第二話 「いつまで乗っかってるにゃッ!」
「何何ッ!? いったい何が起きたの!?」
土煙が馬小屋中を覆い尽くして、周りの状況が分からない。唯一煙が届いていない天井の方へ視線を向けてみると、小屋の屋根に人方の大きな穴が空いていた。いったい何が落ちてきたのだろうか……?
「いったぁぁ。あーもうッ! 何なのよ!」
ふいに、土煙の中から声が聞こえてきた。女性の声だ。そして少しずつ煙が晴れ、上空から“誰”が落ちてきたのかが分かった。
そこには、気絶しているのか、うつ伏せになって倒れている猫耳少女と、その上に座り込んで痛そうに腰をなでている、ほぼ半裸の金髪美少女の姿があった。
「ピニャ!?」
先ほどの転生の間で僕のことを引っ叩き、必要以上に罵倒してきたドS女神。それが落下物の正体だった。
「え? あっ、あんたッ!」
僕に気づいたピニャが、いきなり鬼の形相になった。赤い双眸に、どす黒い血のような殺意が灯っている。
「一体全体どうなってんのよ! あんた私に何したの!?」
「いや、何って……ただアレンヌさんに貰ったボールを君にぶつけただけで……」
「はぁッ!? 何でそんなことするのよ!?」
「そっ、それについてはほんとにごめんッ……! あんなことになるなんて思わなくて……」
「『思わなくて』で済む訳ないじゃない! あんた舐めてんの!?」
「ひぃぃッ!」
こっ、怖いッ! 怒りに燃えた表情もそうだけど、言動がどう考えても女神のそれじゃ無い! ヤクザの親分だよこの人!
恐怖にすくみ上がった僕を、ピニャは害虫を見るような目で睨みつけた。やっぱりその目つきは誰かさんにそっくりだった。
「はぁ、もういいわよ。過ぎたことを腹立てても時間の無駄だし……まずは状況整理しないと何も始まらないわ。……で、ここどこなの?」
「実は僕もよく分かってないんだ……。ここが馬小屋ってことだけは確かなんだけど」
「馬小屋ぁ? 道理で臭いと思ったわ……。あんたの体臭と同じ臭いね」
ピニャは自分の鼻を摘まんで周囲と僕を確認してきた。
いや僕は臭くねーよ! 毎日デオドラント振りまいてるわ! 仮に臭かったとしても、それは干し草やら何やらの臭いが移ったわけで、多分お前も同じような臭いしてると思うぞ!
「ここが馬小屋ってのは理解したけど、結局の所、私たちってエピナントに転移されたの?」
「それは今のところ断言できないけど……少なくとも僕のいた世界ではないと思う」
「何で分かんのよ?」
「だってそれ……」
僕はピニャの下で押しつぶされている猫耳少女を指さした。
「……誰よこれ?」
「君が落ちてきた時に下敷きになった女の子なんだけど……その子、獣の耳と尻尾がついてるでしょ? 獣人……ていうのかな? もしそれが本物なら、ここはファンタジーみたいな異世界なんじゃないかと……」
もちろんそれだけで決めつけてしてしまうのは早計だとは思う。何にせよ、まずは馬小屋の外を確認してみないことには、いくら考えても憶測でしかない……。
「……あれ? これ何だろう」
倒れている少女の首元を見てみると、首回りに何かが巻きついていた。
「……首輪?」
猫耳少女の首に灰色の輪っかがつけられていた。どうやらそれは鉄製のようで、犬の首輪よりも、罪人につける首枷のような形状をしていた。
どうしてこんな物が……もしかして、罪人か奴隷のような扱いを受けているのかな……?
「……るにゃ」
「ん?」
ふとピニャの尻もとから猫の鳴き声っぽい声が聞こえた気がした。よく見てみると、女の子の猫耳がピクピクッと動いていた。
「いつまで乗っかってるにゃッ!」
猫耳少女はピニャを背中から振り落とし、勢いよく立ち上がった。
「しまったッ! もう目を覚ましたのか!?」
「きゃッ! ちょっと! 何すんのよ!」
「うるさいにゃ! 何度も何度もカルアの上に落ちてきやがって……カルアはクッションじゃないにゃッ!」
女の子は鼻息を荒げ、ひどくご立腹のようだ。
そりゃあ二回も踏みつぶされたらキレるよな……。てかあの子めちゃくちゃ丈夫だな。見た感じ大きな怪我はしてないっぽいぞ。
「もう完全に怒ったにゃ……二人まとめて捕まえてやるにゃッ!」
猫耳少女はピニャに向かって爪を立てるように構えた。
あれはッ! さっき僕に襲いかかって来た時に見せた臨戦態勢だ!
「まずいッ! ピニャ、早くこっちにッ!」
ピニャは振り落とされた時からまだ尻餅をついたままだ。
このままじゃピニャがやばいッ!
「喰らいやがれにゃッ!」
「危ないッ!」
僕は地面を思い切り蹴った。
刹那、猫耳少女の鋭い爪が、ピニャに振り下ろされた……。
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次回は4月5日の夜に投稿を予定していますので、乞うご期待! ╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒