第五話 「勘弁してやるにゃガぁぁぁぁぁぁッ!?」
「『金属の爪』ぉぉッ!」
男が技名を叫ぶと同時、灰色の塊がもの凄い勢いで飛んで来た――。
僕に直撃するのかと思ったが、直前でピニャが前に出てそれを受け止めてくれた。
「ピニャッ!?」
「何度も喰らうほど……私はまぬけじゃないのよッ!」
ピニャが受け止めたのは、技で強化されたカルアの両手だった。
「にゃにゃにゃあ……なかなかやるにゃあ。お前も同じレイドとはいえ、生身でカルアの技を受け止めるなんてにゃ」
「褒められても嬉しくないわよ……私がレイドなんてね……ッ!」
「でも……いつまでもカルアの攻撃を止めるなんて……不可能にゃッッ!!」
「キャッッ!!」
カルアが両手を思いっきりなぎ払った。直後ピニャの姿は消え、後方で大きな破砕音が上がった。
「ハッハッハ! さすが俺のカルアの技は一級品だぜ!」
「ピニャッ! 無事か!?」
振り返ると、民家の壁に人がくぐれる程の大穴が空いていた。その穴の外でピニャが倒れているのが見えた。
「次はお前の番にゃぁ」
カルアの方に視線を戻すと、爪についた血をペロリと舐めるカルアの姿があった。
「ひッ! こっ、こっち来るなッ!」
「今大人しくお縄につけば、足を一本折るだけで勘弁してやるにゃガぁぁぁぁぁぁッ!?」
突然、目の前のカルアが吹っ飛んだ。
そこで僕は理解した。
起き上がったピニャが、思いっきり猫耳少女の顔面をぶん殴ったのだ。
「さっき言ったでしょ……この民家に入ってきたらぶん殴ってやるって。私、嘘はつかないのよ」
「ピピ、ピニャッ! だ、大丈夫か!?」
「心配ないわ。良い感じに頭に血がのぼって、小さい頃天界の娘達と喧嘩した時の感覚が戻ってきたから」
「いや、戦えるかどうかの心配じゃなくってッ! 怪我の方は……」
彼女の体には新しい切り傷が増えていて、頭からも血を流していた。
「でもおかしいわね……女神の私がここまで深手を負うなんて……」
「なぁ逃げようよ! これ以上は危ないって!」
「逃げるってどこに逃げるのよ。多分、外にはあのクソダサファッション親父の部下が囲ってるでしょうし、ここでカルアって子を仕留めた方が生き残れる可能性は高いわ」
「戦うのか!? 勝てる見込みはあるの!?」
「どうだろう……でもまぁ、運命の女神様にでもお願いしてみるわ」
「そんな冗談言ってる場合じゃ……」
「テメーら! 何余裕かましてんだ! 起きろカルアッ!」
「にゃ……にゃぁぁぁあッ」
男の怒号でカルアが立ち上がる。カルアは口から血が垂れているが、さほどダメージを受けているようには見えなかった。
「めちゃくちゃピンピンしてるぅッ!? ど、どうするんだよピニャッ!?」
「こうなったらやるしかないでしょ。あんたは邪魔だからそこでじっとしてなさい」
それだけを言って、ピニャはカルアに近づいていった。
「よくもやってくれたにゃ……もう足一本だけじゃ済まさないにゃッ! 捕らえた後は両手両足を粉々にして地べたに並べてやるにゃッッ!!」
「あら、あんたさっきから捕まえる捕まえるって言っときながら全然出来てないじゃない。そんなんで私達を地べたに並べられるのかしら?」
「ほざくにゃぁぁぁあッッ!!」
カルアがピニャに飛びかかる。
対するピニャは、その場で身構えただけで避ける素振りを見せない。
「そうだカルアッ! そいつを半殺しにして俺の前に連れてこいッ! 『金属の爪』ッ!」
「ピニャッ! 避けてくれッ!」
男が技を叫ぶ。鋭利な刃物と化したカルアの両手がピニャに襲いかかる。
しかしどういう訳か、少女の攻撃はピニャに直撃することはなかった。
カルアの爪はピニャの真横をすり抜けて外したからだ。
「なにゃッ!?」
「ほらどうしたのよ、私をご主人様の前に連れて行くんでしょ?」
「何してやがるカルアッ! もう一度『金属の爪』だッ!」
「にゃ、にゃァァァァッッ!!」
再度カルアが技を繰り出すも、またもピニャに当たること無かった。
「なぜだッ! なぜ当たらねぇんだッ!? 『金属の爪』ッ! 『金属の爪』ッ! 『金属の爪』ォォォォッッ!」
何度技を出しても、その全てをピニャは捌いていく。
この時、ようやく僕の目に答えが見えた。
ピニャは恐ろしく早い手刀を相手の腕や手の甲に打ち込んで、カルアの爪攻撃を受け流していたのだ。
最小限の動きで攻撃を捌くその姿は、ロールプレイングゲームで使われる“パリィ”の動きに見えた。
「いいぞピニャッ! その調子だ!」
「気が散るッ! 黙っててッ!!」
「なめんじゃねぇぞ小娘がァッ!! カルアッ! 『金属の小刀』ぉぉぉッ!」
「にゃ……にゃァァァァッッ!!」
「えっ!? ピ、ピニャッ! 避けろッ!!」
嫌な予感がして僕は叫んだ。
次の瞬間、カルアが空中にジャンプして、くるりと一回転する。
すると彼女の尻尾が刃物のような形状に変化し、振り下ろされた鞭のようにピニャに襲いかかった。
「くッッ!」
彼女は間一髪のところで横に飛んでかわした。
「危ねぇっ! ナイスだピニャッ!」
「だからうっさいって言ってるでしょッ!!」
地面に片ひざをつくピニャを見てみると、腕に一本の切り傷が出来ていた。あと少し避けるのが遅かったら、大けがでは済まなかったと思うとゾッとする。
(それにしても……『金属の小刀』……どうしてまた“僕の知っている技”がここで出てくるんだ……?)
さっきから謎が深まるばかりだ。だが僕の思考はモヒカン男の笑い声でかき消されてしまった。
「ハッハッハ! 技がひとつだけだとでも思ったか!? これなら軌道を逸らすことも出来ねぇだろ! これで俺の勝ちだッッ!!」
「そうね……今の攻撃を連続で出されたらさすがに避けきれないわね……」
「そうだろうそうだろうッ!」
「その子が連続で出せれば……の話だけれどね」
「はぁぁ? どういう意味だ!?」
ピニャの言葉で、僕はあることに気がついた。
「はぁ……はぁ……はぁ……申し訳……ございませんにゃ……ご主人……様……」
これまで戦い続けてきたカルアが、全身に大量の汗を垂れ流し、肩で息をしていたのだ。見るからに立っているだけでやっとの様子だ。
「何をしている! さっさと小娘に止めを刺せッ! 『金属の小刀』ッ!」
男が技を叫んだ。しかしカルアは地面に両手をついてしまう。カルアの尻尾は変化することはなかった。
「ど、どうしたんだカルアッ! まだこの技は一回しか使ってないんだぞ!?」
「あんた、頭からっぽなの? あんなに技を出し続けたらレイドの体力が持つはずがないじゃない」
「何だとッ!? そ、それじゃあ貴様は……これを始めから狙って……!?」
「形勢逆転ね。あんたの敗因は、戦術を組むためのおつむが足りなかったことね」
ピニャは自分の頭を人差し指でトントン、と叩いて見せた。
たじろぐモヒカン男の姿を見て、僕はピニャの勝利を確信した。
「やったぞ! 僕達助かったんだッ!」
この村を脱出したらピニャに手当をして、心からお礼を伝えよう。 何にせよ、ありがとうピニャ!
そう思った瞬間。
僕は背後から何者かに羽交い締めにされていた――――。
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