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心を諦めない物語:ニッちゃん_このままで………。




 俺らが歩いていると…。

そこには彼女がいた。

俺のよく見知ったかわいい彼女。

長い茶髪を後ろにくくり、

小さな角。

かわいらしいほっぺ。

夕日色の瞳に。

赤い眼鏡。

オレンジのワンピースに緑のズボン。





 ニッちゃんがそこにはいた。





「…」

「…」

 俺らはずっと見つめていた。







「………ニッちゃん。」

「………サイム…さん。」

「やっぱりまだ反対しているのか?」

「………はい。正直に言うと反対しています。

でも、サイムさん…そんなことをしても止まらないでしょ?」

「ああ、止まるつもりはねぇな。これは俺らがやらなくちゃならないことだ。

ほかでもない俺らがやらなくっちゃならないことなんだ。」







「そう、言うと思いました。ですがやっぱり行かせたくはありません。」

「……ニッちゃん。」

 俺はニッちゃんに駆け寄り胸元に引き寄せる。





「え…サ、サイムさん!?」

「俺は死なない。お前が愛した男を信じてくれ。

俺らは必ず生きて帰る。

そして馬鹿みたいにまた笑いあうんだ。

屈託のない笑顔でさ。

ただひたすらにがむしゃらにここまでやってきた俺らが笑いあうんだ。

お前が愛した男はこんなところで死ぬような男じゃねぇだろ?

ニッちゃんの愛はそんなものなのか?

俺に告白してきた昨日の夜は嘘じゃないだろ!

だから、信じてくれ!」



 俺の言葉を聞いて腕の中でニッちゃんは悔しそうに震える。

少し目に涙がたまっているのか、必死にこらえる様だ。

「…でもッ!!でもォ!!!

さっき、サイムさん死んだじゃないですか!!

愛がなんですか!!

それであなたが生きて帰ってきてくれるんですか!?」



「頼むから信じてくれ!!俺だって君と同じような立場だったらきっと止めるだろう。

だけど、俺の言葉を信じてくれ!!

俺の想いを信じてくれ!!

お願いだ!俺を止めないでくれ!!

だから、だから…俺の君への愛を信じてくれ!!」

 信じる…一番大切な言葉だ。

だが今の彼女に俺の心を信じるというのは難しいかもしれない。

だが、これを言葉にして伝えなければ…。







「……ずるい。ずるいです……」

「それでも…」



「…っ!

ふざけないでよッ!!!!」




 ニッちゃんは建前けいごではなく本音で…。

胸ぐらを掴んで真剣にその瞳とともに訴えかける。

「そんなことを言われたら信じるしかないじゃない!!

さっきから、言葉が卑怯なの!サイムさんはずるい!!

卑怯者!!なんでこんな時にッ!!両想い発言するの!!

愛を利用しないで!!

乙女心を何だと思っているの!?

やめてよ!!わたしはただ生きてほしいだけなの!!

あなたとともに生きていたいの!!

本気で好きになった相手を!ここで失いたくなんてないの!!!

馬鹿!!大馬鹿ッ!!

うわああああああああああああああああああああああああん!!!」





 ニッちゃんはポカポカと俺を殴る。ニッちゃんの本音の心の痛みがする。

大声で泣く彼女は本気で心配して辛かったんだ。

………ひどいことをしてしまった。だからこそ俺はできることをやる。





 …俺はニッちゃんをなでる。

「…さっきの…

…さっきのキスも!!ずるいよぉおお…

私、もっともっと、あなたと一緒にいたいって言いたかっただけなのに!

いつまでもいっしょにいたいのに!!

あなたを止めたいと思っているだけなのに!

なんで!なんで!今、私はあなたに惚れ直して!

これからもずっと隣にいたいから!…あなたとここまで一緒にいた私が…

ここでおいてけぼりになんてなりたくないって思って…!

守られるだけじゃなくて守ってあげなきゃって思って!

あなたをこんなにも好きになって!

…なんで…私はこれから死に行くようなあなたについていかなきゃって!

そして本気で笑って帰りたいって思わないといけないのよ!?

みんなで生きていたいのに!!」

 ………思えばここまでいろんな無茶があった。

いろんな無茶苦茶な思いをきり抜けた。

だからこそ信頼がある。だからこそ俺のことをズルとわかっている。



 だが、もう根気強く向き合っていくかもしかない。

長い時間恨まれたりしてでも、互いに寄り添っていくしかない。

それが信じるってことだ。





「………もう答え出てんじゃん。ニッちゃん。

みんながいる限り、俺がいる限り

よゆーで生きて帰れるから。

俺を信じてくれ。」

 メイジダンジョンの時がそうだったように…。







「サイムさんの卑怯もの!」

「………ああ、卑怯でいいよ。俺は卑怯だ。

生きるって卑怯なこともあるから。

それは心がなくっちゃあ、できないだろ?

俺は[みんなと一緒]に帰るために卑怯なことをする。

そのみんなにはニッちゃんもサンアもいる。

俺のちょっとした卑怯で、みんなで帰れるのなら問題ないだろ。

ニッちゃん、だから俺に協力してくれ。

卑怯な俺とともに一緒に来て、サンアを救って

みんなで笑って帰ろう。」

「…」




俺は目を閉じて、歯を見せて笑う。

「お願いだよ。」

「…いつも、いつも…そうやって…」

「俺の求めているのは

…俺の『願い』は、明日へ向かって、みんなとともに冒険することだ。

途中ではぐれるかもしれない。傷つくかもしれない。喧嘩するかもしれない。

でもみんなと未来を歩み、明日を冒険するのは変わらないだろ?

明日は気の向くままにみんなに訪れるのだから。

行きたい道を心のまま歩み続ける。

その途中で困っているやつがいるなら助ける。

だから救われなくっちゃあならない。

たとえ一人じゃあ途中で行き倒れちまうような過酷な冒険でも。

ニッちゃんたちがいる。みんながいるから死なない。

絶望から希望をつかみ取ることのできるのが俺たちだ。

…だから……だから、一緒に来てくれ。」





 これが俺の今の願いだ。




「そんな安っぽい言葉でついていくと思うの?」

「そりゃあ、言葉で表すと安っぽく聞こえるだろ?

だから、さっき…」



「…!」

「…」







 ニッちゃんはどこか悟ったように。

あるいはすでに自分自身が何がしたいのか

そういう心もわかっていたかのように。

涙をぬぐい俺の目を見つめる。



「……デート。」

「…ん?」



「これが終わったら、お礼に…デートしてください。」

「ああ、いくらでもしてやる。」

「…」

「…」







「……うん。…うん…わかりました…行きます。

…生きて、馬鹿みたいに笑いましょう。

サイムさん、大好きです。」

「俺もだよ。さぁ行こう。」






 タケヒコは少し笑う。

「これで貴殿の仲間は全員か?」

「ああ、これでアルを除いて全員だ。」

「ちょっと懐かしい気分になるな。我の仲間も強く絆で結ばれておった。

おそらくそろそろアルゴニックらの元にたどり着く。残り歯車は一つだろう。」

「そうなるとまずいな。急いでアルの元に向かわなきゃ。」

「要の扉はもうすぐそこだ。」

「みんな急ごう。」



挿絵(By みてみん)


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