フロウル4
王都の中心部であるダスティ城へ向かうストラス達にどういうわけか本当にデボラも同行した。
デボラが同行するということは自動的に部下であるコルベルも一緒で
一気に大所帯になった一向は、城門前まで来ておいて、
突然イヤイヤと首を振るストラスを引きずりながらも無事入城を果たした。
むくれ顔のままそっぽを向いて機嫌を損ねているストラスを最後尾に置き、
先頭を歩いているフルフルは嬉々としながら鼻歌交じりに先に進む。
城門を抜けて左側に位置する竜騎士の宿舎へ向かうと通常の兵士とは装備の異なる
兵士とすれ違うことが多くなってきた。
従来の兵士の装備は鎧をかっちり着込んでいるか、暗めの赤を基調とした軍服に身を包んでいるが、竜騎士は額や胸などの急所のみを守るための面積の狭い鎧と、
黒を基調とした軍服を身にまとっている。
彼らは獣人とよくわからない男女の一向をじろじろと横目で警戒しながらも
門番が入城を許可したストラス達とすれ違っていく。
そして竜騎士の本部へたどり着くとフルフルは少し乱暴に本部の扉をたたいた。
「セーシーリーオー竜騎士団長~!いーませーんか~!」
「間抜け…」
「って言うかいるんですか?」
「さあ?」
コルベルがアポイントは!?とフルフルへ叫んだと同時に扉が開いて
いかにも性格の難しそうな険しい顔をした男が出てきた。
男は扉の前で騒ぐ一行をぎろりと一睨みすると短くお入りくださいとだけ告げる。
開かれたままの扉を見て一行はお互いの顔を見合わせてその男の後へついていった。
男はついて来いとも言わず後ろを一度も振り返らないまま前をまっすぐに見つめて
歩き続ける。
「え?この人がセシリオって人?」
「え?違う。セシリオはもっとこう…適当な人」
「何それ」
フルフルとデボラが小声でひそひそとやっていると首もとできっちりと髪をまとめている
性格の難しそうな男が振り返った。
あまりにもタイミングが良かったために二人の会話が聞こえたのかと思った
デボラとフルフルはびっくりして体を硬直させる。
「セシリオ竜騎士団長はこちらにおられます」
「僕たちが誰かって聞かないんですか?」
「そのサート(槌)を見てわからない者などここにはおりません。ストラス様」
「普通はそうなんですよストラス様」
「そうよ、それなのに処刑場にぶち込まれるってどういう事なのよストラス様」
デボラとコルベルはそれぞれストラスの方を見て言った。
「はーいそこの処刑人二人は黙っててもらえますかあ?」
「そう、そこの処刑人二人は入室を禁ずる」
「えっなんでよ?」
フルフルが異を唱えると男はほんの少しだけ目を伏せる。
てっきり男が答えるのかと思ったのだが以外にもコルベルがその訳を教えてくれた。
「あたりまえじゃないですか。処刑人なんてただの町役人ですよ。
ここは竜騎士本部。そもそもここまでこられた事の方がすごいんですから。
それなのにデボラさんが」
「ちょっと本部を見学したかっただけよ…」
プンと顔を背けたデボラに苦笑いを浮かべたストラスはいよいよ本部の中へ
入る気が失せてきた。
もともと苦手だったがどうにもこの『戦を職業とする人たち』と言うのは苦手なのだ。
「じゃあ二人はここで待ってて。ちょっと聞いてくるから」
「僕も行くんですかあ?」
「行くんですぅ、エンケラドゥス、ストラス逃がさないようにしてね」
「御意だ」
「うむ、では参ろうぞ」
主と従者のような会話をしながら先に部屋に入るフルフル、そしてストラスを引きずる
エンケラドゥスの背中を眺めながらコルベルは誰だよとつぶやいたのだった。
竜騎士本部の室内には扉から離れたところに執務用の机が一つ、その手前に来客用の
テーブルとイスがあって、執務用の机の横には何かの資料であろうか本棚がいくつか並んでいる。
壁には観賞用なのか剣が何本か飾ってあった。
「ようこそフロウルの諸君。私になにか御用かな?」
「セシリオ騎士団長に聞きたいことがあって」
「聞きたいこと?」
セシリオは緩い髪を案内してくれた男よりも緩く首元で結び、
穏やかな笑みを浮かべてフルフルの言葉に耳を傾ける。
年のころは40代頃と思われるが瞳は若々しく輝いており、人々をひきつける雰囲気を持っていた。
「あたしみたいに青い髪の竜騎士がいるでしょう?」
「ああ、うちにはテイモンと…イフナース…だけだったかな?」
「あと、ダライアスがおります」
「じゃあこの三名だな。どうかしたか?」
「その三人をここに呼んでくれれば一番良いんだけれど」
フルフルがそういうとセシリオはフルフルの様子から何かを察したようで男に目配せし、
男は一度だけ頷くと本部から出ていく。
執務机の前に立っていた三人はセシリオに立ち話もなんだからと
来客用のソファへ座ることを勧められた。
「で?その三人に何か?」
「今日、ストラスが青い髪の竜騎士と女の子が話しているのを聞いたらしくて、その
青い髪の竜騎士を探してるの」
「待て待て。まずどうしてその竜騎士を探している?」
決して焦っていたのではなかったがフルフルの要点のみの説明だけではさすがに
理解できなかったらしく、セシリオは宥めるように話続けようとするフルフルを止めた。
例えもう一度わかりやすいように説明しろとフルフルに言ったところで
彼女ではおそらく同じ説明を繰り返すばかりだからとため息交じりにストラスが説明する。
「えーと、探しているのは女の子の方なんですけど、見つからないので
それならその女の子と話していた青髪の竜騎士なら行き先とか知っているかなと思って
尋ねてきました」
「手がかりってやつか?その女の子とは?」
「なんかね、ドラゴンの涙が欲しいみたいなんだけれど、たぶんその子に今日ストラスが
変質者扱いされちゃってねえ」
「それは…災難だったなあ…。しかし君たちはその女の子を探し出してどうするんだ?」
「え?いや、特になにも。ただドラゴンの涙ってかなり珍しいし女の子が
欲しがるようなものじゃなかったから気になって」
「なるほど……ドラゴンの涙……」
セシリオが何か考え込むようにつぶやいたのでフルフルは青い髪の男を問いただす前に
ここで何か分かるかもしれないと身を乗り出す。
「なんか知ってるの?」
「いや、最近の話なんだが…スォール山脈の向こうにある一族がいてな。
その一族が皆殺しにされたらしいんだが狙われた原因が…ドラゴンらしいんだ」