常に気分がいい。
できればこのまま一週間ほど仕事を投げ出して、だらだらとしていたいところなんだが、今週金欠だしなー、遊ぶ金もなければ、生活する金もない。
俺は夏だというのに自分よりも一回りサイズのでかい赤とオレンジのぶかぶかの服を着て、
アームカバーの上にお気に入りの赤いバンダナを巻き、黒髪白いメッシュの長髪の隙間からあまり掃除されていない窓から街並みを眺めつつ散らかったきったない部屋の中で、
こんなどうでもいいことを、考えるくらい俺の今は平和である。
ズズっとコーヒーを飲むが…
まだ少し苦いなぁとちょっと思う。
俺はコーヒーの入ったカップにミルクを落とし、手を『かざす』。
物の数秒であら不思議、コーヒーとミルクが完全に混ざってる。
別にスプーンで混ぜてるわけでもないのに、手を『かざす』と
なぜか混ざってるのは、俺もよくわからない。
俺はずずっとそれを飲み干し。一息つく。
でもこうやってだらだらするのも、そろそろ飽きてきたな、最近、何も面白いことやってないし、なんか面白いこと起こんねぇかな?
趣味の野球観戦は特にめぼしい試合ねぇし、バスケは補欠だから特に呼ばれてないし仕事はやりたくないけど金はないし。そもそも役所は出禁になったばかりだし…。
ピンポーン!
ん?おっといいタイミングで、チャイムが鳴ったな。
「はーい今行きまーす!」と返事してドアへと駆け寄る。
仕事の依頼だろうか?それともなんか怪しい宗教の勧誘だろうか?
自宅に事務所があるってどっちかわかったもんじゃないから、こういう時に紛らわしいから面倒なんだよな。
玄関ドアを開く。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「こんにちは、『サイム』さん。」
そこに立っていたのは背丈が中学生くらいの体躯でややくせっけが強いオレンジ色の髪の毛を後ろにくくり、服装は髪の毛と同じ色の肩だし半袖に
大きな結んでいないリボンを留め具にしたスカート。
赤い眼鏡をかけ、そしてかわいらしい角を生やした『鬼』の少女だった。
『鬼』というのは、この国に住む種族で、とてつもない怪力を持つ種族だ。
この少女もすでに、成人男性以上の怪力があり。何度殴られたことか。特にブチぎれるとすぐ手を出してしまう悪い癖をこの子は持っている………誰に似たんだか………。
「何、ぼけーーっとつっ立ってんですか?早く事務所に入れてくださいよサイムさん。」
「あーわりぃわりぃ、もし『ニッちゃん』を小説風に紹介するんなら、どう紹介したもんかと、悩んでたところだ。」
「『また』、妙なことを。で、どんなふうに私を紹介するんですか?」
「そーだな。草島 日、通称ニッちゃん。武山冒険社のアルバイト。
性格はくそ真面目。委員長気質。以上だ。」
「簡潔すぎませんか?」
「だってそーとしか俺には表現できねーもん。中卒の語彙力舐めんなよ。」
「まだ小学生の読書感想文の1ページ目の方が語彙力はありますよ。
では今度は私が言いますね。
あなたは武山 才無、22歳独身男性、種族は人間
冒険職最底辺の『武山冒険社』の一応社長で、めちゃくちゃな解決策ばかりをする人。だけど地域からの信頼は厚い(悪い方面でも)
性格はダメ人間、変人。人を巻き込む天災。
好きなものはスポーツ全般だけど、基本的にまともな考え方をしないので、審判から疎まれることもしばしば。
それから………」
「ストーーーーーーーップ!!いろいろと傷つくからやめて」
この子に言われると割と傷付く。
「先々月の分をでしょ!」
「ぐっ!?それを言われると何とも言えないぜ…。」
「大体サイムさんは、無茶が過ぎます!
春にお花見をしたと思ったら桜の木に擬態してた
小型のドラゴンに襲われて借金が増えるし!
夏に海水浴に遊びに行けば、クラゲを退治しながら、魚の大群に食べられかけて、
秋には借金取りに大鹿をけしかけられて、町が追いかけっこでめちゃくちゃになって、
冬には泥棒に確定申告の入ったカバンを奪われて巡り巡って泥棒の報奨金や道中で倒したモンスターや発見した宝箱で
結果、税金増えて書いた役所にミミックをもっていって『出禁』なんですよ!
めちゃくちゃですよぉ!」
いや、まぁー…冬の件は…悪いことばかりじゃなかったし…。
「まったく、とりあえず中に入れてください!!こっちは外歩いてきたんで暑いんですよ。」
「はーい。どうぞー」
そういって事務所にニッちゃんを通す
▽▽▽▽▽▽▽▽
事務所の冷凍庫を開けて意気揚々とニッちゃんはアイスを探す。
「えーっとアイスアイス、サイムさん、私のアイスどこにやりました?」
「奥のほう探してみ。」
「あったありました。」
ニッちゃんは冷凍庫からラムネ味の棒付きアイスを取り出し、事務所の服が脱ぎ散らかしたり、ごみが置いてあるソファに腰掛ける。
事務所…といっても自宅でもあるし、集合住宅地ということになっているが、まぁこの家は貧乏ながら一応、『買った家』だ。
広さはワンルームで17畳半くらいだったけ?
キッチン、風呂、シャワー、押し入れ付き、事務所も兼任しているが客は来ない。
掃除はたまにする程度。(おもにニッちゃんが)
あ、一応だがちゃんと来客デスクあるけど、食器が洗ってなかったり、押し入れのふすまが破れてたり、ポテチと靴下はそこに転がっているが!
この家はワンルームで男が俺を含めて二人住んでいるので、生活感満載でおっそろしく汚い。今日、来たのが初見のお客様じゃなくてよかった。
屋上にも一室、8畳程度の部屋がある。
屋上には、ほかにも物干しざおや、隅っこに俺のお気に入りの小さいデスクがあり、昼寝にうってつけ(晴れに限る)だが、夏に寝ると蚊がわくのでお勧めしない。
少し話題がそれたな。閑話休題。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「にしてもなんで、私がいない間にサイムさん達は、この家を瞬間的に汚くできるんですかね?
私、この事務所には毎日通っていますが、掃除しても掃除しても汚くなる空間なんて聞いたことありませんよ。」
「いやーそれほどでもー。」
「ほめてませんよ。っていうか、事務所が異様に汚くて生活感満載だから、この会社には依頼が来ないんじゃないですか?」
そんなことを言いながらニッちゃんはアイスをおいしそうに食べてる。
ラムネ味好きなんだろうか?
いつもラムネ味のアイスを我が冷凍庫にストックして、俺らに奪われないように包装に名前と番号まで書いてしっかりと管理されている。
ご丁寧なこった。
ついでに俺も冷凍庫から自分のアイスを取り出す、バニラ味のカップアイスだ。
アイスの冷たい触感が舌を伝わり脳が幸福感に満たされる。
「アイスを食べるってことは飯は食ったか?」
「ええ、ご飯は食べてきました。かつ丼でしたよ。」
「かつ丼を食べれるとか羨ましすぎる。」
「サイムさんは?」
「蕎麦だよ。出前して『あいつ』が値切りまくった。だからほぼ無料だ。」
「また変な依頼を受けないでくださいよ。
蕎麦屋さんの依頼は工夫をしないといけない長期物が多いんですから。
学校の合間にアレを受けるのは厳しいです。」
やれやれ…地元の顔なじみの依頼もだいぶ予測されてるなぁ…
「…ところでニッちゃん、学校はどうした?」
ニッちゃんは中学生サイズの低身長だが、実は高校2年生だったりする。
俺からしたら中学生料金で美容室とか行けて、便利そうだと思うのだが本人はそうはしたくないらしい。
「今日が終業式でした。明日から夏休みですよ。」
「いいよなー学生は。」
「依頼がなくて万年夏休み状態の、サイムさんが何言ってんですか。」
とニッちゃんが小突く。
「でもギルドからは前回の仕事の失敗で、出禁食らっているから依頼を受け取りに行けないんで、情報屋からは碌に金になりそうな依頼を受けれないし
実際俺ら今、ピンチなんだわ。」
「なんで、冒険職ギルドから出禁食らうのか、はなはだ疑問です。
まぁ私もお給料が払われないのは困りますし、そんな金欠のサイムさんを、見越していいものがあります。」
そういってニッちゃんはアイスを食べ終わると、ポーチからチラシを数枚取り出す。
▽▽▽▽▽▽▽▽
「なんだ、激安スーパーのチラシか?」
「違います。これは冒険職ギルドで配っていたチラシです。
下校中にちょっと寄っていき、とってきました。」
ニッちゃんは仕方がないな、という表情で数枚のチラシを広げる。
「ギルドのチラシって…
たまーに、健康診断とか町内の情報誌とかと一緒に置いてある
あの『誰でも受けられる依頼』的なアレ…?」
「ええ!アレは、職員が足りてないとか、もろもろの理由で未処理の依頼って聞いてたんですよ。
山積みになっていたのをかっさらってきました!」
「なるほどな。ニッちゃんでかした!
ギルドを仲介しない、依頼なら高額依頼も紛れ込んでる可能性も高いな!」
「ええ、もしかしたら、労働以上の金額のいい依頼が紛れ込んでいるかもしれませんし、見てみる価値はあると思います。」
▽▽▽▽▽▽▽▽
そういって俺達がチラシとにらめっこして数分後
「だめだぁー!!!!!どれもこれも小遣い稼ぎ程度の依頼にしかならねぇし~
全部、つまんなさそうだ!」
そりゃそうだ。そういう金になりそうなのを率先して処理してると思う。これは余りだ。
「サイムさん、そうも言ってられない状況わかってますか?
このままいけば電気とかも止まりますよ!」
「でもよー何だこのどうでもいい依頼の数々、草の除草作業の依頼1500円、猫の捜索依頼2000円とか、普通にバイトしたほうが金稼げるぞオイ!」
俺ら冒険職は依頼をして稼ぐ、ダンジョンを攻略して稼ぐ。
もろもろの手段はあるが、長期バイトで稼ぐ冒険職は同業から
かなり白い目で見られる。
『フリーターの仕事を奪ってる』とかで地域に根付いている俺らにとって、まぁまぁ信用にかかわるからやりづらい。
「確かに安すぎますけど…」
「それに、このアタッシュケースを指定の場所まで運んでくる依頼とか、明らかに犯罪の匂いがすんだけど、大丈夫か?冒険職ギルドォ!」
「だから未処理なんでしょ。」
まぁその通りである。
「で、ですがこのままいけば、本気で生活できませんよ!
私のアルバイト代だって数か月間滞納しているでしょ!」
「ぐっ…。」
「あーそうだよなー…ニッちゃん、依頼って本当にこれだけ?」
少し声が上ずったまま質問してみる。
「ちょっと待ってくださいね。」
ニッちゃんがポーチを探る。
ニッちゃんのポーチは見た目より大きいようでけっこう奥まで探っていた。
「あ、まだ1枚ありました。」
もう、その1枚にかけるしかないようだ。
あーどうか金になりそうな依頼で、面白そうな依頼でありますように…。
ニッちゃんが紙を広げる。
「ん?何だこりゃ?いつもの紙とは…。
あー、どうやら依頼書の中に紛れ込んでいたみたいですね。
町からのお知らせです。」
「一応読んで、もしかしたら儲け話につながるかもしれん。」
イベントとかだったら頼み込んで露店を開く。
モンスターの素材が高騰しているなら狩りに行く。
税金関係だったら控除を調べる。
ならず者の情報だったら調べて捕まえて賞金にする。
わが社には金がないのだ!!
▽▽▽▽▽▽▽▽
「えーっと何々?
初心者用ダンジョンとして名高いメイジダンジョンにて秘密の通路見つかりました。」
その安っぽい再生紙に描かれていたのは依頼ではなくご近所のダンジョンで、秘密の通路が見つかったという内容だった。チラシにはでかでかと、水晶が出土品として見つかったと載っている。
メイジダンジョンってのは確か何千年前に建てられた塔型のダンジョンだったな。
まだ最上階には登れた人はいなかった気がする。
隠し通路がわからなかったからいけなかったのか…
場所もそんなに遠くない…。
これはもしかして…。
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~サイムは役所とかで漢字を聞かれたら『才』能の『無』限大と教えるぞ!~