表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/36

フロウル3

盗賊達を処刑場の職員に預け、もう一つの目的である

ドラゴンの涙をほしがっていた少女の捜索にとりかかった三人は

まずストラスが変質者呼ばわりされた場所へと向かった。

当たり前だがそこには少女の姿はなく、近隣の人たちに話を聞いたが

見かけたと言う情報は得られても

少女がどこへ行ったかまではさすがに分からなかった。

同じく、ドラゴンの涙を使用するのが流行っているのかも

尋ねてみたがそんな話はどこへ行っても聞かなかった。

つまり、ドラゴンの涙をほしがっているのは少女と先ほどつまみ出した盗賊達だけである。


「処刑場で罪人が脱走したんでしょう?物騒よねえ」


話を聞かせてくれたおばさんがため息混じりに言ったが

そこに恐怖はみられず、どちらかと言えば退屈な日常に非日常が舞い込んできて

話題ができてうれしいと言った風だった。


「そうですね。まだ捕まっていない罪人もいるでしょうから、気をつけてくださいね」


「あんた達も気をつけなさいよ」


そんなやりとりをしてから三人は通りがかったカフェで休憩をとることにした。

カフェの中にはエンケラドゥスのような獣人や、人間でにぎわっている。

どうやら人気のあるカフェのようだ。

三人は店員にそれぞれ注文をするとテラス席へ移る。


「だめだね~。もうこの街にいないのかなあ、あの女の子」


「そうですね。まあ今は他にも罪人が脱走しててこの街も物騒だから

それならそれで女の子は安全でしょうけど」


「ところでストラスはどうしてその少女に変質者と言われたのだ?」


エンケラドゥスが尋ねた。


「え?なんでしたっけね…細い路地で何かしててそれで声をかけたんですけど…」


「何か?」


「なにをしてたかまではよく見えなかったんで声かけたんですけどね…。あ。そういえば」


「なんだ?」


「男の人がいた気がします」


店員がまるで話の頃合いをみていたようなタイミングで

それぞれに飲み物を持ってきた。

テーブルにそれぞれ置かれた珈琲二つと、甘い匂いの漂うミルクココアに舌鼓を

うちつつストラスがゆっくりと記憶を思い起こすのを待つ。


「…そうだ。あれ、竜騎士の人ですよ」


「竜騎士?なんでそんなのがこんな下町に?」


「さあ…だから不思議に思って声をかけたら女の子に役人を呼ばれちゃって…あの竜騎士どこに行ったんですかねえ」


「その竜騎士の容姿は?」


「え~。青い髪でした」


ストラスがそう言ってからエンケラドゥスはフルフルを見つめた。

フルフルの髪が青色だったからである。


「冗談」


「すまん」


「フルフルだったら話は早かったんですけどねえ」


「でも竜騎士で青い髪なんて珍しいから案外すぐ見つかるかもよ。お城に聞いてみようか」


手がかり手がかり、とどこかうれしそうに話すフルフルにストラスは無言で頷く。

ストラスはどうにも城の人間が苦手なのでそのあたりはフルフルがやってくれるだろう。

するとミルクココアを窮屈そうに口に運ぶエンケラドゥスが動作をぴたりと止めた。


「エンケラドゥス?」


「いかんな」


「なにが?」


フルフルが尋ねたのと同時にカフェの店内から悲鳴があがる。

とっさにその方向を見るとカフェには到底似合わない風貌の男達が数人、

無遠慮に暴れまくっている。

同じくカフェに似合わないエンケラドゥスは遅かったか、と悔しそうにと喉の奥で唸った。


「…今日はいったい何なんでしょう」


「そうだね。ちょっとおもしろいけれど」


「ちょっと行ってくる。おまえ達はここで待っていてくれ」


「あたしも行こうか?」


「頼む」


「じゃあ僕はここでお留守番していますね」


ヒラヒラ~と手を振って見送ったのだったが、

処刑場に行ってデボラでも呼んでこい!

とフルフルに怒鳴られたストラスはですよね、とため息混じりに仕方なさそうに立ち上がった。



脱走したと思われる男達がカフェで暴れていると

報告された、デボラは本日ストラスとの二回目の面会を果たした。

自分の仕事道具であるデスサイズを携帯し、ストラス、

部下のコルベルとともにその現場へ向かう。

現場は騒然としており、カフェ店内はイスやテーブルが倒れ、

食器類の破片が飛び散っていてめちゃくちゃに荒れていた。

その原因が果たして逃げ出した罪人のせいなのか、罪人を取り押さえたと思われるフロウルの

二人のせいなのか判別しかねるほどだった。


「デボラ遅い」


「これは…ええと」


「これでここに現れた罪人は全部だ、コルベル君」


憎まれ口のようなものを叩いたフルフルと、もこもこした

大きな獣の手で床に座らされている男達を指さしたエンケラドゥスはそれはもう

清々しい表情であった。

それはストラスを助けに来て、盗賊たちを叩きのめした時と同じだった。

それを見て楽しんだのだなと思ったストラスはなんとなく、

その場にいなくてよかったと感じたのだった。


「…間違いありません、イーヴァル他6名です。リストにあります」


「はあ、まあ助かったよ。ありがとう」


「処刑場もずいぶんと警備がおろそかなのね」


「手引きした者がいたとは言え、我々の失態なのはかわりないわ。申し訳ない」


「それで、その手引きした者は?」


「まだ捜索中」


話にならない、と肩を竦めるフルフルを見てデボラがしゅんとする。

そういうところはデボラの役職に似合わずとてもかわいらしいところであった。

てきぱきと部下を呼びつけ、暴れまわっていた男たちを処刑場へ連れて行く準備を

整えたコルベルはちょっぴり落ち込んでいる上司の横に並ぶ。


「って言うかお三方はどうしてここに?さっき職員から聞いたらストラスさんの

家にも強盗が入ったって」


「ああ、処刑場にあの盗賊たちを連れてきた帰りだったんですよ」


「今日はストラスさん災難じゃないです?」


「僕も心底そう思うんですけどねえ、なんだかもう一悶着ありそうでヒヤヒヤしています」


コルベルが心配そうにそう言うのでストラスがため息交じりに宙を見つめると

何故かフルフルが自信満々に胸を張る。


「ここまで来たらもうなんでも来いよ!」


「やめてくださいよ、本当に来ちゃったらどうするんですか!」


「俺が守ろう」


「あたしも守るよ」


「あ、わ、わたしも…!」


順にエンケラドゥス、フルフル、そして何故かおろおろとデボラも名乗りを上げたので

コルベルは頭を抱える。

ストラスは気が付いていないし、デボラ本人も周囲にバレていないと思っているようだが、

デボラはストラスに思いを寄せている。

そしてその事にコルベルだけでなく恐らくフルフルやエンケラドゥスも気づいている。

そう言った理由で彼女が他の人よりもついストラスびいきになるのは分かるが

処刑人がそんなでは周囲に面目が立たない。

ましてや処刑場内で1位、2位を争う優秀な処刑人なのだから。


「デボラさんは仕事があるでしょう!っつーか、ストラスさんほんと姫みたいですね?」


「困りました。僕はどちらかと言えば第四王子とか、そのあたりのポジションなんですけど」


「なんすかその微妙なポジション」


コルベルは抑揚のない声で吐き捨てた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ