あれから
――2022年4月3日 日曜日
旅1日目
主観変更side_ニッちゃん
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朝が来た。
あれから7か月が経ちました。
思えばいろんなことがあった日々でした。
冒険が終わったというのに毎日が楽しくて驚きの連続で、
ただただ馬鹿みたいにはしゃいじゃって。
そしていろんな心に触れた日々でした。
今日はみんなにさよならを言う日です。
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今に思えばエイドスドアルームから脱出するのも、てんやわんやで
アルさんが脱出時に宣言通りマンガを回収するのに時間がかかったり
いざ脱出するときに箱舟まで間に合わないから空間を転移したら、
失敗してメイジダンジョン脱出時と同じように空中に放り出されたり。
どこに落とせばいいって迷いに迷った結果、国の地図が変わったり。
私達が戦っている間に世界を滅亡させるカウントダウンを止めたのは結局、万歳ストームさん達で…。
タマシイさんに一杯食わされて、冒険社は利益はほとんど無しだったり。
いろいろと合ったけど無事に生き残れて万々歳でした。
そしてそのあとが本当に大変で楽しい7か月間だったけど…
今日がその終わりの日です。
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「おーいニッちゃんー!」
あの人の呼ぶ声がします。
「はぁーい!」
私は身支度をして玄関まで急いで行きます。
もうここともお別れです。
「おじいちゃん行ってきます。」
「いってらっしゃい。いつでも帰ってきていいんだからの…」
「はい!」
「…頑張るんじゃよ!」
「はい!それじゃあまた。」
「またの。」
おじいちゃん。いつかまた帰ってきます。
一人にするのは少し不安だけど、復興へ向けて
気合入ってたし大丈夫でしょう。
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………玄関を出ると春の香りがする。
建て直し中のプレハブ小屋の前には彼が待っていました。
「おまたせです!」
「ソライ曰くみんな集まってるってさ。残りは俺らだけ!
さ、ニッちゃん!ダッシュだ!」
まったくこの人は…
「もーぅ!そんなに急がなくってもいいじゃあない!
私のデートの時は遅れてきたくせに~!」
私はちょっと膨れる。
デートは最初から最後まで楽しかったけど………。
「悪かった!ごめんごめん!さ、行こうぜ!」
「はーい…。」
………私は少しチラッと顔を見る。
彼は白髪と黒髪が混じっていて、旅のころより髪が少し短くなりました。
ただ、あのころと変わらない………いやそれ以上か…。
今日もとても気分のいい笑顔をしています。
私は歩く彼の袖を引っ張ります。
「…ん?どした?」
「………おんぶしてほしいな~…って…。」
「え?」
「別にいいでしょ?サイム君普通に力あるんだし~…。」
「お、おう…。」
サイム君は腰をかがめてくれる。
「えい!」
「どわっと!?」
私はそれに甘え勢いよく飛び乗る。
ここ7か月間で私の敬語は彼と二人きりの時だけ無くなっていた。
みんなといるときはさすがに恥ずかしいから昔のままだけど。
あと彼氏なので君付けで呼んでいる。
初めは二人ともどこか恥ずかしかったのだけれど、流石に慣れた。
ちなみに二人きりになると基本、私はこうやって甘えられるようになってきた。
だって背中大きいし、意外にかわいいところあって思わず甘えたくなっちゃうんだ。
私はサイム君におんぶされて右手を上げる。
「さぁ!レッツゴー!」
「へいへい!」
私は復興中のショーワ町を横目におんぶされ行く。
甘えられて、なおかつみんなの元までいけるのはとても楽しい。
主観変更side_サイム
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「おまたせー。」
「すいません、いろいろと準備に手間取っちゃって…」
トーキョーの郊外、大きな木がある場所までやってくる。
小高い丘に一本の木…かつてエイドスドアルームの影響で自宅が吹っ飛ばされた場所だ。
すでに家は片付いており、小さなくぼみがある程度だった。
あの時は暗かったけど、結構見晴らしがよかった。
「遅いぞ!」
「おいおい!主役抜きで行くところだったぞ!」
「第一こいつは、ニッちゃんとのデートまで遅刻してくる大馬鹿野郎だ!」
「サイッテーです~」
「え、俺そんなに悪いことした?」
「間違いなく悪いことした!しました!!」
「お、おう。」
「あはははは!!」
大きな木の周りには今まで関わってきたみんなが集まっており。
俺は遅れたことを適当に詫びつつ。みんなのもとへ行く。
あといい加減おんぶしているニッちゃんを降ろす。
おんぶ中、色々なものが当たったり、うなじあたりにキスしてきたのは流石にドキッとした…。
「本当に…行っちまうんだな?サイム。」
ユウジが訪ねる。しっかり左手の薬指に指輪をはめて、あの頃より少しフォーマルな服装で。
「ああ、もっとこの広い世界を見てみたくてな。
それにどうせなら、世界を旅をしていたらいつかきっと、
もっとでかい夢が見つかるかもしれない。
ヒトメを生き返らせるとか、読者世界と行き来できる方法があるかもしれないし。まぁもっとやりたいことを見つけてやる[[新しい旅]]だ。」
「海外へ、夢探しの冒険です。」
あーそうそう、ニッちゃんはメガネを外した。言えばかけてくれるが…。
そしてボサボサだった髪を短髪にしたり色々とこちらもイメージチェンジした。
「ニッちゃんも行っちゃうのよね…」
そう言うユミはまぁ…そろそろ妊娠七か月だ。この前見た時よりだいぶお腹が大きくなったのか妊婦服を着ている。どうやらユウジを結構こき使っているらしく二人とも楽しそうだ。俺らもたまに家事とかの手伝いをする。あとこっちはメガネをかけている。
「ええ、私とソライさんはサイムさんについていきます!
まぁもう私も学校中退して覚悟決めましたし!」
「だってこいつには僕らがついていかないと本当に馬鹿で、
値切りの交渉さえもできやしないんだから!」
ソライは俺らと同じ旅装束に着替えて準備万端だ。
聞いた話だと、途中までは俺らと一緒に旅をして途中から別れるらしい。
流石にカップルに挟まれてずっとはいかないとのこと。
「馬鹿はよけいだ。」
「そしてユミと俺はめでたく二人で結婚したし、
ハナビも姉妹で暮らすことになった。
アルは…」
「俺は絵描き一人旅。この世界のいろんなものを描いていこうと思ってる。
たまにお前らに会いに行くからな。覚悟しとけよ。」
アルは二人から一人になった。
一応、種族的に創造主って分類らしいが自分自身でも何の種族かもわからないらしい。姿は仮面が少し変化して服装はパーカーを着ていた。
「にしてもお前ら、本当にこんな願いでよかったのか?」
アルはあの旅の最終的な目標について尋ねる。
「オレはお前からもともと金が欲しくて旅を続けてきた。
だから今や小金持ちな俺らには、特にこれ以上要求するもんはない!
あえて言うなら、商売をこの金を元手に頑張るんで『運』の歯車をたまに貸してくれ。」
欲張りなユウジはそう言って笑う。
「あたしはユウ君といられればそれでいい、だって未知なことだらけだもん。
これから先、このおなかの子にもいろんな不思議を分けてあげるんだ。」
「ヒューヒュー!うらやましいぜ全く!ちきしょーめー!!」
ユミはこっからが大変そうだけどな。
「ニッちゃんは目を治したんだよな。」
「はい。これから眼鏡のメンテとかもできなくなりそうなので、目を治してもらいました。」
ニッちゃんの願いはさっき言ったように目の治療を。
今では視力が俺よりもいいらしい…。
「あと、ハナビはわかりやすいよなぁ…」
「えへへぇ~」
そこには目がパッチリなハナビがいた。
ハナビの願い。それは単純明快で、できるだけロボットっぽいメカメカしい外見じゃなく人間っぽい姿にしてほしいとのことだった。
ゴーグルを外し、金属がむき出しになった腕に人口の皮膚。
人間と同じように泣くことができる目と、『成長できる機能』を貰った。
ちなみに以前のロボとしての触手はまだ使えたりする。
今では身長も少し伸びたのか少しだけ大きくなったハナビは黄緑の目で笑う。
「うん!かわいい!!かわいすぎるよ!!ハナビちゃん!!
一生僕の心のフォルダに登録!!」
「ハナビはアルさんに涙を流せる目と、成長できるように体を改造してもらっただけで満足です。」
「ということは…いつかロリじゃなくなるのか…」
ソライ…気づいたか…。
「こいつ…ロリじゃなくなるとわかった瞬間ショック受けているだと…」
「なんだよ。アル!!くそ機能つけやがって!!」
「え、俺のせい!?
ハナビきってのご要望だったんだが…」
「えええええええええええええええええ!!
嫌だ嫌だああああ!!
ハナビちゃんはウルトラキュートなロリっ子がいいのぉ~~~」
「はいはい!駄々をこねない!」
子供の様に寝っ転がって駄々をこねるな…旅の前…お世話になったみんなの前でみっともない…。
「ふふ、ソライお兄ちゃんは全く本当に面白い人です!
あとこれからは姉妹たちと暮らしていくので一緒には行けません。
ごめんなさい。ソライお兄ちゃん。」
「いいさ。たまに頑張って手紙を書くよ。」
「そういえば、ソライの願いは何だっけ?」
「留守中のアニメの録画と、同人誌をできるだけ収集してくれっていう願いだけど。」
「うわぁ…ソライさんらしい。」
「うわぁーって何さ!重要なことだよ!とても!!」
おそらく他のみんなよりちょっと『重要』の意味合いが違う気がするぞ…。
「ソライに買ってくる同人誌のメモを渡されたんだが…
これ無茶だろ…って思うんだが…」
「もう一回二人に分裂すれば行ける行ける。」
「えええぇぇ…」
「こら、ソライ無茶言わない。」
………俺らはようやく願いへ一歩足を延ばした。
だから今日はその一歩目の別れだ。