第四話 「それでも女神かよ!」
「ど、どうするんだよ! あいつら追いかけてくるぞ!」
「だったら早く隠れられる場所とか探しなさいよ!」
「そんなこと言われても……!」
走りながら周囲を見回してみる。そこで気がついたが、どうやらここは森に囲まれた村のようだ。相当な寒村なのか、木製の小さな建物がぽつぽつと建っているだけだ。
「森に逃げるとかどうだ! 遠くに逃げさえすればあいつらも追いかけて来ないだろ!」
「そうね。魔法が使えない今、さっさとここから離れるのが一番……待ってッ!」
ピニャが唐突に止まる。後ろをついていた僕は、勢い余って彼女の背中にぶつかってしまった。
「わぶッ! ど、どうしたんだよ急に」
「しッ! 隠れて!」
ピニャに腕を引っ張られ、民家の陰に身を潜めた。そして彼女はそっと顔を出してどこかを見ている。
「何見てるの?」
「まずいわね、これじゃあ森の外に行けないわ」
無視された……。
民家の先から複数の声が聞こえてきた。
「ヒャッハーッ! バカな獣共だぜ、俺たちから逃げ切れるとでも思ってんのか!?」
「お願いします! この子は……どうかこの子だけは見逃してくださいッ!」
「うえーーんッ! おかあさーーんッ!」
男の下卑た笑い声、そして女の人と子どもの悲鳴だ。気になって僕も彼女と同じ方向に視線を動かすと、先ほどのモヒカンと同じ肩パッドを装着した男が、女性と子どもを引きずって森から出てきたところだった。
よく見てみると、あの女性と子どもの頭にも緑色の獣耳がついていた。
「獣人ってのはあいかわらず頭がわりぃなぁッ! 貴重な商品をみすみす逃がすわけねぇだろうが!」
「そんな……ッ! お願いします! 私はどうなっても構いません! 何でも言うこと聞きます! だから娘は……娘だけは連れて行かないで!」
「いやだよぉ! おかあさんといっしょにいるぅっ!」
「おーおーそんなに離れるのが嫌かぁ……。だったら仲良くセットで売ってやるよ! ヒャーーハッハァッ!」
「嫌ッ……! だめぇッ!」
男は女性と子どもが泣き叫ぶのもお構いなしに、どこかへと連れていってしまった。
「やっ、やばいって! めちゃくちゃバイオレンスな状況じゃん!」
恐ろしい光景の一部始終を見ていた僕は、気がつくと全身が震えていた。
「森に逃げても捕まるようね。逃げられないよう広範囲に人員を配置してるのかも……。あいつらが何人いるか分からない以上、このまま森の外に逃げるのは危険ね」
「どうしてそんな冷静にいられるんだよッ! 早くさっきの親子を助けに行かないと!」
「はぁ? ……あんたどこまでバカなのよ。さっきも言ったでしょ、私は今魔法が使えないの。どうしようもないのよ……」
「だからってこのまま見捨てるのかよ! それでも女神かよ!」
「黙れッ!」
僕はピニャに胸ぐらを掴まれ、そのまま民家の壁に叩きつけられた!
「がッ! 何すんだよ……!?」
「この際だから教えてやるわ! 認めたくないけど、私はあんたの“レイド”で、あんたは私の“テイマー”になってしまったの! レイドはテイマーと契約を結ぶことで強力な魔法や技を出せるようになるけど、それと同時に大きなリスクを抱えるの!」
「お、大きなリスクって……何?」
そう聞くと、僕の胸ぐらを掴む力が強くなった気がした。そして小さく、だが力強く声を出した。
「……テイマーが死ぬと、レイドも一緒に死んじゃうのよ」
「えッ!?」
「理由は長くなっちゃうから今は話さないわ。あんたは良いわよね。レイドが死んでも、シールが消えるだけで済むんだから!」
そっそんなッ……! それが本当ならピニャと僕は一蓮托生って訳で……いや、それはピニャの方だけ。僕は自分の身さえ無事なら死ぬことはないのか……。
「私が“神の魔法”を使えれば良かったんだけど……あれは下界では使えないの。たとえあんたに命令されてもね……。だから……私じゃあの人達を助けられないの……」
「そんな……それなのに僕は……ピニャを危険な目に合わせようと……」
「……理解した?」
「うん……ごめん……」
「分かればいいわ」
ピニャは落ち着いたのか、僕の胸ぐらから手を離してくれた。
その時だ。
「なぁ、今どこかで声がしなかったか?」
「ああ、俺にも聞こえたぜ。男と女のな」
また聞いたことのない男の声が民家の向こうから聞こえてきた。しかも声の数からして二人ほどいるようだ。
何人ヒャッハー共がいるんだ、この村はッ!
「まだ隠れている奴がいるのかもな」
「ああ。また森に逃げられたら面倒だ。探しに行こうぜ」
「確かこっちからだったな」
男達の足音が僕達の方へと近づいてくる。
まじかッ!
「どどど、どうしよう……。このままだと見つかるぞ……」
「ここから離れた方がいいわね。こっちよ」
ピニャは僕の腕を引っ張り、男達とは逆の方向に向かう。そして適当な民家を見つけるとそのまま中に入った。中は狭く、ひどく荒らされており、すでに誰もいないようだった。
「ひとまずここに隠れましょ」
ピニャがその場に座ったので、僕もその横に座り込んだ。
「もしあいつらが入ってきたらどうしよう……」
「そん時は私が思いっきりぶん殴ってやるわ。さっきあんたにしたようにね」
「ははは……頼もしいな……」
いやほんとに……その点、僕はなんて情けないんだ……。おどおどばっかしちゃってさ……挙げ句の果てに女の子に守られるなんて……。
僕は自然とため息を吐いてしまう。
その時、外から聞き覚えのある怒号が飛んできた。
「小僧ぉッ! 小娘ぇッ! 見つけたぞぉッ!」
あのモヒカン男だ……!
「『金属の爪』ぉぉッ!」
男が技名を叫ぶと同時、灰色の塊がもの凄い勢いで飛んで来た――――。
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