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前編 「何処ここぉ!?」

 僕の名前は結崎(ゆうざき)(とも)。どこにでもいる高校二年生。内気な性格で学校ではよく周囲を気にして過ごしてきた。三度の飯よりゲームが好きで普段から持ち歩いてたよ。ふたご座、ラッキーカラーはピンクです!

 どうしてこんな確認をとっているのだろうか?

それは気がついたら学校の制服を着て見知らぬ場所に立っていたからだ。


「……何だこれ?」


 そこは、テレビの古代ローマ特集とかでよく見る円形闘技場みたいな場所だった。見上げると空は不自然に真っ黒。星も月も何一つ無く、明かりは広場の各所に立てられている松明のみ。

 そんな場所にポツンと立っている状況だ。


「何処ここぉ!?」 

「ここは死後の世界ですよ。ようこそ、結崎智さん。転生の間へ」


 声と共にどこからともなく現れたのは、緑色のドレスを(まと)った女だった。続いて、似たようなドレスを纏った女が現れた。

 燃えるような赤い色。透き通るような水色。命が芽吹くような若葉色。彼女たちの長い髪も、それぞれの纏うドレスと同じ色をしていた。


「あ……あなたたちは?」

「申し遅れました。私は“アレンヌ”、植物を司る女神でございます」

「私は “フィズ”! 炎の女神だよ!」

「……私は“キュラソー”。ここは転生の間、哀れな最期を遂げた人に新たなる生を与えるための場所……。あ、私は水を操るのが得意……かな」


「はあ……ご親切にどうも。……って死んだの僕!?」

「……はい」

「いや、はいって!」

「……?」


 キュラソーさんが不思議そうに首をかしげた。アレンヌさんと、フィズちゃんも同様に首をかしげている。


「……僕が死んだ? そんなはずは……死因は何なの?」

「死因……? それは死んだ本人ならご存知じゃないんですか?」


 はてと首をひねる赤青緑の女神たち。おかしいのは僕? いや、今のところ心当たりがないんだけども……。


「ちょっと待ってください…なんとか思い出してみますので……」


 僕は額に手を当てて思い出そうとする。どういうわけか、ここにやってくる前の記憶があやふやだった。


「不治の病に侵されて病院で死んだとかは?」

「いえ……入院はしてなかったはずです。たしか学校にいたような」

「はい! 海でサメの大群と遭遇したとか!」

「フィズちゃん? 僕さ、今学校にいたって言ったよね? 海要素ゼロなんだけど!」

「……全裸で木にくくりつけられた状態で全身をハチミツで塗りたくられた挙句、じわじわと虫に食い殺されたりとか」

「だから学校どこ行ったの! てか発想が怖いよ! キュラソーさんどこの闇金業者ですか!?」

「じゃあはいはいはいッ!」

「これクイズ大会じゃないからね!? 元気よく挙手してもダメだよ!」


 フィズちゃんとキュラソーさんの妨害にあい思考が混乱してきた。もう頭が痛い……。

 万策尽きたような顔で三人の女神は黙り込んでしまった。えっ、どういう状況なのこれ? 何で僕をここに招いたこいつらが現状把握してないの?


「ねぇ……これってもしかして……」

「うん……多分あの子が……」

「……やりかねない」


 女神たちは僕には聞こえないように小さく集まって内緒話をしている。それから、アレンヌさんが申し訳なさそうに僕に近づいてきた。


「あのー、実はですね?」

「はあ」

「私たちの他にもう一人女神がいて、今回、結崎さんを呼び寄せたのはその女神なんです」

「えっ!? もうひとりいるんですか!?」


 その時、離れた場所から声がした。


「……るっさいわねぇ。まだ終わらないの? 女神サマが三人そろって何やってんのよ」


 あくび交じりの間延びした声だが、はっきりとした侮蔑(ぶべつ)の色があった。全員の視線が声のする方に集まる。その何もない空間から、黄金のドレスを纏った美女が現れた。


 僕は目を見張った。そのドレスは他の三人に比べると、露出が多かった。上半身はほとんど水着みたいなもので布が少なく、胸の谷間が強調されている。スカートには腰からスリットが入っており、いつ中身が見えてもおかしくはない。

 そんな刺激的な光景を前に、普段の僕なら反射的に視線を逸らしていただろう。だがそんなことより僕が驚いたのは、


比嘉地(ひかち)?」


 僕はそう(つぶや)いていた。

 そう比嘉地(ひかち)だ! その顔はどう見ても、クラスメイトでいつも僕をいじめてきたあの暴力女だ!


「……ヒカチ? 誰よそれ?」

「君、比嘉地(ひかち)だろ? こんなところで何してんだよ? そんな格好して」

「はぁ? そんな格好ってどういう意味? 私のことバカにしてんの?」

「いやそんなつもりじゃ……」

「あんたみたいな人間知らないし、私は“比嘉地(ひかち)”じゃなくて“ピニャ”だから」


 何? 比嘉地(ひかち)じゃないだって? そう言われてみればどことなく雰囲気が違うかも……。髪の色も、比嘉地(ひかち)は茶髪だけどこの人は金髪だし……。あっ、よく見たら胸は比嘉地(ひかち)より少し大きいかも。


「……ねぇちょっと」

「はえ?」

「あんたまじまじとどこ見てんのよ」

「ああいや、比嘉地(ひかち)よりでかいなぁって」


 うっかり口から本音が漏れると、僕の頬に衝撃が走った。

 痛ッ!?

 僕は彼女に平手打ちをかまされていた。


「何すんだよ!」

「あんたが私の体を汚い目でジロジロと見てたからよ」

「それは悪かったけど! なにもぶつことないだろ!」

「手っ取り早く教えてあげたの。次また私のことをいやらしい目で見ようものなら頭吹っ飛ばしてやるから」

「だったらそんな服着んなよ! お前みたいな格好した奴が街中(まちなか)歩いてたら十人中十人が二度見するわ! 自分からエロい格好してんだから僕のせいにすんな!」


 そう抗議していたら、この女ときたらいきなり僕の胸ぐらを掴んできた。


「うっさいのよあんた。今すぐぶっ飛ばされたいの?」

「ふぁい……ごべんなざい……」


 一瞬で僕は彼女に敗北を認め謝罪してしまった。恐怖。僕の頭の中を二文字が支配していた。

 何だよこいつ……めちゃくちゃ怖いじゃないか。威圧感があの比嘉地(ひかち)と同等、いやそれ以上だ。


 僕の目からツーっと涙が流れる。そこでやっとピニャが僕の胸ぐらから手を離してくれた。いや、これは離したというか軽く投げ飛ばされた感じだ。そのせいで僕は尻餅をついてしまった。情けない気持ちだ。


「ちょっとピニャ! 初対面の人に失礼なことをしてはいけません!」

「こいつが悪いのよ。私は当然のことをしただけよ」


 アレンヌさんが僕の前に出てきてピニャにそう言ってくれるが改めようともしない。なんて女だ……。


「お兄ちゃん大丈夫?」


 フィズちゃんが尻餅つく僕と同じ目線になるようにしゃがんで声をかけてくれる。


「あっ……ああ大丈夫だよ、慣れてるから……」

「ごめんね。あの子いつもあんな感じだけど照れ屋なだけなの。ところで今のショックで死ぬ直前の記憶は戻ったかな?」


 満面の笑みでフィズちゃんが語りかけてきた。

 ちょっとその質問はタイミングがおかしいんじゃないか? もう少し後がよかったな。


「そんないきなり思い出すわけ」


 僕の頭の中に電流が走る。


「……どうしたの?」


 キュラソーさんが腰をかがめて聞いてくる。


「……思い出せそうです」

「……死んだときの記憶?」

「どうでしょう……でも少なくとも数十分前の記憶は」


 ピニャの外見、そして強烈な攻撃。


 そう、僕はここにくる直前学校にいた。側にはあのにっくき暴力女、比嘉地も。




╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒ ╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒ ╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒ 




 さかのぼること約一時間。


 ホームルームが終わり、下校を告げるチャイムが鳴った。友達がいない僕は、いつもなら一目散に帰宅する時間だ。

 だがその日は違った。

僕はそそくさと教室を出て、急いで体育館裏に向かった。到着するやいなや周りに誰もいないのを確認してその場にドカッと座り込む。そして今日買ったばかりの“モケモン”をプレイしようと、カバンからベンテンドーGSを取り出した。


 モケモケモンスター。通称“モケモン”。

 捕まえたモンスターをパートナーにし共に旅をするRPGだ。シンプルだが奥が深く、限られた技でいかにして相手モンスターを倒すかを問われるゲームだ。


 まぁ僕は全種類のモンスターと技を丸暗記しているから、苦労してプレイすることは無かったけど。

 

 本当はダッシュで家に帰ってベッドに寝転がってプレイしたかったが、中休みのたびにちょこちょこプレイし続けた結果、ボス戦の直前でセーブしているので、せめてボスを倒してから家に帰りたい。というか早く戦いたい! 

 僕は焦る気持ちでゲームの電源を入れた。


「おいオタゲー」


 ふいに、(さげす)むような声がかけられた。なんと複数人のギャルがこっちに接近してくるではないか。そのギャル集団の先頭には、僕をオタゲー呼ばわりした茶髪女がいる。


比嘉地(ひかち)……」


 “比嘉地(ひかち) (ゆう)”。同学年のみならず全学年のギャルをまとめ上げているカリスマギャルで、僕のクラスメイトだ。他のギャルと比べて化粧は薄く、外見的だけで言うなら、右耳にピアスを付けている普通の女子高生だ。

 だがその容姿に騙されてはいけない。どこにそんな力があるのか、彼女に喧嘩を売った者はもれなく血祭りにあげられるんだとか。

 もはやギャルじゃなくてスケバンだな……。


 ちなみにこれは風の噂だが、彼女は中学の時にとある有名不良グループを廃材一本で皆殺しにしたことがあるらしい。その光景を見た奴が“鬼の比嘉地(ひかち)”の異名を広め、結果その不良グループのリーダーになったのが比嘉地(ひかち)伝説の始まりだったとか。

 

 そして僕はそんな比嘉地(ひかち)になぜか目を付けられている哀れな少年だ。

 そのせいで二年間、暗い高校生活を送ってきた。一人として友達を作れなかったのも全てこいつが元凶だ。決して僕が根暗ボッチだからではない。そう信じたい。まぁまだ廃材で殴られたことがないからまだ幸運な方かもってそんな訳あるかいッ!


「何、その目? 何か文句あんの」

「いや……何でもないよ……」


 僕はゲーム画面に視線を戻して、現実逃避を試みた。

 しかし、わざわざ声をかけてきた当の本人は見逃してくれるはずもなく……。


「それ何やってんの?」

「あ、これは……その」


 いきなりベンテンドーGSに目を付けられ、僕は指どころか体全体が固まってしまった。


「うっわ、モケモンじゃん! 懐かしー!」

「何コレ。いい歳してこんなんやってさ、恥ずかしくないわけ?」

「こんなのやる奴の気がしれないわぁ」


 他のギャル達がバカにした感じでほざき始めた。


 は? 何も知らないのにモケモンを馬鹿にしてんじゃねーぞ! モケモンは僕にとっては思い出の作品なんだ! お前らみたいなカラオケとサートーワンにしか興味がないギャルにどうこう言われたくないんだよ!


「ねぇ優ぅ、こいつのゲームもらっちゃって遊んでみようよ」

「あっ! それ賛成!」


 おいおいおい何いきなり提案しちゃってんのこのアバズレ共は。お前ら今し方モケモンをバカにしたばっかだろ! その流れですぐさま遊ぼうとはならんだろ! どうなってんだこいつらの頭の中は!?


「……そうね。ねぇオタゲー、それよこしなさいよ」

「え? あっ! ちょっ!」


 比嘉地(ひかち)が僕のゲーム機を奪っていった。僕は突然のことで思わず立ち上がったが、ギャル達の冷たい視線をあびて、金縛りにあったように動けなくなった。

 ほんと止めて! これから初めてのボス戦に挑むんだから!


「なによこれ。こいつに話しかけたらいいの?」

「いやッ! ……それボス戦だから……今戦っても負けちゃうから……」

「へー、面白そうじゃない。だったら私が一発で倒してやるわ」

「ダメダメダメッ! ほんと勝てないから! 僕の雑魚パーティーじゃ一秒と保たないから! 負けたら土下座させられて『雑魚が……調子乗ってるとそのまま地面にめり込ますぞ』なんて屈辱的な言葉を浴びせられるから!」

「そんなこと言ってくるの? じゃあ尚更ぶちのめさないとだめね」


 ああ、何を言っても止めてくれそうにない……。

 そして比嘉地(ひかち)が操作するゲーム機からボス戦専用のBGMが流れてくる。

 まさか今作の目玉のひとつである神戦闘BGMをこんな形で聞くことになるとは……。


「何したらいいか分からないけど、適当にやったら勝てるでしょ」

「あの……敵は格闘属性のモンスターを出してくるから、超能力技で戦えば勝てると」

「うっさい! 今優がプレイしてんだから話しかけんな!」


 比嘉地(ひかち)にアドバイスしようとするも、モブギャルの一匹に突き飛ばされてしまった。

何だよ何だよ! せっかく教えてあげようと思ったのに!


「あっ死んだわ」


 GSから僕のかわいいモンスターの断末魔が聞こえてきた。

 うそーーん!? ボスに挑むために一匹ずつ推奨レベルより五レベル上げてきたのに負けたの!? ぶっちゃけ相性とか考えなくても脳死で勝てると思ってたのに!


「どうしたらいいの?」

「優、これ他にモンスターがいるから別の奴出したらいいんだよ」

「そうなの? じゃあどれ出そうかな」


 そう、モケモンのモンスターは一度に六匹まで持ち運ぶことができるから、一匹がダウンしてもあと五匹使うことができる。

 もうこの際ゲーム機を返せなんて言わないからなんとか勝ってくれ。全滅すると所持金が半分になっちゃうからそれだけは避けたい……。


「はあ!?」


 怒声が上がった。

 比嘉地(ひかち)だ。今までみたことないような鬼の形相でこちらを睨みつけてくる。

 なになに怖い怖い。


「おいオタゲー……これ、何?」


 そう言って見せてきた僕のGSの画面は、残った手持ちのパーティー編成を表示していて……そして、あるモンスターの名前が「ヒカチ○ポ」になっていて……!?


 うわああぁぁ! そうだったあぁぁ! 比嘉地(ひかち)があまりにムカつくから腹いせでやったんだった! み、見られたッ、誤魔化せる? 否……死ッ!?


「ち、違うんだ! それは……」

「土下座」

「はい」


 僕は一秒と保たず降伏し、その場で地面に埋まる勢いで土下座をかましていた。


「雑魚が……調子乗ってるとそのまま地面にめり込ますぞ」


 何で僕が屈辱的な言葉を浴びせられてんだよ。

 もう嫌だ! この女とこれ以上関わりたくない。何とか穏便にGSを返してもらってさっさと家に帰ろう……。


「ゲーム機、没収ね」


 え? いやいやちょっと待て待て待て待て!


「それだけは勘弁して!」


 僕はガバッと勢いよく頭をあげた! その時だ。


「あっ」

「へっ」


 見上げたと同時に比嘉地から呆気に取られたような声が聞こえた。おそらく僕も似たような声を上げたんだと思う。


 なぜなら僕が思いっきり頭を上げたときの風圧で、比嘉地のスカートがめくれ上がったからだ。


「ピンクの……(ひも)……パン」


 僕の悪い(くせ)だ。つい思ったことを口にだしてしまう悪癖(あくへき)


「ああいや、これはぁその……」


 言い訳をしようとしてももう遅い。比嘉地(ひかち)はスカートを素早くおさえ、顔面をますます赤くしていった。

 そして、


「この……!」


 彼女の右足が降り上げられた。

 あっ、これダメだ。


「変、態ッ!」


 比嘉地(ひかち)の怒号と同時に、顔面に衝撃が走った。



 そこで僕の記憶は途切れていた……。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


少しでも面白いと思ってくれた方、ブックマーク、評価、感想いただけると……とっても……とぉぉぉッッても! 励みになります!


次回は4月2日の夜に投稿いたしますので、お楽しみください! ╰( ^o^)╮_=͟͟͞͞◒

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