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再会

ドラゴンの涙とは、ドラゴンが流した涙と言う意味ではなく、ドラゴンの体の組織、

あるいはドラゴン自身の記憶などから採取される結晶のことである。

それはドラゴンに限らず草、花、動物、水、風、石など…ありとあらゆるものから『涙』は採取され、それを採取できるものたちの総称がフロウル(採掘者)である。

フロウルは特別な道具を用いてこれらを採取するのが一般的だが

これを間違って解釈した人間が動植物を殺せばできるのだと思っているものが多かった。

フロウルが採掘する場面に居合わせるものがいないのもその勘違いを起こさせる一つの要因でもあった。


『涙』を安価で得ようと欲に目がくらんだ人々に頭を悩ませたのは国である。

中には希少な生物も含まれておりドラゴンもその限りではなかった。

『涙』はフロウル以外には採取できないとお触れを出したものの国がその財を独占しようとして

流した嘘なのだと更に目を光らせて躍起になった者達は国に隠れてそれらを乱獲し、

市場に横流しするようになった。

世に存在する盗賊や一部の傭兵のほとんどがこれにあたり、市場は普通の市場とは違いいわゆる闇市場と呼ばれていた。



「ドラゴンが乱獲にあったって事!?ちょっと、竜騎士団は大丈夫なの!?」


「幸いウチは現在城にいるドラゴンをかけ合わせたり、他国との交流も兼ねてよその竜騎士団と交配させてもらっているから支障はない、が」


「それも今のところという事か」


「そうなんだ。参った。未だにドラゴンはそういう対象らしいな…」


エンケラドゥスにため息交じりに言われるとセシリオはいよいよ落ち込んだように肩を落とした。

甘い考え方をしていると呆れたのはフルフルだった。

フルフルは客の立場だったがセシリオがお茶の一つも満足に淹れられないとわかると

勝手に戸棚からカップとお茶を持ってきてこれまた勝手に湯を沸かして3人にふるまっていた。


「当たり前じゃないの。それなのに悠長な政策ばっかり打ち出すんだからあんたたちの上司はそれだから間抜けと言われんのよ」


「穏やかじゃないんでそう言うこと言うのやめてもらえます?」


げんなりしながらストラスがフルフルを諌める。


「もう一つ穏やかじゃない事を言えばそれが王国反乱の兆しではないかと噂もある」


「そちらはずいぶん笑えない冗談だな?」


「最初から誰も笑ってないけど、騎士団長さんはどうしてそんな話あたしたちにするの?」


「ドラゴンの涙にもかかわるんだ、フロウルのお三方にも関係ない話ってわけじゃあないだろ?」


フルフルの淹れたお茶をすすりながら言ったセシリオは口元を歪めてちらりと三人を盗み見る。

それにつられたようにハハハと乾いた笑い方をしたストラスはずりさがる眼鏡を人差し指で押し上げた。


「すごく嫌な笑い方しますね~」


「本当ねえ、誰かさんみたい」


「まことどこかで見たような笑い方だな」


「どこでしょう?」


二人からじいと見つめられるストラスを苦虫を噛んだような顔で眺めたセシリオは

噂にたがわず不思議な連中だと思った。

フロウルでは珍しい女性でありながら、戦闘になれば身のこなしの軽さで野盗を翻弄するフルフル、フロウル唯一の獣人エンケラドゥス、そしてフロウルで最弱だが腕は確かだと言われているストラス。

フロウルは基本的に単独行動を好むがこの三人組はよくつるんで歩いていることが多いらしく、城内では有名だった。

実際にこうして面会した人間は少なくセシリオも会うのは初めてだった。

頻繁に面会しているのは王とそれに近しい人物らしいがそれも定かではない。


「それで、どうしろと」


フルフルがセシリオに先を促した。


「聞き分けがよくて助かるな。ドラゴンのものが流れてきたら『涙』を採取して欲しい」


「気の遠くなるような作業だし、すんごく効率悪くない?」


「仕方ないだろう。今はそれが一番の近道なんだ」


「足跡とかも残っていないんですか?」


「野盗の割に頭のまわる奴ららしくて手がかりはなんにも」


フルフルのいう事ももっともだったがドラゴンたちを乱獲し、集落を襲撃した

野盗を探し出す為にセシリオ達に打てる手はそれ以外になかった。

パリッとアイロンのきいた軍服を着こなして部下にきびきびと指示を出していたセシリオが

乱暴に頭を掻いたのを見てストラスはなんとなくこの人物に好感が持てた。

おそらくこちらが彼の本当の姿で背筋をぴりりと正して座る彼は軍人としての彼の顔なのだろう。

フロウルには気難しいものも多いのでセシリオ自身も肩を張っていたらしく、

今回話をしてみて、特にフルフルが人懐こい性格だとわかると、事件の相談ができると踏んだようだ。

どうりですんなりと面会を許可されたわけである。

もしストラス達が今日城を尋ねなければ、セシリオの方から三人へなんらかの接触があったに

違いないだろう。

セシリオにとっては渡りに船だったのだ。


「大体、ドラゴンを殺せばドラゴンの涙にできるなんて簡単に思ってるんなら間違いだからね!すんごく疲れるんだから!」


「疲れるだけだろう?」


「あ~今言っちゃいけない事言いましたねこの人」


「人間の風上にもおけんな」


「そうね、ドラゴン担いで大通り一周するぐらいの疲労ね」


「…そんなに疲れるのか?」


フルフルがむっとして言ったのに続いて、ストラスとエンケラドゥスは軽蔑のまなざしを

セシリオに向けて言った。

フルフルの例えは現実味を帯びていなかったがあの巨大なドラゴンを担ぐと言う行為の

時点で尋常じゃない体力が必要なのだとわかると唸るようにして聞き返した。


「フロウルにしかわからない悩みと言う奴だな」


エンケラドゥスが毛深い顎をもこもこした手でさすりながら言うと

セシリオは申し訳なさそうな、気恥ずかしそうにそうか、とだけ呟いた。


ドラゴンの一部が流通されるいつもの市場とは違う所謂、闇市場に関しては

竜騎士のセシリオよりもフロウルの三人の方が詳しいので近いうちにあたってみることを

約束した。

確約を得たとみたセシリオはホッと胸を撫でおろす。

フロウルが三人があの堅物そうな部下の男を待っていると

間もなくして現れた部下がその背後に3人の男を従えていた。


「ご苦労、ポール」


「いいえ。話はお済に?」


「承諾してもらえた」


「いやいや。やるなんて一言も言ってませんけどね」


「なんだ。フロウルは薄情なのか?」


約束を取り付けたと思っていたセシリオが少し慌てた様子で言った。

厄介ごとはごめんこうむりたいとストラスだけは来客用のソファに身を預けながら言った。


「フロウル?」


堅物そうな部下のポールが連れてきた男のうちの一人がセシリオの言葉に反応した。

セシリオは緩くなっていた緊張をほんの少しだけ占めて青髪の男の一人に

返事のように返す。


「彼らはフロウルだ。何やら少女を探しているらしいんだが、その少女が青髪の竜騎士と

話していたらしいと言うのでお前たちに来てもらったんだが…」


セシリオはそこで言葉を濁したが呼ばれた三人はその意図を汲み、三者三様に答える。


「自分は会っていません」


短髪で、恰幅のよい体つきの男はきっぱりと言った。

彼はどうやら訓練の途中だったらしく軍服とは違った動きやすそうな少しゆったりとした衣服を身に着けている。

軍服ほどの装飾はなかったが軍服と同じ黒色の服だったので竜騎士のものだろうと一目でわかる。


「私も…竜の世話をしていましたから。何でしたら同僚に聞いてください。一緒にいましたし」


襟足ほどまでのカーブのきれいな髪型の男は先ほどの男よりも控えめに言った。

この男も似たようなゆったりとした衣服だったが肘とひざには防具のようなものを付け、

ごつい長靴を履き、右手には分厚い手袋を握っている。

まるで馬の世話をしているようないでたちでポールに呼ばれたその時のままで

ここを訪れたのだろう。

最初の男同様に衣服の色は黒でやはり彼も竜騎士なのだとわかった。


「私も見ていません」


最後の男は短く答えただけだった。

セシリオやポールのようにきっちりと軍服に身を包み、腰には剣を携えている。

少し愛想がない印象を受けるところはポールと似ていた。


「えー?三人とも会ってないの?」


「僕の見間違いだったかなあ」


「本当に会っていないか?」


思い描いた返事が返ってこずに二人ががっかりしているとセシリオが念を押す。

だが三人は一様に会っていない、の意として首を縦に振るだけだった。



「困りましたねぇ。じゃあ、ちょっと質問を変えてもいいですか?」


困ったと言った本人がとても困っているようには見えないストラスが

わざとらしく腕組みをして言った。

本人としては威厳も込めたかったようだが、となりにいるエンケラドゥスのおかげで

ほぼ台無しだ。

ちいさな子供が大きな大人に張り合おうとしているように見えてほんの少し滑稽だったのだ。


「ストラス?」


「どうして処刑場の罪人を逃がす必要があったんです?」


顔は笑っていたが雰囲気が一気に冷たくなった。

フルフルとエンケラドゥスは視線だけをストラスに送ったが動じていない。

動いたのは竜騎士たちだけだ。


「どう言う意味だ?この三人のうちの誰かが犯人なのか?」


「直接は手は出してないんじゃないですか?あの子に指示していたみたいだし…

指示とは違うかな。交換条件を出していましたね」


セシリオも驚いてはいたが取り乱してまではいない。

処刑場での罪人たち脱走のニュースは城にも届いていて通常の騎士たちにも捕縛の協力要請が

出ていたが、いまだ脱獄を手助けした犯人は見つかっていないと言う。

ストラスは三人に語りかけていたが青髪の騎士たちは疑いを掛けられている事に

動揺しているばかりでストラスの言葉には答えない。


「じゃあ、また質問変えますね。あの女の子とどこで待ち合わせしていますか?」


勿論、これにも誰も答えない。

団長であるセシリオが答えを促すかと思えばセシリオも腕組みをして黙って返事を待っているだけだ。

いらぬ嫌疑をかけられた青髪の騎士たちはただわからない、知らないと答えるばかり。

それしか答えられぬのだから仕方がない。

だが疑いの目は確実に自分たちへ向けられていた。

緊迫する空気の中、騎士団長室のドアがノックされた。

扉が開き入ってきた騎士はきびきびと敬礼すると毎日の訓練で指導されている通りにした。


「失礼いたします、イフナース殿に子供の娘が面会したいと言っておりますが」



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