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出会い




 質問。目の前の宝箱のようなものから禍々しい気配が出ていた場合、あなたはどうしますか?


 回答。後ろを振り向かずに逃走する。



(―――って脳内で自問自答してる場合じゃないっ)



 目の前に鎮座している宝箱からずくにでも逃げ出したい衝動にかられるが、そうはさせないという意思があるかのように謎の威圧を感じ、その場から動けずにいる。宝箱からなんとか手は放せたものの、次の行動に移せない。


 そんな状態がしばらく続き、少しずつ動けるようになってきた頃、宝箱がカタカタと(きし)みながら震える。



(ぜ、絶対中に何かいる―――ッ!?)



 不穏なものを確信しながら心の中で叫ぶ。邪神とか魔神とか魔王とかそういうのはお断りしたいけど、宝箱からどんどん謎の威圧が増しているため本当に災厄をもたらす存在が出てきそうだ。


 もう既に宝箱からピシッという音が聞こえ、箱に亀裂が入っている。残された時間はあと僅かしかない。



(や、ヤバイヤバイヤバイっ! もうどうすればいいのさ!? 逃げようにもやっと体が威圧感に慣れて動き始めたばかりなんだけど―――!?)



 脳内で滅茶苦茶混乱しまくってると、遂に鍵穴部分の金属まで悲鳴を挙げ始めた。



(うわ―――んっ!! もう駄目じゃんかー!?)



 僕は本気で死を覚悟―――する事なんてできるはずがないので何歩か後退するだけで精一杯だ。しかし、背後は階段なのでもう後退りすることもできず、極限状態まで追い込まれた僕はやけくそ気味に叫ぶ。



「あぁもうッ!! 異世界の邪神とか魔神とか魔王とか知らないし知りたくもないけど僕はやるぞーっ!」



 勝てないのはわかってるけど、これは開けてしまった者の責任だ。何があっても僕は徹底抗戦すると心に誓ってやけくそ気味に叫んだ瞬間、バキリと音を立てて宝箱が開いた。



『いつもニコニコあなたの側にっ! 這い寄る混沌! ニャルラトホt―――』



 僕は勢いよく開いた宝箱を閉じた。それはもう再封印する気概(きがい)で。



『あれっ!? なんで私また閉じられちゃったの!? ちょ、ちょっと待って!! 今のはただのジョークだから! 何も問題ないから!』



 閉じられた宝箱がぴょんぴょん跳ねながら弁明してくるが、僕は無言で宝箱を押さえつけた。



『あのーっ! そこに誰かいるのは分かってるんだからね! 誰かは分からないけど出してくれないかな? というか押さえつけないで!? さっきの台詞(セリフ)が気に入らなかったの!? 安心して、ただのジョークだよ!』



 著作権的な意味でまったく安心できないからどうかこのまま封印されてて欲しい。大人しく封印された後、ちゃんと花束(といっても室内庭園にあった雑草だが)くらい添えるから。



『くっ…! 何がなんでも私を出さない気だね…ッ! そこまでやるならこっちにだって考えがあるよ…!』


「えっ――!?」



 宝箱がそう言った瞬間、僕の体から急激に力がなくなっていく。多分だけど魔法かなにかで力が吸収されているんだろう。



『お? おぉっ!! 凄い! かなり力が入ってきたよ! 気配しか感じなかったから一晩中粘る覚悟はしてたけど、これなら―――!!』



 そんな悲しい覚悟はしないで欲しい。



「ぐぅっ!? も、もう―――」



 僕も僕で全然力が入らず膝をつくと、とうとう宝箱が開いてしまった。あぁ、そんな。せっかく封印できると思ったのに…。



『呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーンッ!! 最上位精霊こと星野(ほしの) ヨゾラ、ここに参上だよっ!』



 …………。


 …………………………。


 ……………………………………………………………。



『あれ? 誰もいないのかな? うーん、でも気配はすぐ(そば)から感じるんどけど……あ、もしかして聞こえてなかったり?』



 少々困惑した声が聞こえる。このように僕はばっちり聞こえてるけど、驚愕し過ぎて声に出ない。だがそれを勘違いした声の主は、悲しげに呟いた。



『…………そっかぁ、久し振りに誰かと話せると思ったんだけど、聞こえてないなら仕方ないよね。…はぁ、勢いで封印破っちゃったけど、話し相手がいないなら封印されてた時と同じだよ…』



 ―――寂しい。


 声の主の言葉から、その感情が強く感じられた。それはまるで、長く入院生活を送っていた僕の姿と重なっているみたいでどうしても無視する事ができなかった。



「………あ、あの」


『うわわわっ!? え、ちょ、な、なにかなっ!?』



 驚かせないように小さな声で話し掛けたら物凄く慌てられた。一応、謝っておこう。



「あ、すみません……えっと、姿が見えないんですけど、どこかにいます?」


「いる! 超いるよ! というかここ!」



 正体不明というか、なんかよくわからないものに思わず敬語になった。


 段々と力が戻ってきているので取り敢えず立ち上がって辺りを見渡すが、声を発していると思わしき人物はいない。


 しかし、確かに声はする上に『ここ』と言っていた事から推測すると近くにいる可能性が非常に高い。



「……」



 チラリ、と先程まで押さえていた箱を横目で見る。


 箱は鍵の部分が壊れて蓋が開いている。そしてその中にはすごく大事な物のように保管されている一つの鈴つきの首輪があった。


 今までの漫才みたいなやり取りをしていたので、本当は何が声を発しているのか理解している。でも、ちょっと理解したくなかったというか脳が無意識に理解を拒んでいたというか……まぁ、とにかく見ないふりしてた。



「……やっぱり、この首輪………かなぁ」


『イエス! イエスッ! それですっ! 今君が見てるのが私だよ! あとこれ首輪じゃなくてチョーカーというオシャレ道具です!』


「ふ、ふーん…」



 内心、動揺が隠せない。


 異世界だからエルフとか獣人とか魔族とか天使とかその他諸々いるんだろうとは思っていたけれど、さすがに異世界で初めて出会ったのが喋るチョーカーだとは思ってなかった。


 どういう原理でこんなことになってるのか理解不能だよ。



『あれ、なんだか反応が薄いね…? あんまり動揺してないのかな?』


「いや、むしろその逆で動揺しすぎて言葉が出ない…かな」



 チョーカーと面と向かって真面目に会話する人を客観的に見れば、かなりシュールな光景であり、それと同時に間違いなくヤバい人と認識される。ここには僕以外の人はいないけど。



『あー、確かにそうかも。この状況って客観的に見るとチョーカーと会話してることになるよね……うん、想像してみたけどかなりシュールだね』


「あはは……それもそうだけど姿が見えない分、どこに視線を向けるのか迷うときがあるんですよね」


『うーん……あ、そうだっ! じゃあさ、そこの君! このチョーカー着けてみない? 着けたら多分、私の姿がバッチリ見えるようになると思うんだけど……どうかな?』



 ヨゾラの提案に僕は目を丸くした。



「それって本当なの?」


『見えると思うよ! まぁ私ってこう見えても結構力あるから!』



 こう見えても、と言われても僕はヨゾラの姿が全く見えないのですが……というツッコミは心の中にだけでとどめておく。



「へぇ、そうなんだ。なら着けてみようかな」



 正直、相手の姿が見えないと独り言呟いてる感じがして違和感あったしありがたく提案に乗らせてもらおう。


 そう思って僕は鈴つきのチョーカー(首輪にしか見えない)を首に嵌めようとして――――



『あ、言い忘れてたんだけど一回嵌めたら二度と外せなくなるけどそられでもいいなら着け―――』


「えっ…」



 ――――パチンッ


 何かが結合したような音がなった。



『「あっ」』



 気の抜けた声が虚しく響く。出会って数分、見事なほど息ピッタリであった。


 いや違う、そうじゃない。


 言いたいのはそこじゃなくて、もっと不穏な言葉が聞こえてきた時のことを追及したい。


 さっき二度と外せなくなるとか言ってなかった…?



『あのー、もしかして……手遅れだったかなー?』



 気まずそうな声を出すヨゾラ。

 声のした方に視線を向けると、そこには10センチくらいの宙に浮かぶ妖精がいた。


 夜色のセミロングに黄水晶(シトリン)のような瞳と幼さの残る顔立ち。髪には星型のヘアピンがついており、まるで夜空に浮かぶ一等星を連想させた。


 そしてなによりも目を惹くのが、今もパタパタと揺れ動いている2対の羽だ。ファンタジー要素溢れる妖精(?)を漫画やアニメではなく、現実で見れた僕は感動しそうだ。


 けど少し凝視し過ぎていたのか、僕の視線に気付いたヨゾラと目が合う。



「あ、どうも…」


『う、うん……どうも』



 ………………。


 ……………………………どうしよう、会話が続かない。



『あ、あの! 取り敢えず自己紹介から始めましょう! 着けてしまったものは仕方ないし、ここは不幸な事故ということで!』



 沈黙に耐えられなかったヨゾラは、あわあわと両手を振りながら必死に話題を逸らした。



「えと、そうだね…」



 ある意味事故だし、チョーカーのことに関してはあまり気にしないことにしよう。二度と外せなくなっても対して困る事はないだろう。せいぜい体洗う時、少し邪魔になるくらいだし。然程気にすることでもない。



『じゃあ、私から改めて自己紹介するね! 私の名前は星野ヨゾラ。これでも最上位の精霊だよ』



 フフン、と永遠のゼロと表現できる胸を張って自慢げに言うヨゾラ。



「精霊…?」



 自分の持つ精霊のイメージと、目の前にいる精霊の容姿が噛み合ってなくて思わず首を傾げた。


 困惑気味な様子の僕を咎めることなく、ヨゾラはこころよく答える。



「そう、精霊。しかも最上位のね。そもそも、精霊っていうのは簡単に言うと凄く凝縮された魔力の塊が意思を持つ事によって生まれる思念体みたいな存在なの」


「へぇー、そうなんだ。なんか凄いね」



 精霊ってそんな感じで生まれるんだなー、と感心しながらヨゾラの話を聞く。



『でしょでしょ! 精霊って信仰されるくらい偉大な存在だからね』


「信仰……神様みたいなものかな?」


『うーん……神様とはちょっと違うけど似たようなものだよ』



 その事についてヨゾラからもう少し詳しく聞いてみると、精霊の信仰とは神様の信仰と違い、人間に実益をもたらしているから信仰されているらしい。


 例えば人間に加護を与えるとか、枯れた土地を癒すなどして人間に貢献してきたからこそ、人間も精霊を信仰し、精霊の糧となる魔力を捧げてきたとか。


 簡単に言ってしまえば共存関係にあるのだ。


 まぁ魔法も何もない現代で生きてきた僕にとっては「へぇー、そうなんだなー」くらいの認識しかないけど。ほんと実感わかないね。


 ちなみに精霊には位階(ランク)があって、第10位階~第6位階までが下位、第5位階~第2位階が上位、そして最後の第1位階が最上位とされていて、最上位の精霊は全世界の人口1%未満の数だとか。



『じゃあ、次! 君の番だよ!』



 もっと精霊とかについて詳しく聞きたかったけど、指名されてしまった。


 …仕方ない、簡単に自己紹介するか。



「僕の名前は、白銀 鏡夜。……………………よろしく」


『スト――――――ップッ!!』



 簡単な自己紹介をしたのだが、何故かヨゾラは叫んだ。



「えと、どうしたの? 急に大声なんか出して」


『いや、そりゃ出したくもなるよ! 名前だけしか言ってないじゃん! もうよろしくする気がない自己紹介だったよっ!』


「え、そうなの?」


『そうだよっ! もっと何かないかな? 好きな食べ物とか苦手なものとか得意な事とか』


「うーん……たしかに、言われてみれば」

 


 自己紹介と言っても僕の場合、小、中学でやったくらいだし……もちろん小学生の頃の自己紹介なんて覚えてない。そんなに記憶力よくないし、中学も覚えているのかすら怪しい。


 多分だけどさっきみたいな端的な自己紹介をしてたと思う。しかし、これでは駄目だとヨゾラにダメ出しされたので改めて考えてみる。



「好きな食べ物は……オムライスとサンドイッチ、苦手なものは、特にないかな。あと、得意な事というか、特技は模倣と料理くらい」



 目を閉じて考えながらゆっくりと答えていく。だいたいこんな感じだけど多分、合格点はもらえるはず。



『まぁ、いいんじゃない? ギリギリ及第点だけど。私だったら"これから仲良くしていきたい"みたいな事を言って握手してたかな』



 ごめん、僕そこまで言えるほどコミュ力お化けの陽キャラじゃないんだ。たまにクラスメートから挨拶されるくらいの陰キャラでしかないよ。小、中学なんていい思い出がほとんどないんだし、もう認識すらされてないんじゃないかと思うくらい無反応だったから。


 その事をちょっとだけ伝えると、滅茶苦茶心配された。さすが陽キャラ精霊。精霊は陽属性でも持ってるのかもしれない。



『まぁ、何はともあれ! これからもよろしくね! キョー君!』



 そう言うとヨゾラは小さな手を差し出した。状況から考えるに握手しよう、ということなのだろう。



「うん、僕の方こそよろしく」



 僕は笑顔で答え、人差し指を出してヨゾラの小さな手と握手(?)する。


 こうしてまた一つ、この世界で人間と精霊が友好を結んだ。




tips.4  『星野 ヨゾラ』


・見た目は妖精。常にパタパタと羽を動かして空中に浮遊している。

・情報収集が得意。電子機器の中にも最大3時間ほど入ることができる。

・基本的に素は出さないようにしているが、信頼できる人には素を隠さない。

・実体化することは可能だが、魔力を消費し続けるのであまりやらない。

・その昔、電子機器に入れることを利用し、Vtuber【星野☆ヨゾラ】として個人勢で活動していた事があったとか。その時に今の口調が定着したらしい。


《一言コメント》

「いやぁ、私って可愛い系Vtuberやってたんだよねー。えへへ…」

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