第3話その1『友達と別れの岩絵具:活気の橙色』
※この『物語』は『フィクション』です。
※それなりに『彩溢れる』気持ちで読んでください!
――あれから一週間が経った。
俺たちはそれまでと何事も、変わりなく日々を過ごしていた。パープルメルトの報酬もしっかりと支払われたし、何事も万事順調である。
ちなみにニッちゃんは今日は休みだ。友達とショッピングに行きたいんだと。
まぁ、そんな日の午前のある一場面、今日も今日とてソライとともに二人で、ワイドショーを見ながらだらけきったそんな日にだった。
ソライがせんべいを食いながらこんなことをつぶやくまでは
「なぁサイム、アルゴニック、どうする?」バリボリ
あ、考えてなかった。っていうか
「完っっ全に忘れていたわ。どうしよう、置物として置いておいてもいいけど…」
「結局、あれから起きないし、どうすることもできないよね。」バリボリ
「うーんソライさ、俺一つ考えがあるんだが…」
「どうした?」バリボリ
「これさ、マチルダさんのところに売って、借金を返すっていうのはどうだ?」
「お、サイムらしくないまともな意見だな。」バリボリ
「ソライ、意見を言うその前に、お前はいい加減せんべいを食い終われよ。
それはまともな意見を聞く態度じゃないからな。」
「へいへーい。」
「んで、俺らしくないってどーいうことだよ。」
「いや、お前のことだから何かのイタズラに使うのかなー…って。」
「せっかくの戦利品をそうやすやすと使いたくない。でも邪魔だ。
だから売って金にしたい。」
収入があっても金がないことには変わりはない。
「まぁね…確かにあるだけ邪魔なんだもん。
今朝寝ぼけて躓いたし、それにどうせこれ、遺跡の出土品だろ。
鑑定屋のマチルダさんも喜ぶと思うし、ご機嫌取りようの品として売っちゃおうか。」
そういえば歯を磨きながら今朝、盛大に転んでたなこいつ。
思い切り言い切り笑ってやったが。
「それにだ。マチルダさんが依頼を斡旋してくれなきゃ、またピンチになるだろうしな、妙案だろ?」
「いいんじゃない?」
「うっし、じゃあ、ろある堂行こうぜ。」
「あ、ちょっと待った。」
ソライが俺を制止する。
「どした?」
「これも持っていこうよ。この超越の歯車ってやつ。」
そう実はあれから、なんだかんだでソライが歯車をパクることに成功したのだった。
「お、これもまとめて売れば、借金どころか手元に金ががっぽりと入るかもしれん。」
「これでニッちゃんに給料を全額払えるね。」
「前回の依頼で半額は払ったから当分はいーだろ。」
「サイム…それブラック会社だよ、労基で訴えられるよ(ガクブル)。」
「そん時は労働局の連中をお前が追い返すさ。」
「僕がぁ!?いや確かに交渉担当だけどさ!」
多分ソライなら実際できる。
ただソライが労働組合なんか作られると俺が辞職するだろうけど。
「頑張ってくれたまえよ専務君!」
「えぇ~」
なんて戯言を言いながらアルゴニックと歯車を持って外に出る。
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炎天下の中、俺たちはこのショーワ町の中を進む。
ショーワ町は、この国『旭我』の中でも戦前からある歴史が古い町で、トレーラーハウス群のごとく強固な木材でできた、箱状の住宅地が上下左右にところせましと積まれた、都市外周部の俗にいうスラム街のうちの一つだ。
この外周部の町ってのは巨大な壁となってモンスターなどの外敵から身を守ることができるっていうのがこの町の具体的な役割だ。
なお、めちゃくちゃでかい地震みたいに、めったなことでは大型のモンスターは襲ってこない。
戦前から町として、ある程度機能はしていたが、この町はおもに1990年代バブル前後に人口爆発の結都市の拡張と再開発により発展した整備不良で、老朽化がひどい町。
基本的に当時の政府の開発プランにより路地が無駄に入り組み続け、大量の空中回廊、むき出しのパイプ、日の届かない道、
平均9階建ての木造の超高層住宅地、せまい建物間で洗濯物を干す主婦、
適当に張り巡らされた電線、怪しげな店、
濁った空気、前時代的な街並みの要素も多く、アウトローな連中がひしめき、
不良やジジババ、冒険職、冒険職が親で命を落とした孤児なんかが、人口の大半の街並みになってしまった。
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第8商店街上層
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「おっと、商店街を通るのか?」
「ああ、こっちのほうが日陰になっていいだろ。ついでだしなんか見ていこうぜ。」
俺はソライに第8商店街を抜けていこうと提案する、ソライは無言でうなずき了承を得る。
――商店街は今日も活気づいていた。この暑い中ご苦労なこって…
「おーいサイム!ソライ!」
商店街を歩いていると呼び止められたので振り返ると。
「最近調子どうだ?」
禿頭の魚屋だ。頭にたんこぶを作ってるってことは奥さんと喧嘩したな。
「よう魚屋!最近はまぁほっどほどに儲けたぞ。」
「またまた~嘘つくんじゃねぇぞ。お前が儲けるはずなんてないだろ~。」
…金の匂いがあるところにこのおっさんがある。鋭い!
「そ、それがな~こちとら命がけで仕事したんで、それなりに入ったんだわ。」
「ほぅ?だったらおめぇこの間の飲み代の付けを今すぐここで払えってんだい!」
…
「あ、悪いなぁ…今持ち合わせがなくってさ!」
「ほら見ろ、やっぱり嘘だったんでい!」
「あっははは!ご明察」
俺は嘘をついたという嘘をつく。まずい。ここで、むしり取られるわけにはいかねぇ!
「じゃあ俺たちはマチルダさんとこ行かなきゃならねぇんで、これで…」
「おう、いつかまた金返せよ~」
…あの魚屋が馬鹿で助かった~…。
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しばらく歩いて
「…サイム、また魚屋のツケ増やしたなぁ?」
「しゃーねぇだろ。金がちょうど無かったんだよ。そのうち返すよ。」
「マチルダさんはすぐに返さなきゃならんのに、魚屋はそのうちか。そのうちっていつになることやら。」
俺たちは前方を歩いていると様々な人に声をかけられる。
「ソライ!今度は覚えてろよ!」
八百屋が叫ぶ。
「次は大根をむしり取ってやるよ!」
ソライはあっかんべーと舌を出し挑発する。
また道を進むと
「あらぁサイム~大きくなったわねぇ」
井戸端会議をしていた近所のおばちゃんから
「いやいや、図体ばかりですいやせん。」
町内会で結構お世話になったから頭が上がらない…。
「お、サイムさんにソライさんじゃねぇか!オッス!」
近所のリーゼントヘアーの不良から
「おーごくろーぅ。また遊びに来いよ。」
こいつは年齢的に俺の少し下で、道端に落ちていた500円を争奪しあった仲だ。
「こらぁ!サイム!いい加減髪切りやがれぇ!」
理髪店のおっちゃんから
「ぼったくりのテメェのところで切るなんて嫌なこった!」
それに俺は長髪が好きなんだよ!!ヴァーーーカ!!と心の中で叫ぶ。
「あら~サイムにソライ~。今度うちの店に寄ってかない?」
妖艶な感じのややはだけた女性から声をかけられる。
「ああ、寄らせてもらうよ。」
「「コンビニにな。」」
この人の職業はコンビニの店長だ。こんな感じだから夜の店と間違えられる。
「お、サイムパイセン!ソライパイセン!どこ行くっすか?相乗りしていきますかい?」
『エアーボード』という乗り物に乗った、配達途中の酒屋の娘から
「いや、いいよ。僕らはろある堂に行くだけだし、配達頑張んな!」
「ハイッス!」
基本的にこの町は先に述べた通り、空中回廊で道が大量にあるが何分道が狭い。なので、バイクや車が走れず、主に『エアーボード』と呼ばれる空気だか磁力だかなんかよくわかんねぇ力で浮く、スケボーみたいな乗り物で移動する。
なお、15歳からとれる原付と同じくらいの取得難易度の免許がいる。
俺のエアーボードはどっか行った…。まぁ免停直前だったし。いっか。
――汚いけど、人は、どこか人情にあふれたいい奴らが多い。
それが俺の育った場所ショーワ町だ。
特にこの商店街の連中とは古くからの顔なじみで、親のいない俺をよく気にかけてくれるいいジジイどもだ。そして依頼や母校の後輩とかいろいろなつながりであふれた故郷でもある。
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ろある堂
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一見すると古風な建物に着く、家にはツタが絡まり、窓からはガラクタのようなものが見える。おんぼろで人の住んでいないように見えるが人は住んでおり、古びた看板には「ろある堂」と垂れ下がっていて、営業中という看板があった。
俺たちはその中へと入る。
ドアベルのチリンチリンという音がし、カウンター越しに一人のロングヘアー藍色ゴスロリ少女が、本を読んでいた。
服装は金の装飾をあしらったドレスで、少女は赤とピンクの前髪のメッシュを揺らし
ドアベルの音に応じ、本から目を離しこちらにジト目で顔を向ける。
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「いらっしゃい、武山冒険社。今度はどんな面倒ごとを持ってきたの?」
落ち着いていて呆れるような声で尋ねる。
「金…」
「金なら貸さないし、あなたたちに高額の依頼を渡す気もない。」
即答である。
「じゃなくって!金を返す算段が付いたから!あんたんとこに来たんだよマチルダさん!」
そういうと少女、いやさながら子供のような外見をしているが、年上の実際は23歳という驚異的身長(140cmよりした)と若作りさのマチルダさん
本名、『書輪 街子』さんは、驚愕の顔を浮かべる。
「意外ね。あなたたちがお金を返すだなんて…銀行強盗でもやったの?それとも熱があるのかしら…明日は雪ね。」
この人と会うといつも迷惑そうな表情をされる。
いや、そりゃあ俺達いつも迷惑しかかけてないし、恩人なんだよなぁ…。
借りの数は片手で数えられない…。
「いやいや、そこまで驚く必要性はないでしょ!
僕とサイムは、こう見えてちゃんと清い手段で稼ぎましたから!」
「……まぁ、私から返すのは賢明ね。で、何で儲けたの?」
「依頼とダンジョン探索でな!」
マチルダさんはますます、あきれたような表情を作って、俺とソライを見る。
「あきれたわ。
大方、メイジダンジョンのゴミを持ち帰ってきたってとこでしょ。」
マチルダさんは俺とニッちゃんが潜ったダンジョンの名前を言い当てる。
「なんで、マチルダさんわかんの!?」
「あのね…ここら一体でダンジョンって言ったら、枯れたダンジョンのメイジダンジョンのことを指すものなの、最近、落盤事故でもうなくなったけどね。
噂では土木業の陰謀とか聞いているわよ。」
あーそういうふうに世間では伝わったか…。
「ということはあなたの持っているものが、メイジダンジョン最後の出土品ね。
どうせ、あなたたちのことだから、ゴミだろうけど。とりあえず、座りなさい。」
信用無いなぁ…。
▽▽▽▽▽▽▽▽
俺たちはマチルダさんに席を促され座る。
「さてと、出土品を見せる前に交渉したい。」
「何かしら?」
「まず俺たちはマチルダさんの鑑定結果を信じる。だがぼったくらないでくれよ。たまにいるからなそういう鑑定屋。」
「それはいくら何でも私のプライドが許さないし、全国に支店を置く、ろある堂にとって、嘘偽りなく鑑定結果を『正しく』証言するわ。社の信用にもかかわるし、よほどの物を持ってきたんでしょうね?」
「ああ、どえらいもんを持ってきたよ。マチルダさん。まずはこれから鑑定してもらおうか?」
俺とソライは担いできたアルゴニックを机に乗せる。
「これは…?」
マチルダさんは興味深そうに机に置かれたアルゴニックをまじまじと見つめる。
「これはメイジダンジョンの『最上階』にあったものだ。
水晶の中にあって確かアルゴニックって『名乗った』」
「………は?ちょっと待って、いろいろと混乱するわ、まずね。
『最上階』って何?
あのダンジョンは最上階までいけない構図になっていはず、壁をぶち破ろうものなら落盤する危険性がある塔なのに。それをあなた最上階までどうやって行ったの?
まさか塔の崩壊をさせたのは…。」
「違う違う!!あれは俺らがやったんじゃない!ギルドに5階に隠し通路があるっていうチラシがあったらしいんだよ。それをうちのバイトが見つけて、俺が即決でその場で行こうってなったわけよ。」
塔の崩壊に『関与』はしたが、『崩壊させた』のは俺らじゃあない。
嘘は言ってないぜ。
「ギルドにそんなチラシあったかしら?
まぁいいわ、次に水晶の中から掘り出したっていうのはまぁ信じてあげる。
本当は実物を見たいところだけど、で、問題は何?
『名乗った』?何よ、名乗ったって。」
「こいつがしゃべったんだよ、そんでもって動き出してダンジョンが崩れ落ちる限界ギリギリのところで、ダンジョンの壁をドカンとぶっ壊して、俺とそのバイトを空中に頬りだしたんだよ。」
「…」
――今言ったことは残念ながらすべて事実だ。さぁどう出る?
「…」
「…とうとう詐欺までするようになったのですね、警察…」
「いや!詐欺じゃないから!やめてくれよ、マチルダさぁ~~ん!!!」
「話になんないわ。さ、帰って帰って、今私はそれどころじゃないの。」
「待ってくれマチルダさん!話を聞いてくれ!本当のことなんだ!」
「今時、初心者の書いた創作小説でもまともなシナリオ書くわよ。」
「だが!実物がちゃんとここにあるんだ!
これを鑑定していってみてからでも嘘かどうか決めつけるのは遅くないだろ!」
「そーだそーだ!」
「はぁわかったわ、どーせ、こんな…ガラクタ…おもちゃか何かだろうけど、ちょっと待って、今調べる。」
マチルダさんはそういうと手袋をしてルーペでじっくりとアルゴニックを見る。
その表情は次第に驚きに満ちていく………。
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~ノヴァアージ知恵袋のコーナー~
~ショーワ町は木造建ての建物ばかりだが火事はめったにおこらないぞ!~




