Storyは進化する(文学年表)
文学の歴史は、作家たちの歴史であったり、彼らの人生における偶発的事件の歴史であったり、その作品の年代順の羅列であったりしてはならず、文学の生産者もしくは消費者としての『精神』の歴史であるべきだ。 ポール・ヴァレリー
紀元前1300〜1200年頃 『ギルガメシュ叙事詩』
人間に知られている歴史の中で、最も古い作品。楔形文字で粘土板に刻まれた。メソポタミアの神話。物語の一部は、『旧約聖書』や『オデュッセイア』へと引き継がれた。
紀元前8世紀頃 『オデュッセイア』 ホメーロス(民間伝承?)
出身地不明 『イーリアス』の続編作品であり、24巻からなる。いわゆるギリシャ神話の一部である。神話体系は地域ごとに食い違いや差異があり、伝承の系譜ごとに様々なものが未だ渾然として混ざり合っている。各地の吟遊詩人が吟唱し始めてから、紙にまとめられるまでニ世紀の間があり、同一人物による作品とは考えにくい。神話の詳細や細部の説明・描写などは、後世の詩人や物語作者などの想像力が、構成していったのだと思われる。 古代ギリシャ
紀元前250年~70年 『死海文書』 著者不明
死海周辺のイエリコ南に隠れ住んでいたエッセネ派の分派集団 (クムラン宗団)により記されたとされる書物。1947年にベドウィン人の羊飼いの手により、ヨルダン川西岸地区にある、クムラン洞窟内部から発見された。972の写本群からなる。文書の大部分はヘブライ語で書かれている。イエスの原型と思しき救世主が登場し、洗礼者ヨハネとクムラン宗団との関係も仄めかされていることから、ユダヤ教の聖典や聖書の原型(最古版)と考えられる。1991年になり、アメリカのハンティングトン図書館が、死海文書の全写真版の公開に踏み切った。 ヨルダン?
紀元前19年 『アエネーイス』 ウェルギリウス
全十二巻に及ぶラテン語における叙事詩。ホメーロスの二作から影響を受けて書かれた。ダンテの神曲に強い影響を与えている。トロイアの王子アエネーイス将軍のイタリアへの旅の様子。現地の王の娘との婚約とそれに反対する勢力との戦いを描く。 古代ローマ
-----★720年?(奈良時代) 日本書紀は日本の歴史書。『古事記』と並び、伝存する最も古い史書の1つとして完成する。全30巻。-----
1008★『源氏物語』 紫式部
恋愛、栄光と没落、政治的欲望と権力闘争などの貴族社会を描く。日本
------★1215年 イングランドにおいて、マグナカルタ大憲章が成立する。この法典によって、初めて国王の権限を制限した。各国の憲法の草分け的存在である。------
1293 『神曲』ダンテ
ルネサンスの先駆者。三部に分かれた壮大な叙事詩。古代ギリシャ神話に範をとったエピソード(ミノタウロスなど)がいくつか見られる。ストーリー全体に著者個人の感情が強く表れている。物語に強い個性とリアリティが生まれている。登場する刑罰や怪物たちは、その全てがメタファーによって語られる。愛に関するロマンティックな思想。 イタリア
-----★1347-1349 ペストの大流行がヨーロッパ各地で猛威をふるった。-----
1353 『デカメロン』 ジョヴァンニ・ボッカッチョ
イタリアルネサンス期の人文主義者。散文芸術の始まり。ダンテの理解者であり、信奉者でもある。この作品は、ペストから逃れてきた10人の男女の語り話という形式をとる。複数の人間による伝承形式という、これ以前に書かれた大著と同様の形式をとっている。 イタリア
------★1431 5月30日 イングランドのルーアンのヴィエ・マルシェ広場にてジャンヌダルクが火刑に処せられる(19歳没)------
-----★1492 コロンブスが新大陸(北アメリカ)を発見する。-----
1516 『ユートピア』 トマス・モア
虚構の社会・宗教を述べた枠物語。新大陸の発見に始まる新しい社会。私有財産の否定。同じ衣服。農業と労働の義務。安楽死の推奨。戦争を否定していながら、情報工作や未然のテロにより、これを防ぐ。貨幣や交換制度を廃止することで、人々の欲望を削ぐことを目指している。見方を変えれば、ディストピアともとれる社会。 イギリス
1522 『三国志演義』 羅貫中?
後漢末期の黄巾の乱による大混乱から、魏呉蜀三国の対立による、およそ一世紀に渡る戦国の世を虚実織り交ぜて壮大なスケールで描く。単純な歴史小説ではなく、幾人かの勇士を半ば神格化して描くことで、戦闘戦術、人生の教訓、仙人や占い師による演出、君主と家臣との関係の在り方、裏切りや陰謀術中、大陸全土を大観する見地からの国政の在り方などを表現してみせた。正史を大幅に修正していることが、しばしば、議論の対象になるが、歴史というもの自体が、それを表現しうる人間の主観に歪められ、左右される可能性があることを考慮すれば、虚構を取り入れ、それを新しい物語へと進化させたことは、この作品にとって、不利な点とはならないと考えられる。著者については諸説ある。 中国
1534 『ガルガンチュワ物語』 ラブレー
ルネサンスの人文学者。オランダの作家エラスムスから強い影響を受ける。バルザックの作品の中の著述によく紹介されている。作品中でソルボンヌ大学や教会を強く批判したために、この作品は禁書目録に指定された。 フランス
------★1555年 『ミシェル・ノストラダムス師の予言集』の初版が刊行される。世界中に多くの信奉者が現れる。-------
1558 『エプタメロン』 マルグリット・ド・ナヴァル
フランス王国王妃による執筆。デカメロンをモデルにした。フランス
1601 『ハムレット』 ウィリアム・シェイクスピア
英文学とルネサンス演劇の巨匠。四台悲劇、喜劇、ソネット集などの作品を残した。帝政ローマのプルタルコスの作品や古代ギリシャの物語を種本にしたといわれている。著者は学歴やロンドンの劇壇に登場するまでの経歴の多くが不明であり、死後に『シェイクスピア偽物説』が生まれる一因となる。撞着語法を多用した。 イギリス
1601 『魂の遍歴』 ジョン・ダン
ピタゴラスやプラトンから影響を受けて、魂はある実態から別の実態へと移っていくと考えた。T・S・エリオットやヘミングウェイなどに影響を与えた。 イギリスの詩人
1605 『ドン・キホーテ』 セルバンテス
近代小説の始祖・ロマン主義。理想主義を掲げる騎士が挫折していくさまを滑稽に描き、各国の文学者に影響を与えた。登場人物たちも自分たちの実績が書物となることを知っている、メタフィクション文学であり、現実と幻想が入り混じりながら進行する。主題である二人の冒険以外に、周囲の村人たちが、自分たちの幻想世界に二人を取り込もうとする、サブプロットが展開される。余りの好評のために、海賊版まで現れた。 スペイン
1620 『ノヴム・オルガヌム』 フランシス・ベーコン
先入観や偏見を排除した思考法の確立。 イギリス
1651 『リヴァイアサン』 トマス・ホッブズ
王権と生存権を両立させようとする国家機構。イギリス
1664 『タルチュフ』 モリエール
フランスの国民的作家。現存する劇作品は三十ほどあり、そのほとんどは喜劇作品である。笑劇に多く見られる類型的なキャラクター像を次第に脱して、登場人物に個性と複雑さを加え、人間の心理・葛藤を鋭く描いた。本作では、偽善的な信仰のあり方を痛烈に批判したため、上映禁止の憂き目を味わった。 フランス
1669 『パンセ』 ブレーズ・パスカル
神を信仰することの優位性を示した。その見地から、モンテーニュの死生観を否定した。人間存在の最重要性は思考にあると考え、ここに道徳の原理があると唱えた。欲望には依らない生き方、礼節を重んじる他人との付き合いを最重要と主張している。 フランス
1689?『統治二論』 ジョン・ロック
アメリカ独立宣言、フランス人権宣言に影響を与えた。 イギリス
1695 『ペロー童話集』 シャルル・ペロー
『赤ずきん』『シンデレラ』『眠れる森の美女』『長靴をはいた猫』などが収録されている。多くの昔話や民話を元にして、近代化された童話を創り上げた。サロンにて朗読発表される。『デカメロン』に影響を受けて編纂された。オペラ・演劇舞台などのテーマになった。 フランス
1704 『千夜一夜物語』 著者不明。翻訳者・編集者多数。
9世紀ごろに原型ができたと考えられ、12世紀頃までには「千一夜」という名称になっていた。欧州に初めて紹介したのは、アントワーヌ・ガラン。原作となった本はシリアで1701年に入手され、当初は282話であった。1704年以降、中東で聞き取られた話が無秩序に追加されていく。その後、幾人もの編者が現れた。男女間の大胆な性的な描写がそこかしこに含まれるため、当時のキリスト教本位の貴族社会では翻訳作業が難渋した。 不明
1719 『ロビンソン・クルーソー』 ダニエル・デフォー
英語で小説を書いた先駆者の一人。この作品は実在の人物の伝記を元にして書かれたといわれる。 フランスの思想家ルソーが読書好き青年への推薦図書の筆頭に挙げている。イギリス
1726 『ガリヴァー旅行記』 ジョナサン・スウィフト
風刺文学 アイルランド
1745頃 『天界と地獄』 エマヌエル・スヴェーデンボリ
作家としての著作のすべてはラテン語で書かれている。鉱物学、天文学、解剖学でも名を知られる。霊能力、臨死体験、宇宙人の存在などを主張した。また、知性のない者は天国に昇る資格はないとも考えていた。当時の神学や宗教論理を超越した詳細な死生観を描いた。キリスト教を崇拝した神秘論者であり、バルザック、アラン・ポー、ボルヘス、ドストエフスキーなどに影響を与えた。 スウェーデン
1749 『トム・ジョウンズ』 ヘンリー・フィールディング
風刺の効いた軽喜劇を得意としていた。劇作家と小説家の両方で成功した、数少ない人物のひとりである。「イギリス小説の父」と呼ばれる。 イギリス
1759 『トリストラム・シャンディ』 ローレンス・スターン
メタフィクション。小説ルールの破壊。アイルランド
1774 『若きウェルテルの悩み』ゲーテ
ドイツ古典主義 ドイツ
-----1776 アメリカ独立宣言がフィラデルフィアで採択される。------
18世紀中頃 『紅楼夢』 曹雪芹
中国四大名著。自伝的要素の強い長編小説。無限や鏡といったモチーフを含んでおり、ホルヘ・ボルヘスに影響を与えたと思われる。 中国
1780 『運命論者ジャック』 ドニ・ディドロ
啓蒙思想時代を代表する哲学者。百科全書の刊行に力を注いだ。本作は飛躍と逸脱の連続からなるメタフィクションの世界。著者の最晩年の大作である。 フランス
1782 『危険な関係』 ピエール・ショデルロ・ド・ラクロ
綿密な恋の駆け引きをテーマにした、175通の手紙で構成される書簡体小説。フランス
------★1783年 パリ条約によって独立戦争が終結し、イギリスはアメリカ合衆国の独立を正式に認めた。ジョージ・ワシントンが初代大統領となる。-----
-----★1789 フランス革命→ルイ十六世、マリーアントワネットが処刑される。-----
1797 『悪徳の栄え』 マルキ・ド・サド
道徳や宗教を放棄。暴力的なポルノグラフィー。 フランス
-----1804 ナポレオンが皇帝の地位に就く。(フランス第一帝政)-----
1804 『ミルトン』 ウィリアム・ブレイク
ロマン主義に属する詩人、画家。テキストとイラストを融合させる手法を編み出した。神秘主義者スヴェーデンボリの影響を受け、預言書とも評される大作を生み出した。『エルサレム』の序詞が現在のイングランド国家となっている他、主作品がハクスリー、トマスハリス、大江健三郎などの作品に引用されている。 イギリス
1811 『ウンディーネ』 フリードリヒ・フーケ
民間伝承を元にした恋愛悲劇。フランスとドイツでオペラとして上演され、幾度も成功している。 ドイツ
1813 『高慢と偏見』 ジェイン・オースティン
軽妙で楽観的な恋愛ストーリー。結婚という人生の節目に奔走する人々の姿を楽観的に描く恋愛作品が多い。後世の映画・家庭ドラマの模範に。優れた話法。著者の手書きによる多くの書簡が残されており、当時の文化や風俗を知る上で、貴重な資料となっている。九才の頃から、シェイクスピア、ミルトン、バイロンの作品に親しみ、サミュエル・ジョンソンの道徳観に共鳴している。日本の文学者、夏目漱石により、その優れた筆致を紹介されている。 イギリス
1813 『影をなくした男』 アーデルベルト・フォン・シャミッソー
由緒ある貴族の家に生まれるが、フランス革命により没落。一時はプロシアにわたりナポレオン戦争に従軍するが、嫌気がさして故郷に戻る。フケーの盟友。旅行中に持ち物のほとんどを失う災難に遭い、「もし、影まで失くしていたら……」の発想から本作が生まれたとされる。17世紀の詩人、ラ・フォンテーヌの著作からも影響を受けている。晩年はベルリンで過ごした。 フランス
1815 『砂男』 E.T.A.ホフマン
「不気味」という感情の語源。幻想文学の大家のひとりであり、ネルヴァルやシュールレアリストたちに影響を与えた。著者は音楽家でもある。 ドイツ
1818 『フランケンシュタイン』 メアリー・シェリー
1816年にジュネーヴ湖畔に集まった詩人たちの恐怖小説比べから生まれた。様々な形式をとる複合小説。 イギリス
1830 『赤と黒』 スタンダール
ナポレオンへの憧れに端を発する、ヒロイズムに突き動かされた、ロマン主義的な恋愛小説をものした。バルザックの激賞を得た『パルムの僧院』も名作である。自身の生き方の中でも、女性たちとの恋愛を最重要の主題としていた。 フランス
1831 『ファウスト』 ゲーテ
二部構成の長編戯曲 全編が韻文 作者は哲学の分野でも、後の学術の発展に大きく貢献した。ドイツ
1834 『スペードの女王』 プーシキン
ロシア近代語の確立者。ロシアにおけるゴシックロマンの先駆け。幻想的な散文作品。ツルネーゲフ、ドストエフスキーらに影響を与える。最期は決闘により受けた傷がもとで亡くなる。 ロシア
1835 『ゴリオ爺さん』 バルザック
ひとりの人間が自分の作品のみならず、他人の作品にも登場して、影響を及ぼす「人物再登場法」を採用した。人は動物と同様に職業という型紙によって区分され、身に飾る装備品で思想や人生を表現すると論じてみせた。この考えは、各登場人物の職業に異様なほどに執着する作品を好んだ、フランツ・カフカに影響を及ぼした可能性もある。経済が人間の生活に及ぼす影響(金銭欲・物質欲)を作品中に積極的に取り入れた。民主的な選挙によって大衆が力を持つ社会を否定する王党派保守層であるが、物語の内容は市民の日々の暮らしに寄り添った人情味溢れるものであり、リベラル派の思想家にも支持者が多い。物語の冒頭や途中で、ストーリーにはさして関連のない持論を長々と並び立てる癖がある。金と性欲におぼれた、破滅的な人生を送った。学生時代から両親や知人らにより幾度も作家としての才能を否定されている。その苦しい体験が、異常なほどの執着心や反骨心に育っていった可能性がある。サマセット・モームによって、唯一の天才と評された。 フランス
1835 『アンデルセン童話』 ハンス・クリスチャン・アンデルセン
アラビアンナイト、シェイクスピアの作品に影響を受けて、劇作家を目指した。貧困層の悲惨な暮らしを見て育ち、それを反映した、人魚姫・マッチ売りの少女・みにくいアヒルの子などのメルヘンを次々と描いて、人生に救いを求めた。 デンマーク
1839 『モルグ街の殺人』 エドガー・アラン・ポー
探偵小説の始祖。ホラー作品において、ゴシックとグロテスクを重ねて、いくつかの新しい心理モデルを構築した。ボードレールなど、フランスの象徴派にも影響を与えた。著者は貧困の中で破滅的な人生を送った。 アメリカ
1842 『南総里見八犬伝』 曲亭馬琴
日本を代表する長編伝奇小説。中国の『水滸伝』を模範として描かれた。 日本
1845 『カルメン』 プロスペル・メリメ
魅惑的なジプシー(ロマ)の娘と衛兵との歪んだ恋の駆け引き。最後は破滅へと向かうが、恋愛のひとつの極地でもある。短編作品にも関わらず、物語の最後に余分とも思えるほどの長い蘊蓄がある。ジャック・ビゼーによりオペラ化され、その後はニ十本以上もの映画の原作となった。著者は考古学者、美術史家でありながら、政治家でもあった。 フランス
1846 『モンテ・クリスト伯』 アレクサンドル・デュマ・ペール
ロマン主義 歴史小説 フランス
1847 『嵐が丘』 エミリー・ジェーン・ブロンテ
最後のロマン主義作家。ブロンテ三姉妹の次女。若い頃から鬱、不眠、拒食症などを患っていた。貧困の中で勉学を重ねて、自身の体験にはよらない、想像力にのみ頼った独自のストーリーを創り出した。幼少の頃より、長編の空想物語を創作していた。初期の本は男性名で出版された。最初に発売された詩集は二部しか売れなかった。近年は詩人としても再評価を受けている。ヴァージニア・ウルフやサマセット・モームらに絶賛されている。 イギリス
1847 『虚栄の市』 ウィリアム・メイクピース・サッカレー
税務官のひとり息子として、カルカッタで生まれた。二十六歳頃から文学活動を開始。英国ヴィクトリア朝の上層中産階級の愚かしい偽善に満ちた生態を作品の中に表現しようとした。 イギリス
1848 『メアリ・バートン』 エリザベス・ギャスケル
牧師の娘としてロンドンに生まれる。六番目の子供でひとり息子を一歳にならないうちに失い、その悲しみを紛らわすために書いた本作で人気を博した。社会改革への理念を持つ。イギリス
1850 『緋文字』 ナサニエル・ホーソーン
善悪や罪を扱った宗教的な内容。自身の祖先に魔女狩りに関わった人物がいたことに衝撃を受けた。ゴシックロマン小説。初期の短編にも優れた作品が多い。 アメリカ
1851 『白鯨』 ハーマン・メルヴェル
類を見ない規模の海洋(冒険)小説。旧約聖書からの引用が多い。Story の約束ごとからの脱線。生前は凡庸な海洋小説作家としての評価しか得られなかった。著者の作品が正当に評価されるのは1920年代に入ってからである。 アメリカ
1852 『幻視者』 ネルヴェル
中世の怪行動者や神秘主義者たちを『社会主義の先駆者たち』という見出しで紹介する。西アジアを訪問した際に神秘主義文献を読み込んで、これに影響を受けている。フーリエ主義に影響を及ぼす。晩年は奇行が目立つようになり、最後は謎の多い自殺を遂げる。ユゴーや大デュマの親友。二十歳になる前にファウスト翻訳に着手して、ゲーテ本人から称賛される。シュールレアリスムに影響を与える。 フランス
-----★1855 ナポレオン三世の提案により、ボルドーワインの格付けが行われる。格付け1級のワイン5本を合わせて5大シャトーと呼ばれる。-----
1857 『ボヴァリー夫人』 フローベール
まるで、目に見えるように書かれた文学。近代文学にリアリズムを初めて持ち込んだ作品。実在の事件を規範にして、冷徹な筆致により書かれている。いくつかの失敗作を経て、ロマン主義ストーリー文学に依らない新たな分野を切り開いた。14歳から文学作品の執筆に取り組んでいるが、発表された長編作品は六作のみで寡作家として知られる。文章の練り上げに特段の力を注いだためである。カフカやジョイスなどに影響を与える。フランス
1859 『二都物語』 ディケンズ
英国の国民作家であり、写実主義の大家であるが、怪奇的・幻想的なある種独特な雰囲気を持つ作品が多い。物語の前半部分に複数のギミックを仕掛け、フィナーレで読者が抱えていた全ての疑念を一気に払拭してみせるスタイルは、デュ・モーリエなど、その後のストーリーテラーに大きな影響を与えた。 イギリス
1862 『レ・ミゼラブル』 ヴィクトル・ユーゴー
ロマン主義大河小説。バルザックの盟友。詩人として多くの作品を残して国葬にされた。 フランス
1865 『月世界旅行』『八十日間世界一周』 ジュール・ヴェルヌ
著者は文明の発展を自然への冒涜とは見ずに明るい未来への時間軸をひたすら進む運動と捉えた。ポーのアイデアを引き継いだSFの開祖のひとりであり、科学技術の発展は人間社会において、不可能を可能にすると考えていた。時間の流れに沿って、出来事を順番に追っていくクロノロジックと、それを逆手に取る手法を得意としていた。現在のアニメや、ディズニーランドのコンテンツなどにも強い影響を与えている。 フランス
1865 『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル
著者名はペンネームであり、オックスフォード大学の数学講師である。シュルレアリスムの精神的祖先 教訓詩のパロディ。アリス・リドルは実在する少女であり、本作はそのアリスの誕生日に設定されている。伝統的な教訓本からの脱却。著者は少女たちの美しさに生涯惹かれ続け、発明されたばかりのカメラを使用して、少女をモデルにした肖像写真を大量に残した。 イギリス
1867 『資本論』マルクス
経済学の大家。エンゲルスと共にバルザックから大きな影響を受けた。プロイセン(ドイツ)
1872 『ミドルマーチ』 ジョージ・エリオット
本名はメアリ・アン・エヴァンズ。国教会系の学校で学び福音主義者となる。写実主義、心理洞察。福音主義から不可知論者へ。本作は分冊の形で発表され、最初は二か月ごとに、最後の三冊は月刊で公刊された。自身の生まれ故郷に近い中部の都市コヴェントリをモデルにして架空の田舎町を舞台に設定した。半生の振る舞いに基づく、道徳的なテーマ。 イギリス
-----★1876 スコットランド出身のグラハム=ベルが電話を発明する。-----
1877 『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ
帝政ロシアのリアリズム小説。交差するストーリーを巧みに書き分ける。この手法は後に多くの作家に模倣されて、一つの技法として定着していく。二大長編を書き上げた後の晩年は、若年時代の放蕩生活をひどく後悔して、物欲や性欲を含む、人間の快楽の全てを否定した。貴族の家に生まれ、若い頃は放蕩生活を続けた。二代長編を書き終える頃から人生に悩み、物質的な富を断念した禁欲主義者となった。苦悩の深い人生であった。その非暴力平和思想はガンジーやキング牧師など多くの思想家に受け継がれていく。 ロシア
1879 『人形の家』 ヘンリック・イプセン
戯曲 女性解放運動 スウェーデン
1880 『カラマーゾフの兄弟』 フョードル・ドストエフスキー
農奴解放令による人間社会のひずみの中で、旧来の秩序が崩壊していくさまと不安のはびこる人間群像を長編作品として、次々と描いていった。この作品は神と人をテーマにした総合小説。作品の冒頭で次作があることを表明していたが、作者の急死により頓挫した。父親が農奴達に惨殺された体験も、この作品に大きな影響を与えている。作者は思想家との会合を摘発され、死刑宣告を受けたことがある。この体験は後に『白痴』などの作品のエピソードとして生かされている。 ロシア
1880 『実験小説論』 エミール・ゾラ
全20作で構成されたライフワークの作品群。『ルーゴン・マッカール叢書』を著した。その中に収められている『ナナ』や『居酒屋』が発売と同時に大変な評判となった。また、ドレフュス事件の冤罪を確信し、その再審運動に尽力した。最後は不審な死を遂げている。自然主義 フランス
1880 『ベン・ハー』 ルー・ウォーレス
新約聖書に登場する人物を元に構想された架空の物語。
主人公とキリストの生涯を交錯させて描いている。南北戦争時に北軍の将軍であった著者は、自身の失態から多くの非難を浴び、そのことがこの大作を書かせる要因となった可能性がある。ハリウッドで三度映画化され、いずれも大成功を収めている。 アメリカ
1883 『ツァラトゥストラはかく語りき』 フリードリヒ・ニーチェ
永劫回帰説によって、従来のキリスト教的世界観と真っ向から対立する。人間性の探究に基づく、様々なアフォリズムを書き残した。市場経済や地位名声といった位置から遠く離れ、己の運命のみを見つめて、真の自由を求めることを説いている。 プロイセン→ドイツ
1884 『さかしま』 ジョリス=カルル・ユイスマンス
エミール・ゾラに見出される。ワイルドと並ぶ退廃主義。悪魔主義との決別。カトリック神秘主義への傾倒。 フランス
1885★『小説神髄』坪内逍遙 日本
1885 『ハックルベリー・フィンの冒険』 マーク・トウェイン
幼少期の苦労を乗り越えて、大ヒット作を次々と生み出し、アメリカンドリームを体現した。著者自身も対話の中に洒落れた言い回しを巧妙に織り交ぜることを得意としていた。著作の『トム・ソーヤーの冒険』は、アメリカで初めてタイプライターを用いて書かれた作品でもある。 アメリカ
1886 『ジーキル博士とハイド氏』 ロバート・ルイス・スティーヴンソン
二重人格を題材にした怪奇小説。イギリス
-----★1888 切り裂きジャック→ロンドンとその周辺で起こされた、11件にのぼる猟奇殺人事件。賞金もかけられ、約80人が容疑者として拘束されたが、未解決に終わった。(同一人物の犯行とは思われない)-----
1888 『月桂樹は切られた』 エドゥアール・デュジャルダン
内的独白の先駆者 フランス
1888 『緋色の研究』コナン・ドイル
探偵小説の大家。叙景は省くべきという探偵小説の常識を覆し、風景描写を綿密に行うことで、プロットとの一体化を図っている。怪奇的な雰囲気と解しやすい展開を旨とし幅広い読者層を意識していたと思われる。実際の事件においても、警察の捜査の不手際を指摘したことがある。一次大戦での仲間の戦死のショックから、晩年は心霊主義に傾倒していく。 イギリス
----★1899 フランスのパリにエッフェル塔が完成する----
1889 『退屈な話』 アントン・チェーホフ
短編小説の第一人者。おどけた市民たちの生態をつぶさに描く。外的な筋や世界観を省き、登場する人物の台詞や細やかな心情によって物語を展開する。若い頃から結核を患っていた。トルストイを尊敬しており、当時、流刑地となっていたサハギンへ囚人たちの過酷な生活を観察して見聞録にまとめている。その多くの短編作品は日本の作家太宰治、井伏鱒二、井上ひさしや、イタリアの映画監督ルキノ・ヴィスコンティにも愛された。千差万別の物語を書き分けながら、作者自身の明確な答えをほとんど示さなかった。後期は作風に暗さを増す。 ロシア
1891 『ドリアン・グレイの肖像』 オスカー・ワイルド
退廃的・芸術至上主義。人生は芸術を模倣するという逆説を語った。宇宙のあらゆるものは美によって正当化されると考えた。その文学のほとんどは社会との抵触を欠いている。日本文学への強い影響。 アイルランド
1893 『橋を造るものたち』 ラドヤード・キップリング
インドで生まれ、6歳で渡英して、英語教育を受ける。帝国主義的な集団行動・愛国心教育を受けたことにより、反知性主義的な思想に陥る。ただし、著者の発言の全てが保守的・差別的であるとまでは言えず、政治思想の評価については分かれている。三百篇以上の短編作品をものした。単純には主題のつかみにくい隠蔽と韜晦の手法を生み出した。イギリス最初のノーベル文学賞作家。 イギリス(インド生)
----★1894ドレフュス事件(フランス陸軍によるでっち上げ事件)が起こる----
1894 『カイエ』『テスト氏』 ポール・ヴァレリー
フランス第三共和政を代表する知性である。マラルメやボードレールなどの象徴主義から出発して、単純なストーリー文学からの脱却を目指した。もっとも優れた知性とは、無名の人、己を出し惜しむ人、何も告白することなくこの世から消え去る人であると夢想し、限られた友人とのみ交流をする静かな生活に身を委ねる。『カイエ』は、公表を前提としない思索の記録。『自己主張を拒否する語り手』『自分ではない自分を語る』第四視点法の確立。語り手と主役との鏡のような二重構造手法の構築。日本では、小林秀雄、堀辰雄、堀口大學などに影響を与える。アンドレ・ジッドの盟友。死を見据えながら生きる「死のモラル」。 フランス
1895 『タイム・マシン』H・G・ウエルズ
時間旅行について書かれた初期の作品 イギリス
-----★1896年 第1回夏季オリンピックがアテネで開催される。以後、四年おきに世界各地で開催。------
1898 『ねじの回転』 ヘンリー・ジェイムズ
ゴシック小説の先駆け。それまでの主流派とは異なり、ある状況を想定して、それから、その状況に合わせた人物たちを想像した。 アメリカ生まれ イギリス国籍
----★1900年9月に夏目漱石が留学の名目で英国を訪問している。1902年12月に帰国。欧州の文豪の著書を日本の文学界に紹介している。----
1900 『オズの魔法使い』 ライマン・フランク・ボーム
-----★1901 ノーベル文学賞が創設される。第一回の受賞者はフランスの詩人、シュリ・プリュドム。ロシアのトルストイが存命中であったが、反宗教的な思想を理由に候補から除外された。------
1902 『闇の奥』 ジョゼフ・コンラッド
ロジャー・ケイメンスが、ベルギーによるコンゴでの略奪を告発したことから着想を得たといわれる。西洋による植民地主義の闇の側面を描写した自伝的小説。フロベールの崇拝者。 イギリス
-----★1903 ライト兄弟が世界初の友人動力飛行に成功する。-----
1903 『野性の呼び声』 ジャック・ロンドン
動物を擬人化した動物フィクション。ゾラの自然主義文学。カール・マルクスの『共産党宣言』などに影響を受けた。 アメリカ
1903 『ヘンリー・ライクロフトの私記』 ジョージ・ギッシング
報われない労働者たちの実生活を描いた作品で評価される。本作品は田舎町に隠居した架空の人物の随筆の形をとり、かつては、日本でも多くの若者に読まれていた。 イギリス
1905★『我が輩は猫である』 夏目漱石 日本
1906 『ニルスのふしぎな旅』 セルマ・ラーゲルレーヴ
著者がスウェーデンの各地方で調べた歴史と地理の知識を織り込み、民話風に仕立てた。 スウェーデン
1909 『オペラ座の怪人』 ガストン・ルルー
19世紀のパリ国立オペラで起こった史実を引用。この原作を元にして、多数の映画、ミュージカルが製作された。 フランス
1911 『トバモリー』 サキ
ブラックユーモア、貴族的な短編作品を残した。イギリス
1911 『ピーター・パンとウェンディ』 ジェームス・マシュー・バリー
イプセンの戯曲やデフォーの『ロビンソン・クルーソー』などに影響を受けて描かれた作品。アニメ、映画、テレビ番組などに制作、放映された。作家のデュ・モーリエが子供時代に従兄弟と遊んでいる姿をバリーが目撃したことで、このストーリーを思いついたという俗説があったが、年代等に一致が見られず、眉唾である。 スコットランド
1912 『神々は渇く』 アナトール・フランス
フランス革命を舞台に、人を裁く立場から、裁かれる立場へと転落していく若者を描く。日本の芥川龍之介に影響を与えた。 フランス
1912 『あしながおじさん』 ジーン・ウェブスター
孤児院出身の少女が毎月一回の手紙報告を行うことを条件に、大学進学のための資金援助を受ける。日々の生活をつづっていく、その手紙自体が本作品のストーリーである。書簡体小説の代表作品。貧困者に対して、進学資金を援助するという考え方は、あしなが育英会や交通遺児育英会という名称を与えられ、現在の日本の制度としても残されている。著者は『トム・ソーヤーの冒険』をものした、マーク・トウェインの姪の娘にあたる。 アメリカ
1915 『変身』フランツ・カフカ
ニーチェやフロベールに影響を受け、自らの民族的・家庭的孤立を背景にして、人間が自己の正当性の弁明が許されぬままに裁かれていく不条理の世界を描く。『夢の論理』『夢の形式』と呼ばれる作風。長編作品のほとんどが未完に終わっている。再評価されたのは、死後、かなり経ってからであるが、生前にも、ムージルやリルケなどに高く評価されていた。控えめな性格と受け取られることが多いようだが、友人知人の前で自作を読み上げることを好んだ。古代神話ふうの短編、夢の表現による物語、多数のアフォリズムを描く才能を持っていた。恋人に宛てた大量の手紙が残されている。自分を含む物語の主人公に劣悪な結末を用意することが多いのは、幼い頃からの父親との確執が下地にあるものと思われる。 チェコ
1915★『羅生門』 芥川龍之介
今昔物語集 エゴイズム 日本
-----★1916 アインシュタインが一般相対性理論を完成させる。-----
1916 『ゴーレム』 グスタフ・マイリンク
E・A・ポーやホフマンから強い影響を受けた恐怖の幻想小説。ユダヤ教やキリスト教他、東洋の神秘思想を学んでいる。世界を不条理なものと捉え、非現実的なものと考えていた。そういった考えを下地に、幻想的で残虐な作品を生んだ。銀行業に十三年間従事している。 オーストリア
1917 『精神分析入門』 フロイト
精神分析学の創始者 シュールレアリスムの祖 オーストリア
1919 『月と六ペンス』サマセット・モーム
通俗小説の代表作。難解さより面白さを小説の醍醐味と考えた。イギリス
1922 『園遊会(Garden Party)』キャサリン・マンスフィールド
意識の流れ。チェーホフを尊敬し、意識した。ウルフの親友。薄幸の人生であった。最期の言葉は「私は雨が好き」 ニュージーランド
1922 『チボー家の人々』 ロジェ・マルタン・デュ・ガール
トルストイに影響を受けて、大戦を民衆の視点から見つめた本作を企画。 フランス
1922 『ユリシーズ』 ジェイムズ・ジョイス
『オデュッセイア』との対比。繰り返し登場する虚構言語。複合語や換喩など、これまでにない、新しい文章表現を実現した。アメリカでの猥褻裁判。多種多様な文体を用いて書かれ、膨大な量の駄洒落や引用、謎かけや暗示などを駆使する長編作品。余りに難解な作品であったため、各国で翻訳作業が難航するフランスでは多くの翻訳家が本来の業務に費やす時間を失う羽目になり、日本では丸谷才一ら三名がかりにて翻訳作業を成し遂げている。この作品以降、文学の主流は次第にストーリーを離れて、不理解の手法へと歩みだしていく。 アイルランド
1922 『荒地』 T・S・エリオット
第一次世界大戦後の西洋の混乱を前衛的な表現で綴った、前衛的な詩である。 アメリカ生まれ
1924 『魔の山』 パウル・トーマス・マン
ドイツの教養小説。軍隊への貢献を責務としている従弟や、様々な知識人との対話を通して、主人公が成長していく様を描く。著者は世紀末に蔓延っていた退廃的な芸術家たちに失望して、市民的気質と芸術家気質との融合を目指した。第一次大戦においては、愛国者として西欧文化の波から祖国を守ろうとする立場から、戦争に賛成したが、第二次大戦においては、ナチス体制批判の立場から戦争に反対を表明している。カフカの『城』に序文を書いている。 ドイツ
1925 『ダロウェイ夫人』ヴァージニア・ウルフ
モダニズム文学。作中人物の瞑想やとりとめもない物思いを小説の言語の一部として変換することに取り組んだ(意識の流れ)。いわゆる感覚的な表現方法よりも、小説のもつ根本的な技法を重要視した。著者はフェミニズム運動にも共感していた。同じ箱庭に在る人々を異なるストーリーで描いてみせた、ジェイン・オースティンを絶賛した。日本の古典である源氏物語に興味を示していたことでも知られる。 イギリス
1925 『グレート・ギャツビー』 F・S・フィッツジェラルド
1920年代のロスジェネ(失われた)世代の旗手。モダニズム。ジャズエイジの象徴的存在。繁栄から没落へと突き進む時代の趨勢を我が身で反映するかのような人生を送ることになった。大恐慌直前の好景気に湧く若者の青年たちの行状を描いたが、金と女に溺れた自身の目に余る奇行を作品の中に描くことはなかった。 アメリカ
1925 『贋金つくり』 アンドレ・ジッド
複合的なプロット、ヌーヴォー・ロマン フランス
1925 『クマのプーさん』 アラン・アレクサンダー・ミルン
イギリスの児童文学作家でファンタジー作家でもあるが、推理小説も得意としていた。1925年の12月24日に『イヴニング・ニュース』のクリスマス特集として第一話が掲載された。以後、人気を博し、各国でアニメ化されている。単行本のシェパードの絵が余りにも有名であるが、ふたりともに第一次世界大戦に参加している。ふたりの生還なくして、この名作は生まれ得なかっただろう。 イギリス
1926 『アクロイド殺し』 アガサ・クリスティ
幼少の頃、母親からの特殊な教育を受ける。他の作品の中ではバルザックの存在に言及している。当時の英仏の関係は? 政治的内容を含む作品、正義より命の重さを重視する見解もある。フェア・アンフェア論争 イギリス
-----★1927 日本の作家芥川龍之介が服毒自殺する。→日本社会に衝撃を与える。-----
-----★1927 アメリカのリンドバーグが、プロペラ機でニューヨーク‐パリ間を飛び、大西洋単独無着陸飛行に世界で初めて成功する。-----
-----★1927 ベーブルースが、ヤンキースの一員として60本塁打を放ち、当時、自身が持っていたMLBシーズン記録を1本上回り更新した-----
-----★1929 9月4日頃から、アメリカにおいて株価が大暴落。この大不況は世界恐慌と呼ばれ、1930年代後半まで続いた。----
1929 『恐るべき子供たち』 ジャン・コクトー
詩人、小説家、劇作家、評論家としてだけでなく、画家、映画監督、脚本家としての活動も行っていた。この作品は、己の運命の受諾というテーマを訴えている。 フランス
1929 『西部戦線異状なし』 エーリヒ・マリア・レマルク
十代で志願兵として第一次世界大戦に参加している。本作は欧州各国で翻訳され、大ベストセラーとなり、翌年に映画化。アカデミー賞を受賞する。ナチスによる政権掌握後、アメリカに亡命するが、妹は捕えられ、処刑されてしまう。大戦後は、ナチスの蛮行と二度の大戦の詳細を描ききった作家として不動の地位を築く。 ドイツ帝国出身、アメリカ国籍
1930 『幸福論』 バートランド・ラッセル
現実主義的な平和主義。神の不可知論を提唱。宗教は科学の前に敗れると説いた。大戦の最中に、政府発表やマスコミからのプロパガンダを批判し、これらを欺瞞だと看破した。 イギリス
1930 『特性のない男』 ロベルト・ムージル
ポスト・モダニズム。旧オーストリア=ハンガリー帝国の自壊に至る過程を物語る長大な作品。前半部分は、ドイツ皇帝の在位三十周年の記念祝典に対抗すべく、オーストリアにおいても、ヨーゼフ皇帝在位七十周年を民族的に祝おうとする『平行運動』という幻像をテーマにしている。捉えどころのない文章と理念。どこまでもつかみがたい現実。作者死亡のため未完。 オーストリア
1932 『すばらしい新世界』 オルダス・ハクスリー
ディストピア小説の傑作。 イギリス
1932 『夜の果てへの旅』ルイ=フェルディナン・セリーヌ
反ユダヤ主義 フランス
1932 『ラデツキー行進曲』 ヨーゼフ・ロート
戦争という現実に即した歴史小説。反ナチズム。大戦の犠牲者。 オーストリア
1932 『八月の光』 ウィリアム・フォークナー
初期はアメリカの文学よりもイギリス系の文学に憧れていた。ひとつの小さな郡を創造して、そこを舞台に多くの大作を描いた。意識の流れ、人物再登場、複数の主役による複合的プロット。 アメリカ
1933 『肉桂色の店』 ブルーノ・シュルツ
著者は作品の中でさまざまな二項対立(人間と人形、人工と自然、実在と非在、生者と死者など)やヒエラルキーを反転させ、溶解させていく手法を得意とした。カフカとの類似もみられる。 ポーランド
1934 『自殺総代理店』 ジャック・リゴー
シュールレアリスム。20歳の頃から、将来の自殺を予告した。挑発的でニヒルな行動が目立つようになる。30歳のときに予定通りのピストル自殺を行う。遺された手記には、自殺と生との間で揺れ動く、複雑な心情が描かれており、大きな反響を呼んだ。ブルトンによって、永遠のダンディズムと評された。 フランス
1934 『北回帰線』 ヘンリー・ミラー
作者の処女作。文学史上類を見ない大胆な性の描写。60年代にアメリカで発禁処分を受けている。大学を中退後、放浪生活に入り、無数の下層職業を体験する。代表三部作は、自身の極貧生活とダンスホールで働く女性との恋愛模様と、その裏切りについて自伝的に描いている。三島由紀夫の自殺行為について、独自の見解を述べている。 アメリカ
1935★『夜明け前』島崎藤村
国民文学への挑戦 日本
1935★ 『ドグラ・マグラ』 夢野久作
精神病と狂気を主題にした奇書であり、読者の理解を目的とはしていない。メタフィクション。難解な知識。 日本
1936 『U・S・A』 ジョン・ドス・パソス
失われた世代の一人。意識の流れ。新聞記事の切り抜きや歌詞のコラージュによる節「ニューズリール」、当時の著名人の短い「伝記」、自伝体の流れの断片の節「カメラ・アイ」の、四つの流れにより構成されている。 アメリカ
1936 『風と共に去りぬ』 マーガレット・ミッチェル
南北戦争が舞台の長編作品。戦後、35年を経て生まれた著者の熱心な研究により、二転三転の恋愛ストーリーが書かれた。自身の三度の恋愛体験を作品の底本にしている。最初の読者は常に夫であったが、夫婦合作の可能性もある。映画・舞台・歌曲・ミュージカル。文学は人種差別とどう向き合うのか。 アメリカ
1936 『インスマウスの影』 ラブクラフト
怪奇小説、幻想小説。クゥトルフ神話。先駆者のポーに影響を受け、神智学や超常現象の研究を文学的幻想に変える資質がある。 アメリカ
-----★1937 ピカソがゲルニカを完成させる。→スペイン戦争における、ドイツ空軍によるゲルニカ無差別爆撃を主題としている。-----
1937 『アンセム』 アイン・ランド
全体主義への批判 ディストピア小説 ロシア生まれ アメリカ
1938 『レベッカ』デュ・モーリエ
ヒッチコック監督により映画化。アカデミー賞作品賞 イギリス
1938 『嘔吐』 サルトル 実存主義。ノーベル文学賞に選考されるも辞退する。 フランス
1942 『幻の女』 W.アイリッシュ
詩的表現によるサスペンス アメリカ
1942 『皇帝のかぎ煙草入れ』 ディクスン・カー
密室殺人の巧者 アメリカ
1943 『存在と無』サルトル 実存主義 フランス
1946 『ある都市の死』 ウワディスワフ・シュピルマン
第二次大戦中の体験記。映画『戦場のピアニスト』原作。ポーランド
1947 『アンネの日記』 アンネ・フランク
ナチス収容所で亡くなった15歳の少女の日記。ドイツ
1947 『ペスト』 アルベール・カミュ
不条理によって襲われ、真の正義と団結による抵抗を描く。フランス
1948★『細雪』谷崎潤一郎
没落していく名家の四姉妹の生き方を綴る長編物語。日本近代文学の代表作。昭和天皇に献呈される。 日本
1948 『裸者と死者』 ノーマン・メイラー
第二次世界大戦中、アメリカ陸軍第112騎兵連隊に所属していた著者がフィリピンの戦いに参加した際の体験に基づいて描かれている。高官たちの適性のなさ、それぞれに欠陥を持ち品位も欠如した将兵たちの考えやふるまいを疑問視している。太平洋戦争後における、米首脳たちの展望なども垣間見える。国際的なベストセラーとなった。 アメリカ
1949 『1984年』 ジョージ・オーウェル
貧しい家庭に生まれたことで、資産家階級に対して反抗心を持っていた。生涯、社会主義思想を信奉した。しかし、スペイン内戦に参戦したことで、反ファシズム政権側にも失望しつつ、社会共産主義にも大きな自己矛盾のあることを悟った。本作はアイン・ランドの『アンセム』を参考にして書かれたという説もある。ディストピア小説 イギリス
1949 『エル・アレフ』 ホルヘ・ルイス・ボルヘス
長編作品の否定。膨大な知識による創作。無限や連環、鏡。極大と極小。著作はほとんどが日本語で二万文字程度の短編作品である。神話や歴史書、各国の宗教などへの特段の敬意が見て取れる。初期に専攻したのはイギリス文学である。 アルゼンチン
1949 『セールスマンの死』 アーサー・ミラー
劇作家。発展していく資本主義社会の歪みによって発生した、不幸な家庭の有り様を描いた。競争社会、学歴や職歴、フリーターの立ち位置、勝ち組と負け組の対比など、現代日本が抱える問題を多く孕んでいる。 アメリカ
1950 『われはロボット』 アイザック・アシモフ
ロボットSFの古典的名作 ロボット工学三原則に関する作品や、『夜が来る』などがSFの古典作とされるが、孤独に仕事に取り組む反面、企業の広告に登場したり、ファンとの交流会を楽しむなど、人間的な一面も兼ね備えていた。 ロシア生まれ、アメリカ
1950 『謎の男トマ』 モーリス・ブランショ
右翼イデオロギー作家であったが、第二次大戦中に転向する。ナチスによるユダヤ人迫害に衝撃を受けた。マラルメやカフカの影響から、『書き手の不在』による文学を確立する。 フランス
1951 『時の娘』 ジョセフィン・テイ
『史上最高の推理小説100冊』第一位 イギリス
1951 『全体主義の起源』 ハンナ・アーレント
自らも経験した全体主義についての研究。ドイツ
1951 『ライ麦畑で捕まえて』 J・D・サリンジャー
青春文学の古典。管理社会の欺瞞を若者たちの視点から描いてベストセラーになった。2000年代に入っても売れ続けている。日本の現代作家にも影響を与えた。 アメリカ
1952 『ゴドーを待ちながら』 サミュエル・ベケット
視力を失った、ジョイスの仕事を手伝っていた。多くの作品をフランス語で執筆。自己矛盾に満ちた不条理演劇であり、無数の解釈を内包している。論理の脈絡やストーリーの因果関係すら否定している。 アイルランド
1952 『老人と海』 アーネスト・ヘミングウェイ
失われた世代のひとり。ハードボイルスタイルの先駆者。幼い頃にできたトラウマを乗り越えるために、「男の人生とは相手を征服すること、そして、戦うこと」だと思い違いする。スペイン内戦や第一次世界大戦に参戦している。評価されたのは長編の戦争小説だが、男女関係を描いた短編作品に優れたプロットがある。『戦い』と『喪失』 アメリカ
-----★1953 エドモンド=ヒラリーがエベレストの初登頂に成功される。-----
1953 『消しゴム』ロブ=グリエ
ヌーヴォー・ロマン。人間外の視点。芥川作品を真似て、映画脚本を書いた。芸術派の代表格。 フランス
1953 『長いお別れ』 レイモンド・チャンドラー
ハードボイルド小説。脚本家。切れ味と長い倦怠感の連続。洒落た文章表現。ヘミングウェイやサマセット・モームから文体を学んだ。 アメリカ
1953 『南から来た男』 ロアルド・ダール
「奇妙な味」と評される恐怖を描く。映画監督宮崎駿氏に影響を与える。イギリス
1953 『華氏451度』 レイ・ブラッドベリ
SF、幻想小説。本の所持や読書が禁じられた、架空の社会における人間模様を描いた作品。書物(読書)という概念を殺した、文明社会への復讐。 アメリカ
1954 『悲しみよこんにちは』 フランソワーズ・サガン
中流階級の生活の描写。18歳で執筆。ジャン=ポール・サルトルと交流が深く、作品には実存主義の影響が見られる。『失われた時を求めて』の登場人物の名前の響きから、ペンネームを思い立った。 フランス
1954 『指輪物語』 J・R・R・トールキン
完全なる架空の神話体系を創造。後の小説や映画に多大な影響を及ぼした。ファンタジー小説の革新。三部作はすべて世界史上のベストセラーとなっており、それぞれ一億部の売り上げを達成している。 イギリス
-----★1955 ディズニーランドがアメリカのアナハイム市にオープン。マスコットキャラクターはミッキーマウス。-----
1955 『ロリータ』 ウラジーミル・ナボコフ
ロリコンという単語。言葉遊び。 ロシア
1958 『ティファニーで朝食を』 トルーマン・カポーティ
現実の出来事に小説的な技法を用いて、一つの融合的な産物を世に送り出している。映画においては、オードリー・ヘップバーンが主演を勤めたことでも知られる。 アメリカ
------★1959年 キューバ革命。1月1日にカストロ、ゲバラが率いる革命軍が、政府軍を破り、ハバナ占領を果たして革命政権が成立した。------
1959 『サイコ』 ロバート・ブロック
ガストン=ルルーやラヴクラフトの強い影響がみられ、コズミックホラーを取り入れたホラー小説の系譜である。著者は神話的作品や犯罪小説も手がけている。 アメリカ
1960 『走れウサギ』 ジョン・アップダイク
都会的で知的な作風。アメリカ三大文学賞受賞。アメリカ
1961 『ソラリスの陽のもとに』スタニスワフ・レム
SF界における20世紀の代表作 ポーランド
1962 『野生の思考』レヴィ=ストロース
構造主義 ベルギー
-----★1963 ワシントン大行進にてキング牧師が演説。「I have a dream」-----
1966 『言葉と物』フーコー フランス
1967 『百年の孤独』 ガルシア・マルケス
幼少期に母親から聴かされた、無数の民話の融合。蜃気楼の街を巡る物語。フォークナーを尊敬しており、カフカの技法からこの物語を描くことを思い立った。 コロンビア
-----★1969 アメリカのアポロ11号が月面着陸に成功する。------
1969 『スローターハウス5』 カート・ヴォネガット
著者自身が目撃した戦争体験をもとに、時間と空間、人間関係を結び付けていくSF小説。作者は『プレイヤー・ピアノ』というディストピア小説を処女作として書いている。 アメリカ
1971 『零度のエクリチュール』ロラン・バルト フランス
1972 『見えない都市』 イタロ・カルヴィーノ
ムッソリーニの政権下に幼少期を過ごしたが、反ファシズムの思想を持つに至る。寓話的、幻想的な作風で名を馳せる。ポストモダニズム。「文学の魔術師」 イタリア(キューバ生)
1973 『重力の虹』 トマス・ピンチョン
多数のストーリーと百科全書的な知識が織り込まれている。無数の情報を錯綜させる書き手。覆面作家。コーネル大学英文科在学時に、ウラジーミル・ナボコフの授業を受けていたとされる。 アメリカ
1973 『モモ』 ミヒャエル・エンデ
著者の父親はシュールレアリスム画家のエドガー・エンデ。本作は児童文学であり、SFファンタジー。後に映画化され、各国で配給された。ただ、思想やイデオロギーを無理に塗り込めたため、ストーリーの理解が遠くなってしまったという批評も多く聞かれる。世界各国で翻訳されているが、特に日本で人気があることで知られる。 ドイツ
1973 『真夜中は別の顔』 シドニィ・シェルダン
ブロードウェイの劇作家として活躍。映画化された作品は少なく、テレビドラマ化された作品が非常に多い。 アメリカ
-----★1975 4月30日、南ベトナムの首都サイゴンが陥落し、ベトナム戦争が終結する。アメリカが国際戦争に初めて負ける。------
-----★1976年 アメリカ最大のテクノロジー企業であるApple Incが創業する。-----
1978 『ガープの世界』 ジョン・アーヴィング
ポスト・モダン文学を否定して、19世紀に隆盛を誇った、いわゆるストーリー文学の復権を目指している。ディケンズを尊敬しており、少なからず影響を受けている。 アメリカ
1980 『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコ
記号論、聖書分析。ハイパーテキスト。メタテキスト。 イタリア
1982 『シンドラーズ・リスト』 トマス・キニーリー
ホロコーストを描く小説の代表作。オーストラリア
-----★1983 任天堂からファミリーコンピュータが発売され、社会現象となる。-----
1984 『存在の耐えられない軽さ』 ミラン・クンデラ
プラハの春を題材にした恋愛小説。男性の傲慢と女性の脆弱さを哲学的に表現した。 チェコ
1987 『密林の語り部』 バルガス・リョサ ペルー
1988 『羊たちの沈黙』 トーマス・ハリス
きわめて猟奇的な犯罪を扱ったサスペンス小説。著作にはサイコ系の殺害事件がしばしば登場する。著者は通信社での勤務体験があり、作品に強い影響を与えていると思われる。 アメリカ
1994 『パルプ』 チャールズ・ブコウスキー
大衆雑誌・悪文へのオマージュ アメリカ
1997 『ハリー・ポッターと賢者の石』 J・K・ローリング
イギリスで売り出された初版は五百部のみであった。アメリカのオークションで人気に火が付き、世界中で大ヒットする。シリーズ作品としては、世界一位の記録を持っている。 イギリス
1998 『めぐりあう時間たち』 マイケル・カニンガム
ひとつのテーマの複合的時間枠の再統一。アメリカ
1998 『アムステルダム』 イアン・マキューアン
同作品で英ブッカー賞を受賞する。この作品以外の三作品でブッカー賞の最終選考に入っている。社交界に名を馳せる一人の女性の早世により、多くの著名人が破滅していくさまを描く。19世紀以降に生まれ、急速に発達したマスメディアによる取材姿勢への痛烈な皮肉にもなっている。社会に蔓延る現実的な問題を世に知らしめるべく筆を取る姿勢を貫いている。 イギリス
2003 『停電の夜に』 ジュンパ・ラヒリ
インド系移民の生活を中心としたStory インド系アメリカ
2006 『最後の恋人』 残雪
幼い頃から、当局による思想弾圧を受けていた。幻想と悪夢に満ちた文学。作品には孤独や疎外感が埋め込まれている。フランツ・カフカへの強い傾倒がみられる。 中国
2009 『火星の人』 アンディ・ウィアー
多くのソフトウェア会社を遍歴するプログラマーであった。同年からWeb小説として発表していた本作品を読者の要望により最低価格の99セントにてデータ販売化する。後に『オディッセイ』として大々的に映画化されることになる。インターネット小説の時代へ。 アメリカ
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★旧約聖書・デカメロン・千夜一夜物語・源氏物語など、中世以降の名作の模範となった作品の多くは枠物語の形式を取っている。性の描写に比較的寛容なのも共通点のひとつである。
★年表をご覧になって頂ければ一目瞭然であるが、ここ百年ほどの文学作品の中で、「後世に強い影響を及ぼしている」と言い切れるほどの作品は、1920年代から1930年代にほぼ集中している。これは、第一次世界大戦からの戦争忌避目的や、シュールレアリスムに代表される新しい芸術発表の場を求めて、多くの知識人が、この欧州最大の都パリに集っていたことが原因と思われる。その上で、芸術家同士が主にモダニズムやシュールレアリスムの手法について、互いに影響を与え合ったことも、この時期に創作技法が急激に発展した主要な要因のひとつに挙げられるだろう。1920年代初頭にパリに居を構えていた、もしくは、滞在していたと思われる主な著名人の一覧を下に列挙しておく。
*主なパリ滞在者(1920年代)
マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』
アンドレ・ジッド 『贋金つくり』 ノーベル文学賞
ポール・ヴァレリー 詩人、作家、思想家
ジェイムズ・ジョイス 『ユリシーズ』 アイルランド人
サミュエル・ベケット 1928年から二年間パリに滞在。ノーベル文学賞
エズラ・パウンド 詩人、音楽家、批評家 モダニズム運動の中心的存在
トリスタン・ツァラ ダダイズムの創始者 ルーマニア人
アンドレ・ブルトン シュールレアリスム
ガートルード・スタイン アメリカの著作家 美術品の収集家
アーネスト・ヘミングウェイ 『老人と海』 ノーベル文学賞
F.S フィッツジェラルド 『グレート・ギャッピー』
シャーウッド・アンダーソン モダニズム 『ワインズバーグ・オハイオ』 アメリカ人
ヴァルター・ベンヤミン ドイツ人思想家、哲学者、翻訳者
セルゲイ・エイゼンシュテイン 映画監督 『戦艦ポチョムキン』 ロシア
ハヴロック・エリス 性科学者 性心理学者 イギリス
ジョージ・ガーシュウィン 作曲家 アメリカ人
イーゴリ・ストラヴィンスキー 作曲家 『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典』 ロシア
ヴァレリー・ラルボー 詩人、小説家、随筆家、翻訳家
ブノワ・メシャン 画家、作曲家、難解な英詩の翻訳、ユリシーズの翻訳にも参加
セルゲイ・ディアギレフ ロシアの総合芸術プロデューサー
★歴史書・風土記・古文書などは、真偽の如何を問わなければ、基本的にはノンフィクションであるため、上記の想像的な小説作品には含んでいないが、歴史的事実は、しばしばその後に生まれてくる作品たちに大きな影響を与えている。特に19世紀から20世紀初頭にかけての名作の中には、ナポレオン戦争・フランス革命・第一次世界大戦などが、背景として必然的に登場することになる。歴史を歪めた革命や大戦は、その時代を生きた人々にとって、必ずしも良い影響を与えなかったと考えられるが、これらの重大事件が文学史に残る偉大な作品たちを生み出してきたのも事実である。小説とは歴史の鏡なのだろうか?
★小説作品に登場する著名人の中では、ナポレオン・ボナパルトが圧倒的に存在感があり、レ・ミゼラブル、巌窟王、戦争と平和に登場している。また、バルザックの多くの作品の背景説明に引用されている。
★ホルヘ・ボルヘスは自国を象徴する作家を選ぶ場合、どの国も典型的な人物を選び出してはいないように思えると語っている。すなわち、イギリスなら、シェイクスピアであり、ドイツはゲーテ。フランス人の大方の意見はユゴー。スペインは多くの優れた詩人を選ばずに、もっともスペイン人的ではないセルバンテスを選んでいる。まるで、どの国も自分たちの特性における弱点を消し去る作家を好んでいるように思える、と。
★「数分で語り尽くせる着想を、五百ページに渡って展開するのは、労のみ多くて功少ない狂気の沙汰である。よりましな方法は、それらの書物がすでに存在すると見せかけて、要約や注釈を差しだすことだ」 『伝奇集』 ボルヘス
「小説の原動力は、なんといっても物語性、すなわち、シャハラザードの自由自在の魔力に他ならず、これを心ゆくまで堪能させてくれるのは、長編小説、もっと正確に言い直せば、ロマン、あるいはノヴェルに勝るものはない」 『二十世紀の十大小説』 新潮社 篠田一士
小説におけるもっとも単純な比較点である長短について、真逆の見解が存在する。長編作品の優位性については、あえて語るまでもないが、多数の登場人物についてのくどいとも思える詳細な説明、あるいは作者個人の人生哲学、思想、教訓、思い出話など、一部の読者にとっては、ほとんど不要とも思える部分が存在していると、Storyのバランスを崩すばかりか、一文一文に気持ちを集中させて読み、さらに想像を膨らませようとしている読者の理解の邪魔になる可能性はある。逆に短編集においては、作品間の一つひとつの区切りによって、読者が気持ちを整理できる。空いた時間や交通機関において読めるのも長所である。短編作品には、その文章の目的を明確にできるという特徴点があるものの、主役やそれに付随する主要なキャラの性格や特徴の説明に多くの文章を割くことができず、読者の思い入れを引き出しにくい点が難点である。いわゆるオチの部分が弱いと物語全体の説得力を欠くのも弱みといえる。
文章の創作については、その想像の背景(歴史、事件)を基にして、新たに物語を構築したり、ルネサンス以降、話法や技法の大幅な発展があり、革新的な進歩を続けてきた。だが、作家がアイデアの端緒を掴むその瞬間の、空想・想像の在り方については、具体的に語られることは少ない。「ゼロから名作は生まれない」ことはよく語られるし、誰にでも分かりそうだが、原稿用紙数枚単位での論理的な説明では、困難を極めるはずだ。作者が原稿用紙の上にとても大切なそれを書きつけていくとき、その最も重大な過程は、遺憾ながらすでに終わってしまっていて、捉えどころのない空間にまで消え去ってしまっているのである。
★発想の瞬間について
作者の脳内における新たな物語(Story)の創生について、具体的に言及している作家のひとりに、十九世紀の英国の作家メアリーシェリーが挙げられる。彼女の作品はホラーの古典ともSFの元祖とも分類されている。父は自由主義思想家、母は急進的な女性解放論者で、ふたりともに小説作品をものしていた。
1816年、ジュネーヴ湖畔は、雨ばかりに見舞われる、うっとうしい夏を迎えていた。遊説に訪れた若き詩人たち四名は、幾日も降り続く雨のために、別荘から外へはなかなか出られず、その日常は退屈を極めていた。その腹いせとして、ひとり一つずつ、戯れに怪談ホラーを考えてみようということになったらしい。言い出しっぺのバイロン卿は、少年時代の体験を元に理念や感情を駆使した美しい詩を書こうとしていた。続いて、ポリドリという男は、主人の秘密を鍵穴から覗き見てしまったために、頭部を頭蓋骨にされてしまう女性の、不気味な物語を考案した。彼は後に『吸血鬼』という、さらに恐ろしい物語を出版することになるだろう。ただ、この手練れの二人も、せっかくの草案を散文で長々と紡いでいく作業については、いささか骨が折れたらしく、結局のところ、完成させることはできずに、途中で放り出している。このように、シェリーのライバルたちは、いくつかの奇怪なストーリーを紡いだわけだが、彼女自身には、なかなかそれができず、大きな焦燥感を感じたらしい。「これを読むと鼓動が早くなり、周りを見渡すことも怖くなるほどの作品を考えてやる」彼女はそう念じていた。しかし、その夜の彼女の執念は惜しくも敗れ去った。考えれば考えるほどに、創造力が決定的に欠けていることを思い知らされただけであったと、後に述懐している。
「創作にあたり、無から有が生まれることは通常あり得ない」
「どんな物語も、それに先立つ神話や経験や混沌から発生するものである」
上記のふたつの公理が存在することを、彼女は謙虚に認めざるを得なかった。1816年とは、後に君臨するリアリズム小説たちが、まだ全盛期を迎えていない時期である。後世の作家たちが持ち得るはずの雄大で天才的な発想や手法を彼女は持っていなかったことになる。この時点では、シェリーは読書家ではあったが、創作家ではなかったのである。
四人は創作の試みに飽きたのか、実際に起きたとされる奇妙な出来事を題材にした長時間の談義に戯れるようになった。彼女はその夜、あまりしゃべらず、ほとんど聞き手にまわっていた。シェリーは確かに怪談勝負の場では、自身の思い付きを発表することはできなかったが、その直後、諦めて寝室へ戻ったとき、数々の体験が引き金になり、科学者による新たな生命の誕生という、想像の瞬間を悪夢に見ることになる。それは、青白い顔をした研究者が人であって人でないもの、つまり、人造人間を創り出す夢であった。
「想像力が命じてもいないのに私の脳に憑りつき、思考の舵を奪い、様々な発想を与えてくれるようになった」
もちろん、このひと夏の経験だけが、彼女の創造力の源ではない。シェリーは若い頃からドイツ作家により書かれたホラー小説を興味を持って読んでいた。あの豪雨の夜の体験がないにしても、ホラーへの憧れがその下地があったことは明白なのである。そういった土台に加え、出産による実母の死、自らの妊娠とその子の突然の死。そうした恐怖と失望の経験が、彼女の脳内で無意識のうちに組み合わさって、連想を繰り返し、身の毛もよだつような、ある種具体的で、独自性のある怪物の夢を見せたのだろう。文学における創作とは、決して偶然により行われるのではなく、読書経験と人生体験と、ある時期に起こされた特異な発作が生み出す、連想が織りなしていく、クリエイター特有の能力のことである。
彼女よりも100年以上後に生まれる、アメリカSF小説の大家、アイザック・アシモフは、彼女が創り出した怪物への恐怖を「フランケンシュタイン・コンプレックス」と名付けた。
★外国文学解説書の紹介
最後にこれから外国文学に取り組まれる方のために、読みやすいものを選んで解説書を紹介します。なるべく、短時間で読めて、多くの知識が得られる作品を選びました。今後も増やしていく予定です。
※『名作はなぜ生まれたか』 木原 武一 同文書院(アテナ選書) のちPHP文庫
欧米の文豪二十名の生涯を、その作品の特徴と共に紹介していく。ゲーテとミッチェルとジョイスという完全な別ジャンルを、一緒くたに語れる文学本はきわめて珍しい。最近の日本文学には詳しくとも、バルザックやドストエフスキーといった文士の名にピンとこない方は、まず、この本から読み始めるのが良いかもしれない。作者は小説家という人種を知識人という言葉でなく、ちょっと変わった面白い人たちというふうに紹介したいようだ。そこに異存はない。
※『要約世界文学全集』 木原 武一 新潮文庫
ホメーロスから、ゲーテ、トルストイ、カフカを経て、フォークナーやナボコフまで、50名以上の作家の代表作64作品をあらすじの体で紹介していく。ゲーテ、バルザック、トルストイ、ドストエフスキーは二作品ずつ紹介されている。世界文学をの背骨となっている作家は、ほぼ網羅されているため、それを学ぶ上では、きわめて強力なガイドブックになってくれるだろう。(個人的には、G・マルケスや、J・ジョイスが除外されているのは、大変残念ではあるが)。各作品における著者の解説の文章量は少ないが、適切である。「あらすじだけを読まされても、内容理解には届かないのでは」との批判もごもっともだが、どんなに偉大な著書にあっても不要な部分は必ず存在する。詳細でなく、作者の意図、その要所だけを捉えていくことも重要である。ひと作品15分程度で読めるので、電車での通勤途中や眠れぬ夜のひと時に開けば、お役に立つに違いない。
※『プルーストを読む』 鈴木道彦 集英社新書
たとえ、どんなに優しい言葉で諭されても、プルーストは簡単に読める作家ではない。言わせて頂ければ、冒頭の数ページからすでに苦痛だ。しかし、恋愛や芸術観や時制に対する精密描写は、自身の文学論を掘り下げる上で、避けては通れない関門のひとつである。これをいちから読み解くためには、どうしても解説書がいる。筆者は翻訳本も存在しない学生時代にどのようにプルーストの本に出会い、憧れ、苦闘して、全訳に至ったのか、そもそもの経緯から説き起こしている。この長大な作品を完読するためには、掲げられたテーマと時代背景と実在の人物・事件を、特徴として正確に捉えることが重要である。この本は薄い新書であるが、作者の丁寧な解説により、作品への興味がいやますかもしれないし、手っ取り早く諦めるきっかけになるかもしれない。どちらにせよ、単行本で十数冊にも及ぶあの長大な作品を、万札はたいて購入してしまう前に、この一冊を読んでおくことは、決して悪いことではないと思う。
※『世界の十大小説』 サマセット・モーム
当初は作者がアメリカの『レッドブック』という雑誌の編集者から、すべての世界文学の中から、十の作品を選んで、その紹介文を書いてほしいとせがまれたことによる。当時の主要作品は欧州に集中していた。しかも、読書という趣味は、どうしたって自国の作家を贔屓せざるを得ない、と難色を示しながらも立派に書き上げている。英、仏、米、露の作品からバランスよく選ばれていて、ラインナップには特に依存はない。序文には、「優れた作品とはどういったものか」という定義も示されていて、これから文学の道を進もうとする若者の意欲をそそるかもしれない。作者は自分が読んだ最高の作品は『失われた時を求めて』、自分が読んだもっとも恐ろしい作品は『城』と挙げているが、この両者は選んでおらず、選ばれた十の作品は、すべて19世紀以前の作品である。そのことについての説明は文中に見られなかったように思う。
※『世界の名作を読む』 工藤康子、池内紀、柴田元幸、沼野充善共著 角川文庫
一名から二作品を紹介する部分もあるが、十六名に及ぶ作家の作品のあらすじと技法を紹介している。2016年に発売された、比較的新しい海外文学の紹介本であり、高校の教科書のようなありきたりの解説はほとんどない。グリム兄弟やチェーホフの短編作品など、比較的捉えやすい作品もあるが、内容理解を深めるには相当な文学への興味が必要かもしれない。メルヴェルからは白鯨でなく『書写人バートルビー』、カフカからは審判や城でなく『断食芸人』、フローベールからは『純な心』を紹介、それぞれの文豪のメイン作品以外にもスポットをあてている点で、それぞれの文学者さんのこだわりが伺える。『罪と罰』における幻想とリアリズムの技法、ヴェルヌの作品にみられるプロットの工夫や誇張の技法などを分かりやすく説明している。これから文学作品に取り組みたいと思っている方にもおすすめである。ただ、工藤氏と沼野氏の講義については、やや難解であり、それ相応の予備知識が求められる。
※『二十世紀の十大小説』 篠田一士 新潮文庫
十九世紀以前の作品から選ばれた、サムセット・モームの『世界の十大小説』を参考にする形で、筆者が二十世紀において、大きな足跡を残した十の作品を紹介する。プルーストの『失われた時を求めて』をもっとも重要な作品として冒頭で取り上げている。作家やストーリーライターを目指す者にとって、読書難度の高い作品はその基幹であり、避けて通れない部分もある。カフカやジョイスといったその道の教授でも解説の難しい作家を柔らかい口調で丁寧に紹介してくれている。ただ、完読するにあたっては、最低限の文学者、文法や用法の知識は当然求められる。『USA』や『特性のない人』など、現在では手に入りにくい作品の詳細な解説が掲載されている。これらの逸品に興味を抱いている人にとっては、得難い情報のはずだ。日本人作家として、唯一、島崎藤村氏が選ばれている。
概ね、一人の作家から一つの作品を選びました。好みに合っていなければすいません。