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闇市へ5

無事に帰宅した三人の姿をみてつらら菊が絶句している。

自分のサート職人の様子がおかしいのと、帰ってきた人数が合わないのでカルンは

当たり前だが首を傾げた。

ゴゴウを見てその男は誰だとか、エンケラドゥスたちはどうしたとか矢継ぎ早に聞いてくるカルンの様子がどこか切羽詰まっているのは、多分ストラスがケガしていたのと、シヴァが目に見えて怯えていたからだろう。


「つらら菊、説明して欲しいことが山ほどあるんですけれど」


「な、にをです?」


つらら菊は言いよどんだがストラスは先にけがの手当てを進められたがそれには答えず、まるで機械のように淡々と述べる。


「フルフル達が裏切ったことと、今回のことが貴女の手引きありきの事だったのかと、

それからそちら側の目的と、まあ色々ですけど、どれから説明していただけますか?」


「まて、ストラス。フルフル達が裏切ったとは何だ!?何があった!?」


「それを彼女に聞いてるんです」


話についていけないカルンが詰め寄ったが明らかに苛立っているストラスは、カルンを邪険に押しのけると小柄で青ざめた表情のつらら菊に詰め寄る。

つらら菊は小動物のように小さく震えていて、儚げに見えたが、ストラスはそれでも侮蔑の色を収めることはなかった。

こんな風に嫌悪感を示すストラスを見たことがなかったカルンは何かとんでもない事態が起こっているのだと感じたのと同時に自分が今置かれている状況に取り残されているのが腹立たしかった。


「と、その前にシヴァを休ませたいんで部屋を用意してもらえますか?」


「え?わ、私なら大丈夫…!」


「青い顔して何言ってるんですか。もしかしたらこれから移動するかもしれないんです。少しでも休んでください」


「大丈夫だよ、ガレルの背中でだって休めるし」


「ドラゴンを使える余裕もないかもしれません。言う通りにしてください」


畳み掛けるように言い切られたシヴァは何か言おうと口を開いたがやがてしゅんと

項垂れて小さくうなずく。

つらら菊はストラスに視線を送られると侍女を呼びつけてシヴァを寝室へ案内させた。

侍女とシヴァの背中を見送ってから、自分たちも最初に案内された応接間へ移動する。

一番最初に切り出したのはゴゴウでゴゴウは呆れてものも言えず、眉間にしわを寄せるといつかのようにストラスの頭をスコンとはたいた。

つらら菊とカルンも驚いたがそれ以上に驚いたのはストラスだ。


「何するんですか?」


むすっとしたストラスが口を尖らせて頭をなでる。


「詳しい話は後。お前ちょっとあの子のとこ行って来い!」


「え?なんでですか。休むのに邪魔になっちゃいますよ」


「さっきの今で休めるわけねーだろ!牢にぶち込まれて殺されかけたんだぞ!?

まだ全然怖いに決まってんのにお前は相変わらずそういうとこが鈍いな!?」


「えっ」


ストラスはゴゴウの言葉を飲み込むまでに時間がかかっているらしく、

ぼけっとした表情をしていた。


「えっ じゃねー!まだ不安でいっぱいな時に一人にするやつがあるか!

間抜けヅラしてる暇あったら行って安心させてやれ!」


とどめの蹴りをおしりにお見舞いされてようやく何かのスイッチが入ったらしく、

紙に水が浸透していくように顔色を青に変えてストラスは応接間から飛び出していった。

腹を立てて疲労を感じたゴゴウがゴゴウの言葉で言うのであれば『趣味の悪いソファ』へ

どかりと腰を下ろすとカルンが首をかしげながら怪しげな視線を送ってきた。


「ところで、お前誰だ?」


カルンがもっともらしい質問を投げかける。

つらら菊も最初に訪れたメンバーにゴゴウはいなかったはずだとカルンの言葉に同意するように頷く。


「俺はストラスの友達!あと命の恩人!」


これから尋問される状況でもつらら菊は飲み物の準備はしっかりしていたので

用意された自分の分のお茶を一気に飲み干すと乱暴にカップソーサーへ置いた。


「俺もたまたま居合わせただけだから状況がはっきりしてねーけど。

カルン、お前が『事情を知らない』って前提でこれまでの話をかいつまんで説明してやるよ」


「安心なさってください。彼は本当に関係ありません」


つらら菊はストラスに気圧されていた先ほどとは違い、

きっぱりとゴゴウに言い切った。


「じゃあ、まあ。ストラスが戻るまで俺も…ここに来るまでの経緯を知りたいしな。

他の事はあいつが戻ってからだ」


ゴゴウはここにいる誰よりも乱暴に、お茶菓子のクッキーを口の中に放り投げいれた。





2、3度部屋の扉ノックすると返事が返ってきたので、ストラスは覗き込むようにしてそおっとドアを開けた。

シヴァはベッド端に腰かけているだけで、まだ眠る気配はなかった。

ゴゴウの言う通り、ちゃんと向き合ってみればシヴァはその年齢にたがわず

どこか不安そうにしていた。

シヴァを失うかもしれなかったのとストラスを守らなければいけない使命感と

フルフル達の行動で頭がいっぱいになっていたのは確かだ。

シヴァに擦り傷などの目立った外傷がなかったため、精神的なダメージにまで頭が回らなかったのだ。

シヴァが集落を襲撃されても気丈に旅をしている姿を見てついうっかり自分たちと同じ精神力だと勘違いしてしまっていた。

まだまだ大人の助けが必要な子供なのだと、城を発つときにシヴァに言い聞かせていた自分の言葉がすこんと抜け落ちていた。


「どうしたの?もう出かるの?」


「いえ、さっきはちょっと、言い過ぎてすみません」


「え?」


「ゴゴウに叱られました。シヴァが怖い思いをしてるのに一人にするなって」


「わ、私なら別に平気だよ!ストラス、つらら菊とお話あるんでしょ?行っても大丈夫だよ」


部屋の明かりは応接間や廊下と違ってシヴァが寝付きやすいようにと控えめになっている。

ぽつぽつと間接照明がストラスとシヴァを照らしていて光を背にしているストラスの表情が良く見えなかったが、声からしてものすごく落ち込んでいるのがわかった。

そんなにこっぴどく叱られたのかと不憫に思ったシヴァは

これ以上迷惑をかけないようにと必死に取り繕った。


「怖かったですか?」


「う、うん。でももう大丈夫だから、私、休むね」


「触ってもいいです?」


「さわ…?え?ス、ストラス!?泣いてるの!?なんで!」


シヴァは承諾する前からいつのまにかぎゅむぎゅむと抱きしめられているのも忘れて

めそめそと涙を流す大人にぎょっとする。

体格差からストラスの顔が後ろの方へいってしまっているので

ちゃんと確認はできなかったが鼻をすすっているし、だんだん肩が湿ってきているから

恐らく、いや確実にストラスは泣いている。

泣きじゃくる小さい弟を抱きしめてあやした記憶が急に蘇って

お母さんが以前、シヴァにもしてくれていたようにストラスの大きな背中を優しく撫でた。

ストラスがぽつりぽつりと囁くように口を開く。


「ごめんなさい。僕は君よりもストラスが大事で君にとても怖い思いをさせてしまいました」


ストラスの声が震えている。


「びっくりしたけど、誰だって自分の命は大事だもん。おかしいことじゃないよ?」


シヴァは母親のような口調で言った。


「僕は君にまだ話してないことたくさんあるんです。でも、まだ、言えない」


「大人の話なんでしょ?私が大人になったら教えてくれればいいよ?」


「僕はシヴァが僕を頼ってくれているのがとてもうれしい。そう言うのに

つけ込んでいるんです」


「えーと、それはダメなことなの?」


「普通なら卑怯って言われます」


鼻をすすりながらシヴァから離れたストラスはやっぱり落ち込んだような顔だったし

涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。

大人なのにとても子供のようでシヴァは少しだけくすぐったい気持ちになった。


「私はそう思わないよ。だから泣かないで」


シヴァはぽろぽろと自分の目からも涙が流れ落ちていくのがわかった。

そして今度はシヴァの方からストラスを抱きしめた。


「すごい怖かったし、痛かったし、苦しかったけど、ストラスがすごく怒ってるのわかってたからいいの。大丈夫。心配してくれてありがとう」


ストラスが檻に閉じ込められ、手首に腕輪をされて、まるで奴隷のような扱いを受けていたのにも関わらず、シヴァの首を絞めていた男をずっと睨み続け、

隙あらばとびかかる勢いだったのをシヴァはちゃんと知っていた。

フロウルはこの世界では貴重な人材で、本当なら、ドラゴン遣いのシヴァよりも、

下手をすれば国の王よりも重宝されるような存在だ。

そう誰もが知っている、小さな子供でも、罪人でも、孤児でも。

人身売買の対象にされるような存在では決してないのだ。

それなのにただ、ドラゴンが操れるだけの小娘の為に動いてくれている。

フルフルも、エンケラドゥスだってそうだ。

今回、彼ら二人は裏切り者になってしまったが、そもそもシヴァに付き合ってくれていた

だけでも奇跡のようなものだった。


「いつか、シヴァに聞いてほしい話がたくさんあるので、それまでは一緒にいていいですか?」


「私、ストラスがいなかったらここまで一人で来られなかったよ。ストラスが来てくれるならとっても心強い」


「ありがとうございます…それでモノは相談なんですけど」


「ん?」


「キスしていいですか。同意がないと犯罪らしいので」


「!!!!!!!!だめ!!!!!!!!!へんたい!!!!!!」



さっきまでしっかり抱きついてシヴァは勢いよくストラスを突き飛ばした。

その勢い余ってストラスは段差のあるベッドから転がり落ちる羽目になった。



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