表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/36

ドラゴン遣い2

一刻も早く王に会いたい、その一心でシヴァはその足で処刑場へ向かった。

子供がこんなところをうろつくのは怪しまれてしまうのではないかと心配したが、

その日はたまたま近くの学校の子供たちが職場見学に来ていてそれに紛れることができた。

子供たちの身なりはどれも整っていてどうやら富裕層の子供たちらしかった。

シヴァはちょっとだけ見劣りする自分の格好を気にしつつ

なんと幸運なのだろうと自分の運の良さに感心して、

引率の先生についていく子供たちの一番最後尾にくっついていった。

看守に案内されて、引率の先生に続く子供たちが罪人たちが収容されている薄暗い牢へ向かう。

しかし、どの罪人が助けるべき罪人か、あの兵士の男から聞くのを忘れたシヴァは途方に暮れた。

もし本当に悪い罪人を逃がしてしまったら大変なことになってしまう。

シヴァはきょろきょろと落ち着きなく罪人たちを眺める。

それとも引き返してあの兵士にまた会って確かめるべきか?そう考えていると

ある一人の罪人に目が留まった。


「手引きする子供がいるとは言われたけど、こんな子供とは思わなかった」


「え?」


「さっき男に会っただろう?青い髪の」


他に見学している子供たちの何人かも少し列から離れて罪人に話しかけているのを見ると、

どうやらこの見学会はそう言うものがウリらしい。

貴族や富裕層の暇つぶしの娯楽なのか、それとも処刑場と学校の間で子供たちと会話することで

罪人たちの罪の意識をより深く感じさせて更生させようとでもしているのかわからなかったがそれすらもシヴァには好都合だった。

引率の先生がいる上に看守が付いている為か、見学に来ている子供たちは普段よりも

横柄な態度で罪人たちをからかったりしていのが見える。

そんな中、その男は牢の中から静かにシヴァに話しかけてきた。

他の罪人とは違って体は細く、どちらかと言えば大人しそうな雰囲気の男だ。

まだ囚人服を着ていないところを見ると、はっきりと罪が確定していないようだ。

先を歩いて子供たちを案内している看守が、囚人服を着るのは処刑が決定した者だけだと

ついさっき教えてくれたばかりだったのだ。

男はまるで今までの行動を見てきたかのような口ぶりでシヴァに話しかけるので

呪い(まじない)師か何かだろうかと疑った。



「う、うん。貴方がえん罪の人…?どうして私ってわかったの?」


「男にお前の特徴を聞いてたし、挙動不審だったから」


「それで、私、どうしたらいいの?牢屋の鍵も持っていないし…」


「あんたが鍵穴に手をかざすだけでいい」


「それで開くの?」


男が頷いてみせるのでシヴァは恐る恐る男が言うように鍵穴に手を添える。

鉄の感触が掌に伝わってきたが特に変化するようなことも、鍵が開く音もしない。

どうしてこれが牢を開けることになるのかわからないでいるとシヴァの手の上から、

男が手を添えてきた。

びっくりして手を引きそうになったが男が集中しているのをみてとるとシヴァはなるべく

大人しくしていようと跳ね上がった心臓を落ち着けるために空いている右手を自分の胸に当てて待った。

すると不思議なことに鍵が開くどころか頑丈な鉄でできている牢の鍵穴がみるみる溶けていく。

これにはさすがに驚いて短く悲鳴を上げたが、鉄格子の間から男の腕が伸びてきて乱暴に口を塞がれた。

シヴァは怖くて泣きそうになったが男がそれに気が付いたのか表情を柔らかくし、シーっと口で言うのでシヴァは目を泳がせながらもこくこくと頷く。

ドロドロになって溶けていく鍵穴は腐ったのでも焼けたのでもなくそれはまるで違う物体になったようにボトリと地面に落ちた。


「ごめんごめん。騒がれたら大変だから。びっくりした?」


「ううん、大丈夫…」


本当はすごく驚いたのだがシヴァは子供だと馬鹿にされたくなくて首を横に振った。


「あとは帰っていいよ、あんたも危ないから早く逃げた方がいい」


「わ、わかった…それじゃあ」


男は溶けた鍵穴を満足そうに見つめたまますぐには牢の扉を開けようとしない。

シヴァと一緒に逃げてはシヴァに迷惑がかかると、気を使ってくれたのかと思い、

シヴァは頷いて軽く手を振り、すぐにあの子供たちの集団に紛れるため、小走りで牢屋の前を通り過ぎた。

その間、一度も振り返りはしなかったがついぞ鉄格子の開く音が聞こえることはなかった。


シヴァは先生の引率ではしゃぐ能天気な子供たちとともに処刑場を出るとすぐさまあの

兵士の男を訪ねようかと城へ向かいかけたが名前を聞いていないことに気が付いた。

自分の間抜けさにほとほと腹が立ってほんの少しだけ泣きそうになったが慌てて頭を振る。

こんなところで泣いていたからと言ってあの兵士の男が現れるわけがないのだ。

それに同じような失敗は今まで何度だってしてきたのだから名前を聞き忘れるくらい

些細なことだ。

とりあえずあの兵士と出会った小道の屋台の間の路地へ行ってみればもしかしたらまた

会えるかもしれないと踏んだシヴァはまた大通りを抜けて小道へと急ぐ。

会えなかったとしても最終手段で城へ乗り込めばいいのだ。

当初の目的は王と会うことなのだから兵士の男も探せて一石二鳥である、が、

兵士の男がこんな子供の自分に頼み込むほどである。

何か理由があったのかもしれないとその最終手段を先に使うのはやめておいた。

屋台がある小道の活気は崩れておらず先ほど訪れた時と同じだった。

シヴァは路地を何度か行ったり来たりしてみたがそれらしき男は見当たらない。

諦めて今日とった宿へ戻ろうとした時、また後ろから声をかけられた。

あの男の声だ。


「首尾よくできたようだな」


「あ…うん、でもあの人まだ出ていないみたい」


「牢の鍵は開いたんだろう?それならいい」


「あの人どうしてあそこにいたの?」


「それはお前が知らなくてもいいことだ」


男は表情を固くし、冷たく言い放つ。

確かにですぎた物言いだったとシヴァも少し反省した。


「ね、ねえ本当に王様に会わせてくれるの?」


「ああ、だが王に謁見するのに手ぶらと言うわけにはいかないだろうな…」


「なにかお土産を持って行ったらいいの?王様はなにか…お菓子とか好き?」


「ドラゴンの涙」


「えっ」


「王はドラゴンの涙を所望している。もしお前が持ってこられたなら大層お喜びになって

お前の話も聞いてくれるだろうな」


シヴァはどきりとしたが青い髪の男はまたシヴァの返事を辛抱強く待っている。

それはとても高価なものだ、と言いたかったがシヴァはとっさに口をつぐんだ。


「わ、わかった。じゃあそれを持ってお城に行く。そうしたら会わせてくれる?」


「もちろんだ」


「ドラゴンの涙を手に入れたらまず…貴方を訪ねればいいわね?」


「イフナースだ」


名前を聞いてもいい?と言うと男はそう答えた。

今度はちゃんと名前も聞いたし、ドラゴンの涙を手に入れたその後のことも確認した。

ぬかりはない。


「わかった。すぐにもらってくる」


シヴァはイフナースと別れてすぐさまフロウルを探すことにした。

ドラゴンの涙は通常の市場には出回らない。

フロウルから直接取引するか、富裕層が利用する専門の宝石店で売られているが、

シヴァには富裕層と張り合うほどのお金を持っていないので直接フロウルを探し出して

ドラゴンの涙を譲ってもらおうと考えた。

ドラゴンの涙は貴重だがあの野盗たちがドラゴンから爪や牙を搾取していったのならば

もしかしたらここのフロウルにも加工を頼んでいるかもしれないと踏んだからだ。

フロウルは世界に点在しているがこの王都には永住しているフロウルがいると聞いた。

住所も優しそうな町民のおばさんから聞き出していたのでシヴァはまずそこへ向かった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ