第三話 いや、どこの世紀末だよッ!
「危ないッ!」
僕は地面を思い切り蹴った。
刹那、猫耳少女の鋭い爪が、ピニャに振り下ろされた……。
「え? きゃッ!」
ピニャに攻撃が当たる直前に、僕はピニャに飛びついていた。体の後ろで風の刃が通り過ぎたのを感じながら、僕はピニャもろともそのまま干し草の山にダイブした。
まっ、間に合ったぁぁッ!
「いてて……ピニャ! 大丈夫か!?」
彼女の無事を確かめるために呼びかける。
しかしどういう訳か、助けてあげたにもかかわらず、彼女は汚物を見るような目つきをしていた。
「アンタ……どこ触ってんの?」
「え? どこって……」
そういえば……手のひらに何やら柔らかい感触があるな。干し草がこんなにも柔らかいはずもないし……握ってみるとふにゃりと弾んで手が押し返されるんだけど……あれ? これって……。
「えーとぉ……もしかして……胸?」
「変、態ッッッ!!」
僕はぶっとばされていた。気づいた時にはもう宙を舞っており、そのまま強い衝撃と共に地面に転がった。
なっ……殴られた! あごをッ! 思いっきりッ! 比嘉地にだってそんなことされたことないのにッ……!
「さいっっってーね!! 女神様に手を出すなんて人間のクズ以下よッ!」
ピニャは両手で胸を隠して縮こまり、顔を真っ赤にしていた。
「ち……違うッ! 触りたくて触ったんじゃない! 君を助けようと必死で……」
「言い訳すんなッ! 大体私、女神なのよ!? あんな攻撃余裕で避けれたわよ! 余計なことしないでッ!」
そっ、そんなぁ……。僕のがんばりはいったい何だったのよ……。
「にゃにしてんだ、こいつら……」
声のした方へ視線を向けると、猫耳少女が冷めた目でこちらを見つめていた。
そっ、そうだ! 早くここから逃げないと!
足に力を入れるが、あごを殴られた衝撃で頭がぐらんぐらんして真っ直ぐ立てない……なんてこった!
「こんなバカな奴らに時間を食ってる場合じゃないにゃ……早く捕まえないとご主人様に叱られ」
「――カルアッ! 何をもたもたしてやがるッ!」
突如、激しい怒号が馬小屋に響いた。カルアと呼ばれた少女が肩をビクリッと震わせ、おそるおそる声のする方を振り返った。
「たかが村人狩りにいつまでかかってんだ、グズが!」
そこには、肩パッドを装着したモヒカン頭の男が立っていた。
いや、どこの世紀末だよッ!
「ごごご、ご主人さみゃ!? 申し訳ございませんにゃ! こいつらがちょこまかと逃げ回っておりまして……」
「それを捕まえるのがお前の仕事だろうがッ! 今回の作戦ではお前しかレイドを連れてきてないんだぞ! そのお前がこの有様とは……また痛めつけられたいのか!?」
「すっ、すみませんにゃ、すみませんにゃ! 今すぐこいつらを捕らえますにゃ!」
カルアはこちらに振り向き、先ほどのように爪を立てた。男に脅されたせいか、どこか怯えた表情をしている。
「ご主人様の前で無様な姿は見せられないにゃ……覚悟するにゃ!」
少女の鋭い爪が僕に襲いかかる!
やばいッ! まだ頭がふらふらしているッ!
その時だ。
ゴリッ!!
「ごばっっっッ!!」
横っ腹に鈍い衝撃が走り僕は吹っ飛ばされていた。そのおかげでカルアの攻撃が当たることはなかったが、いったい何が起きたんだ!?
「ふんっ、さっきのお礼よ」
声の主を見ると、足を振り抜いた格好のピニャの姿があった。
「お前ぇッ! 僕のことを蹴ったな!?」
「あんたが私にしたことを考えたら、こんなの安いもんでしょ。感謝して欲しいわ」
「胸触っちゃったのはごめんよ! だからってこんな助け方ってあんまりじゃ」
「ところで、そこのクソダサファッション男」
「おいぃぃッ! 無視すんなッ!」
ピニャはモヒカン男の方へ顔を向ける。
「あっ? 何だテメーは? 人間のようだが……この村へ何しに来やがった?」
「あんたがその子の主人なんでしょ? あんたのレイドが私に無礼を働いた責任、あんたに取ってもらうわ」
「はぁ? バカかテメーは? お前みたいな小娘風情が、俺のカルアに勝てる訳ねぇだろうが!」
「おいっ、めっちゃ挑発してるけど、勝算あるんだろうな?」
「はぁ、あんたバカなの? 私を人間だって思い込んでる時点で、この男の敗北は決まってるのよ」
そう言うとピニャは、自身の人差し指を男の方に向ける。
「殺しはしないわ。私の持ってる中で一番弱い“神代魔法”を使ってあげる」
「ディオ・マジアだ? そんなの聞いたことが……なっ!?」
男が大きく目を見開いて、勢いよく後方へ退いた。
「距離を取れ、カルアッ! そいつ人間じゃねぇッ!」
「遅いッ! 『神の紫電』ッ!」
ピニャが魔法らしき名称を叫んだ。
そうだ! こんな奴だけど女神様だもんな! これで勝つるッ!
……しかし、いくら待っても何も起こらない。静寂がその場を包み込んだ。
「……あれ、何で何も起きないのよ!」
「あーーーっはっはッ! バカだこの女! ビビらせやがって! “レイド”が魔法を叫んだところで出せるわけないだろ!」
「はぁッ!? あんた何言ってんのよ! 私がレイドの訳がないじゃ……まさか!?」
ピニャが僕の方へと近づいて来て、いきなり胸ぐらを掴んで至近距離に顔を近づけてきた。
「ひッ! 突然何すんだよ!?」
「あんたッ! 私にシールをぶつけたって言ったわよね!? 今すぐ私の首に異変がないか見なさいッ!」
「ひぃぃぃッ! 見ます見ます! ……あれ?」
ピニャの首元を覗いてみた。
「何か……首の周りをうっすらと“首輪の模様のアザ”があるんだけど……」
「そんな……ありえない……どうして私に契約の印が……」
ピニャは僕の胸ぐらを離して、ボソボソと何やら呟きだした。
「いや、そんなことよりも重要なのは、このままじゃ私の命が……ッ!」
「何をゴチャゴチャ言ってやがる! 本当の技というものを見せてやるよ! カルアッ! 『金属の爪』だッ!」
「にゃぁぁぁあッ!!」
男が叫ぶと、カルアの両手の爪が見る見るうちに巨大化していく。かぎ爪のように先が細長くなり、それはまさしく猫……いや、虎の爪のように鋭く変貌した。
「なっなっ、何あれぇぇぇえ!?」
「バカッ!! 避けなさいよ!」
完全な凶器となった爪を、カルアは頭上まで持ち上げ、そのまま叩き落とした。
「ちッ!」
僕の前にピニャが立ちはだかる。そしてピニャに攻撃が当たった瞬間、僕達は後方に吹っ飛び、馬小屋の壁を突き抜けて外に放り出された。
「がッ!! ……うあッ!! いっっったぁぁぁあ……」
「何してんの……早く……逃げるわよ……!」
痛さのあまり起きられずにいる僕の腕をピニャは掴み、立ち上がらせてくれた。
「おい、ピニャッ! 怪我が!」
ピニャの肩口に切り傷があり、そこから血が滴り落ちていた……。
「こんなのどうってことないッ! とにかくここから逃げるのッ!」
「何してやがるッ! 逃がすんじゃねぇッ!」
「まずい! こっちよッ!」
僕はピニャに腕を引かれながら、馬小屋を背に駆けだした。背後から男の怒号が聞こえてきた。
(そういえばあのモヒカン、さっき“メタッロ・ウンギア”って言ったよな……。どうしてここであの技が……?)
カルアから逃走している最中、ふと僕の頭にそんな疑問が過ぎった。
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次回は4月6日の夜に投稿を予定していますので、乞うご期待! ╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒