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能力と探索




 【魔女に寵愛を受けし者】という不吉な称号を粗方調べてみたが今のところ代償以外にマイナス要素はないと思う。この称号の条件を得られるような場面に遭遇した記憶がないのに獲得しているという不気味さはあるが、追加効果が案外嬉しかったりする。


 そしてその他にも漫画やライトノベルから得た知識を元に、色々と憶測を立てては調べての試行錯誤を繰り返し、大事なことが2つほど判明した。


 まず一つ目はレベルという概念が存在していないこと。どれだけステータスを(いじ)って探してもレベル表記は見つからなかった。しかし、レベル表記がないとはいえ、強くなれない訳ではないと思う。


 それは現代にいた頃と同じで、例えば毎日欠かさず鍛練を続けていれば、レベルという概念がなくとも徐々に強くなっていくだろう。鍛えれば強くなるし、走る速さも上がる。それはごく自然のことであり、当たり前のことだ。


 だからレベル表記がなくても強くなれる可能性は十分にあると思う。都合のいい憶測かもしれないけど多分この憶測は間違いではないはず。


 試しにジャンプしても一定の高さから体が床に落ちていくので物理法則は存在している。この法則が憶測を確信へと近付ける証拠となってはいるが、ここは異世界だ。魔法というファンタジー要素がある限り、どこまで物理法則が通用するのか分かったものではない。あまり先入観に囚われない方が身のためかも。


 そして二つ目は《異空間収納》という機能があることだ。これはゲームでもアイテムボックスがあったように、この異世界でも何かしらあるのではないかと思ってホログラムの説明文が出てこないかと念じたところ、普通に出てきた。



【異空間収納】

・生きた生物以外はなんでも異空間に収納できる。

・異空間に保管してある物は本人にしか出し入れすることができない。

・異空間収納の容量は魔力量に比例し、魔力が多いほど総合的な容量も増える。

・本人が病気や事故で死亡した場合、異空間は中にある物ごと消滅する。ただし、意図的に殺害された場合、異空間に収納していた物がドロップする。

・これにより、異空間収納が使える者が大量に殺される時代もあった。



 とまぁこんな感じだったけど、説明文からするにどれだけ便利なのかがわかる。しかし、それだけではなく最後にかなり物騒な事が書かれているので、あまり人前で使わない方がいいだろう。


 後半部分の説明文の通り、《異空間収納》を使える者が保有している物を狙って殺害されることもあるのだ。特に戦闘力のない僕が狙われたら、ものの数秒で殺される。せっかく異世界転生したのだから異世界生活を謳歌(おうか)したいし、簡単に死にたくない。


 いつの時代でも―――いや、世界が違ったとしても、人間の欲の大きさは然程変わりはないということか。まぁ、そんな事を考えていても、しばらくはここから離れられそうにないから他の事を考えていた方がよほど有意義なのではあるが。



「さて、と。《異空間収納》が使えるみたいだけど、実際どうやって使うのかな」



 便利なのはいいことだけど、問題点はそれを使えるかどうか。例えどんなに便利な魔法を習得していても、使えなければそれは宝の持ち腐れでしかない。


 うーん、取り敢えず出るように叫べはいいのかな。実行してみるのが一番早い。違ったら違ったでまた何か別の方法を考えればいいだけだし。



「《異空間収納》!」



 叫んだ瞬間、目の前の空間が歪んで亀裂が出来た。そしてその亀裂は徐々に大きくなり、やがて一つの穴が形成された。穴は真っ黒で向こう側がまったく見えない。多分異空間があるのだと思うが、何も見えない分、何があるのか分からない恐怖を感じる。


 物を出し入れする際は、手を突っ込んで入れるんだろうなと予想するが、それを躊躇(ためら)わせるほどの恐怖感があるので、あまり手を突っ込んでみたいとは思わない。


 試しに《異空間収納》を閉じるように念じてみると、空間に発生した亀裂が消えていき、約1秒ほどで完全に異空間は消失した。どうやら《異空間収納》も念じるだけで開閉することが可能のようだ。その証拠にすぐに異空間を開くように意識すると、閉じた時と同じ速さで異空間が現れた。


 僕はしばらく目を閉じて数秒間思考すると、再び目を開けて異空間をもう一つ作るように意識した。しかし、これには何も反応せず、異空間に変化は起こらなかった。このことから《異空間収納》の出入口は一つしか形成できない事がわかった。例えアイテムなどを収納させれる異空間が同じでも出入口がいくつかあったら便利そうだと思ったのだが、諦めるしかないようだ。


 異空間をさっさと閉じると僕はまた目を閉じて思考する。物事を深く考え、そして何かしら発案する時は目を閉じてしまうのが癖だ。そして再び目を開ける時は結論またはアイディアが思い浮かんでいる。僕は数秒後、再び目を開けた。


 先程と同じように《異空間収納》を発動させる。しかし、今度はただ開けるように意識するのではなく、それと同時に別のことも意識して異空間を発生させる。


 発生した異空間は、空中には開かず、結晶で構成された床にじわじわと空間を広げていく。見た目が真っ黒なため、まるで底なし沼のような印象を受けた。片足突っ込んだら戻れなくなりそうだし、数多の死体が底に沈んでいそうだ。


 再度異空間を閉じてはすぐに別の場所に発生させる。今度はこの神殿にいくつもある大きな支柱の一つにした。特に問題もなく先程と同じように発動出来ているのでこれにて《異空間収納》の簡単なテストを終えた。


 さて、次に試したいのは《結晶の聖女(クリスタル・マリア)》についてだが……これはなんとなくだけど使い方が分かる。体感的なもので非常に言葉で表現しづらいが、例えるならもともと使い方を知っていたかのような感覚。しかも息するのと変わらないくらい扱いやすい。


 魔力操作が上手いから、という表現がしっくりくる。体内に存在する魔力という全く別の力と感覚に若干戸惑いはするものの、体内で魔力をコネコネして遊んでたら慣れたのでさして問題ない。


 内に秘めた膨大な魔力の一部を体外に放出し、自分の体を守護するように(おお)う。見た目は澄みきった群青(ぐんじょう)色のオーラのようなものが僕の体を包み込んでいて、まるでどこかの戦闘民族みたいだ。ついでと言わんばかりに光の粒子まで出てるし。


 僕は魔力を体内に引っ込めると、この神殿内部を探索する。


 一階にはエントランスホール、空き部屋が6、書斎、誰かが使っていた痕跡のある研究室、食堂、大きい浴室、トイレ、リビングがあった。


 二階は空き部屋が10、寝室が2、かなり広い室内庭園、物置部屋が3、トイレがあった。


 色々とツッコミどころ満載の神殿(?)だが、なんでこんな生活感溢れているのか謎過ぎる。まるでここに誰かが長く住んでいたみたいじゃないか。


 床や壁、天井など何もかも結晶で出来ているが、それぞれの部屋にある椅子やテーブルは木製だった。小道具や装飾品もかなり傷んでおり、木製のものに至ってはところどころ腐敗している。


 正直すごい違和感だ。神殿は建築されてから1年も経過していないような綺麗さを誇っているのに対して、中にある木製や鉄製のものは経年劣化が酷い。このちぐはぐさから考えるに、非現実的ではあるがこの神殿の結晶は経年劣化しないのだろう。


 流石は異世界、なんでもありかな。


 少し異世界の自由さに内心驚きながらも、神殿内部の探索はほとんど完了した。まだ見回れていないところもあるが、今日はもう遅い。窓から光が差し込むことはなく、闇夜を映しているだけ。


 外は生い茂る木々が邪魔で星は見えないが、多分夜の9時くらいだと思う。


 あ、そうだ。ちなみにだけど、こんな電気もない場所での夜は、周囲が見渡せなくなるほど暗くなる。しかし、神殿内部は明るい。なぜならエントランスにあるシャンデリアや廊下の一部が光源としての役割を担っているからだ。


 静かな夜、一定の間隔で設置された結晶が淡い光を放つ廊下を僕は歩いていた。周囲を照らすブルーライトのような色合いの光は、結晶とマッチしててどこか幻想的な光景に見える。


 向かう先は食糧庫。一階にある食堂の厨房からしか入れない場所だ。あそこには沢山の食糧が保存されており、どれも採れたてのように鮮度が良い。もしかしたらこの食糧庫には食糧が腐らないようにする仕掛けでもあるのかもしれない。


 目覚めた時は空腹感がなかったけど、それでも1日何も食べてないとなるとお腹も減る。僕のお腹がグルルーと音を立てて「早くなんか食え」と抗議してきた。


 食糧庫には様々な種類のものがあり、肉や魚、青果物に調味料と勢揃いだ。しかもそれが食糧庫いっぱいにあるのだから食うには困らない。腐敗とかも心配なさそうだし。



「なんか空き巣やってるみたいで罪悪感があるなぁ…」



 ボソリと独り言を呟く。


 前まで誰かがここで生活してたのは確実だし、今いないとしても今後住居者が戻ってくる可能性もある。


 もし住居者がどこか遠出してるだけで、帰ってきた時ばったり遭遇したらどうしよう。土下座して本気で謝ったら許してくれるかな。いや、温厚な人ならともかく大抵の人は許してくれなさそうだ。


 そう考えるとここをすぐにでも出ていきたくなるが、僕はこの神殿以外を知らないのでそれは最終手段にしよう。


 そんな事を考えながら歩いていると、目的地の食堂へとたどり着いた。そして厨房にある食糧庫の扉を開けて中に入る。物凄い量の食べ物が視界いっぱいに広がり、まるでどこかの楽園のようだ。


 僕はすぐに食べられそうな干し肉とリンゴのような形をした果物を一つ手に取り、食堂を後にする。


 リンゴのような果物は、形や匂いは完全にリンゴなんだけど、果実の色が白色になっている。手触りからしてカビとかじゃなくて元からこの色なんだろう。


 干し肉はなんの肉かは分からないけど、見た目は完全にベーコンを乾燥させたようなやつなので問題ないと思う。匂いは嗅いだことのないような独特の香りだけど……問題ないよね?


 食べても大丈夫なのは食糧の状態を見てればなんとなく分かるんだけど、ちょっと疑ってしまう。


 じゃあなんでそれを選んだんだよ、と言われそうだけどこれが一番まともそうな物だったからという理由に他ならない。


 この食糧庫を初めて発見したときは戸惑いが大きかった。肉(赤身)のような見た目なのにすごくフルーツ系の爽やかな香りを放ってたんだよ? 違和感半端ないよね。しかもこれがまだマシな方なんだから察して欲しい。


 その時は結局何も食べてなかったけど、その代償として今もなお空腹感が襲い掛かってくる。


 半分諦めてた僕は干し肉を恐る恐る一口(かじ)る。



「……お、美味しい…!」



 ちょっと意外……というほどでもないか。だって見た目は普通の干し肉だし。でもこの干し肉、普通のものと違って柔らかい。確かに乾燥させて硬くなってるけど、すんなりと噛みきれる硬さだ。ちょっと癖になりそう。


 干し肉を完食したら次はリンゴ(?)だ。白色のリンゴなんて見たことも聞いたこともないけど、ここは異世界だからそういうこともあると無理やり自分を納得させる。しかも若干輝いているように見えるけど気のせいに決まってる(震え声)。


 取り敢えず一口齧る。……うん、意外と普通のリンゴだ。見た目はアレだけど悪くない。多分平均的なリンゴより甘いと思う。よく病室で食べてたからなんとなくだけど判断できる。


 味も特に問題ないことが分かったため、すぐにリンゴも完食してしまった。口当たりもよく、渋みも全くなかったのでついつい皮ごと食べた。さすがに種や芯は食べてないけど。


 これもリサイクルだと思い、残った種と芯は土に還した。もしかしたら育つかも……ってそんな訳ないか。



「ふわぁ…今日はもう遅いし寝ようかな」



 食べたら眠くなってきたので寝室らしき部屋へと向かうが、途中で重大な事に気づいた。



「あ、でも寝室のベットとかカビてた気が…」



 いったいどれほど放置されていたのか知らないが、これじゃベットで寝られない。


 その後、この事実に僕は顔を青くしながら床で寝たのは言うまでもない。布団とかなかったのでちょっと寒かったです。




tips.2  『黒崎狂華』


・ロングハーフアップの黒髪と紫の瞳。才色兼備を体現したかのような美少女。クール系のお嬢様ではあるが、白銀鏡夜と二人きりになるとまぁまぁデレる。

・特技はない。やろうと思えば大抵の事はなんでも出来る。

・趣味は盗聴(鏡夜限定)、盗撮(鏡夜限定)、監視(鏡夜限定)、動画編集(鏡夜限定)、録音編集(鏡夜限定)、ぬいぐるみ(鏡夜)の製作など。

・黒崎家を嫌い、将来は白銀鏡夜と暮らすことを夢見ている。……異常な環境で育てられたため、愛情表現も歪んでしまった生粋のヤンデレ。わりと嫉妬深く、怒らせ過ぎると監禁だけでは済まないかも。


《一言コメント》

「ヤンデレじゃないわ。少し嫉妬深いだけよ」

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