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フロウル2

フルフルが盗賊のかしらへ飛び掛ったのと同時に、ストラスを押さえつけている男たちをエンケラドゥスが毛で覆われた太い腕でなぎ払いう。

他の盗賊たちを文字通り『吹っ飛ばす』という人間離れした技でついには全員を気絶させてしまった。

二人が大立ち回りをしたおかげ…ほとんどエンケラドゥスの仕業だったが、

部屋の中はそれはもうめちゃくちゃになってしまった。


「もう少しうまくやってほしかったです」


「すまん…」


「エンケラドゥスが『ストラスが危ない!』って家の中飛び込んでいくから、

私もびっくりしたよ?」


「ありがとうございます。でももうちょっとうまくやってください」


「…片付け手伝うってば…」


とりあえず、と客人をもてなすためのソファとテーブルだけはなんとか設置し直しては

みたものの、部屋の中はぐちゃぐちゃでその部屋の隅には盗賊たちが気絶したまま

ロープにぐるぐると一まとめにされて巻かれている。

大惨事になったのは玄関からリビングまでだったので、台所からお茶を用意して

出てきたストラスの小言に、

フルフルは小柄な体を抱き寄せるようにしてソファに座り、

エンケラドゥスは身体が普通の人間よりも一回り以上も大きいので

ソファに体が収まりきらず、床に胡座をかいて座っている。


「エンケラドゥスに合う椅子がなくてすいません」


「気にするな。ゼオリン族はもともと床に座る種族だ」


「でも…これじゃあ採掘は明日だね?」


「そうですねえ…」


本来であればこの日、これから三人で採掘に出かける予定だったのだがこの騒ぎの後では

片付けと、盗賊たちを処刑場へ突き出す作業で今日を終えてしまうだろう。

昼間は牢屋へぶちこまれるし、家に帰れば盗賊に襲われるしでなんだか

今日はいいことが無い。

そんなことをため息混じりに考えていると あ、とフルフルが声を上げた。


「そう言えば、さっき女の子に会ってね、ドラゴンの涙はないかって聞かれたんだけど」


「えっ?」


「どうした?」


エンケラドゥスがその手に不釣合いの小さなカップを口へ運ぶ途中で

ストラスの声色に素早く反応した。


「いや、さっきの盗賊もドラゴンの涙を寄越せって…」


「え?何?ドラゴンの涙流行ってんの?」


「流行であんな高価なものほしがりますか?500万ミールですよ?」


500万ミールあれば、一軒家が買える額である。


「……何かに使うにしても限られてるよね。ドラゴンの涙なんて……薬か…まじない…あと武器精製?」


「だが武器は槍と剣のみだぞ。それも扱うものも限られる」


唸るようなエンケラドゥスは外見のすごみがより、増していた。


「ドラゴン遣いだっけ。槍と剣って言えば」


フルフルが顎に人差し指を当てて言った。


「…女の子?」


ストラスが眉間にしわを寄せながら呟く。


「?うん。髪の長い、きれいな子だったよ。ここら辺の子じゃないみたいだったけれど」


予想もしていないところにストラスが疑問符を置いたのでフルフルは何か気になる事でも

あるのだろうかと思い、自分を訪ねてきた少女のことを思い出す。

フルフルも、長くその少女と話したわけでも無いし、その少女も名乗らなかったので

どこの誰かまではわからなかった。

暫くストラスが考え込んでいるのでエンケラドゥスも心当たりがあるのかと思い尋ねた。


「何か気になるのか?」


「いや、それが今日家に帰る前に牢屋にぶち込まれてたんですけど、

その原因が女の子に変質者扱いされたって言うので…」


「とうとうか!?」


「やっちゃったの!?」


小柄な少女と大きな獣はほぼ同時に勢いよく身構えたが、ストラスは

二人の心配を余所へ置き、その時の悔しさをにじませた表情をめいっぱい浮かべて

首を横に振った。


「残念なことに未遂なんですよ、ほんと残念でした」


「わかった…本当に悔しいのは分かったから…」


「女の子か……もしかしたら同じ人物かもな」


「はい。ただ、僕は顔をよく見ていないので」


「見てるのはあたしだけってこと?」


おそらく、とストラスは頷いて見せる。

フルフルは腕組みをしてソファの背もたれに体を預けた。


「うーん。同じ日にドラゴンの涙を探してる人物に遭遇するって滅多にないね…

その女の子に何に使うかちゃんと聞いておけばよかったかな」


「探しに行ってみるか?まだ街の中にいるかもしれない」


こいつらつまみ出すついでに、と部屋の隅に捨て置いた盗賊たちを指さした

エンケラドゥスの提案に、ストラスとフルフルは無言でうなずいた。



三人が盗賊たちを連れ、処刑場まで赴くといつもの喧騒とはまたちがった雰囲気で

処刑場の職員たちが右往左往していた。

職員の誰かに盗賊たちを引き渡そうと声を掛けたかったがなかなか捕まらず、

痺れをきらしたエンケラドゥスが走り回っている職員の首根っこを捕まえると

職員は驚いてエンケラドゥスを見上げた。

突然体がそこから動かなくなった職員は気配を感じてそちらを見上げると

獣人の顔が視界に入る。

まさかこんなところに獣人がいるとは思わなかった職員がみるみる内に顔を青くして震えだしたので

フルフルとストラスはエンケラドゥスからその職員を引き剥がし、なだめるのに大変苦労した。

犯罪者の中にも時折獣人が紛れていることがあるが基本的には

獣人は大人しく優しい性格が多い。

犯罪を犯すのもその理由はだいたい何かから守るためだったりするので

大体は釈放対象だが、それでもその大きさや容姿に畏怖を感じる人は少なくなかった。


「何かあったんですか?」


「それが……誰かが手引きをして罪人を逃がしてしまったんです…って、

あー!ブノワじゃないか!」


「お知り合い?」


職員の男はぐったりとしている盗賊のかしらの顔を見るなり、指をさして大声を上げる。

周りで走り回っている職員たちが一時足を緩めたがすぐに自分たちの仕事に集中した。

びっくりしているストラスたちよりも驚いている職員は歓喜を抑えられずに

手に持っていた名簿を勢いよくめくっては何かを記入している。


「逃げ出した罪人の盗賊ですよ!捕まえてくれたんですね!?手下たちも全員いるう!助かりました!」


「捕まえたっていうか、ストラスの家に強盗に入ったのよ。恐れ多い」


「は、ストラスってあの、フロウルのストラス、さん?」


そこでぴたりと動きを止め、恐る恐る顔を上げた職員は、

大きな黒縁の眼鏡を指で上げるストラスに慎重に尋ねた。


「はい~。なので引き取ってもらえます?」


「は、はい!!た、ただいま!すぐに!」


先ほど自分を捕まえた役人は証拠にとサートを見せても信用ならんとストラスを

牢屋へ放り込んだが、手続きをする職員はそのあたりの認識が違うらしく

フロウルの証であるサートを見せると二つ返事で盗賊を引き取った。

今回はストラスが本物でなくとも盗賊が盗賊であることはかわりないので

引き取ったのかもしれないがやはりサートとストラスの名前は偉大である。

どの案件よりも最優先事項にまわされ、うろたえていた職員たちの統率が一気に

整っていく。

直接盗賊を引き取った職員がストラスたちの事を話したらしいが

それにしても異様な整いようである。


「あんたなんかしたの?」


「だから捕まったって言ったじゃないですか」


フルフルからじとりとした視線を浴びたがストラスは澄ました顔をして答える。


「あー、デボラが手を回したのかな、じゃあ?」


「そうかもしれないですね。とりあえず盗賊の方はこれで終わりましたけど…アッ」


「どうした?」


「いや、盗賊さんにどうしてドラゴンの涙が必要なのか聞けばよかったですね」


「盗賊なんだからどうせ金目のものが欲しかっただけでしょう」


「そうかなあ」





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