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首都炎上 4

グロ注意

 関口のおっさんは許容範囲内の汚い笑顔を浮かべていた。

 後悔、憎悪、怒り、あとせっかくのボスが幼稚なクソ野郎だった件などが渦巻いているのだろう。

 理想としては「貴様と我の正義が交わることはない! さあ剣を抜け! ズバァッ! ……我は王としてここで死ぬ。だが人間は愚かなものなのだ! 貴様らがこの国をどう導くのか! それをあの世で眺めてくれる! ブシューッ!」だろう。

 実際蓋を開けたらこんなものである。

 被害者側の家族が殺人事件の裁判に出たくないのと同じな。

 想像の中の悪魔のままでいさせてくれってやつ。

 殺人犯なんてのはゴミカスなのだ。……俺も含めて。

 ここには人を殺したことのないきれいな人間は咲良と楓の二人だけ。

 あとはみんな手を汚している。

 関口だって四宮だって……真穂だって人を殺している。

 じゃあどうするかって……エンジョイ&エキサイティングだ。

 関口がどこからか持ってきた大きな缶を開ける。

 そのまま鼻歌を歌いながら王にかけていく。


「王様よぉ、俺たちの世界の人間ってな、ちょっと頭がおかしくてな、いろいろ凝った殺し方を開発したんだ。ガス室にガローテにファラリスの雄牛にギロチンに電気椅子ってな。ま、俺たちは普通の人間なんでオリジナリティあふれた殺し方はできねえ」


 ふんふんふーん♪ と関口は上機嫌に鼻歌を歌う。

 昔のロックバンドの曲だ。悪魔を歌ったやつだ。

 悪魔と自分を重ねているのかもな。

 缶の中身は……たぶん油だろう。ライターオイルだろうか。

 関口はガソリン撒いて自分たちまで巻き添いにするアホじゃないからな。


「ま、待て! 我は、我が一族はあのドラゴンに騙されたのだ! 異世界人を召喚すれば国は永遠の安寧を得られると言われたのだ」


 王が命乞いした。


「そっかー。でもダメだ。年貢の納め時ってやつだ。お前も、お前の一族も、お前の国もここで滅びる。お前は邪竜を崇めた無能な王として永遠に語り継がれる」


「ふざけるな! 我は邪竜に騙されていたのだ。なあ我は被害者なのだ……だから……」


 関口は王を蹴飛ばしポケットからライターを取り出す。


「これは結婚を誓った女が誕生日にくれたものだ……ま、言ってもお前さんにはわからんだろうな」


 火がついたライターを王に投げつける。

 王の悲鳴が響き、咲良と楓は目を背けた。

 関口はなんとも言えない表情でささやいた。


「悪いがお前らには王は殺させてやらねえ。正当防衛や作戦のために殺したわけじゃねえ、復讐のためだけに王を殺したのは俺だ」


 まーた、一人で抱える! このおっさんは!

 もーね、助け船を出してやる。


「もーね、おっさん。トドメをさすぞ。こんなクソ野郎サクサク殺そうぜ!」


「やめてくれ。頼むから……シュウ……火を消してくれ。助からない程度に焼けたはずだ。王を広場に晒すぞ」


 殺すより残酷じゃねえか。なにか考えてるんだろうけどさ。

 見苦しいの嫌い。


「火の精霊よ。静まり給え」


 一瞬で消火すると死に向かう王がそこにいた。

 ぜえぜえと呼吸し、痛みに反応すら返せない。

 関口はエルフに言った。


「晒し者にしろ。おもしろ半分に石を投げさせないように監視もつけてくれ。もしそれでもなお命の危険を冒してまで王に慈悲を……トドメを刺してやろうとする騎士がいたら、怪我をさせずに連れてきてくれ。そういうやつがこの世界には必要だ。それと王子と王女を王都の外まで護ってやれ。絶対に殺すな」


 エルフは頭を下げ王を運んでいく。


「おっさん……なに考えてんだ?」


「なにも。この世界の連中を試してるだけだ。なあ、みんな頼みがある。もし王に慈悲をくれてやるやつがいたらこの世界の連中を許してやってくれねえか?」


 いままで口を挾まなかった四宮が素早く答える。


「ああ、いいぜ。俺はここに残るからな」


 女性陣はなにやら相談する。

 そして真穂が代表して答える。


「関口さん。いいよ。私たちは許してやる」


 他の男性陣をハヤトが代表する。


「復讐は終わった。俺たちは……黒田を止める。異世界人を恨む気はない」


 最後に全員の視線が俺に集まる。


「あのな、俺は許すとか許さねえとかの権利ねえのよ。俺はこの世界の連中殺しまくったし、王都護ってたドラゴンもぶっ殺したし、数万人は俺を恨んでるだろよ。王も貴族も死に絶えればいいと思うけどな! だけど拉致された連中が帰って来さえすれば問題ないわけよ。地球人を助けたら次は黒田の逮捕。そしたら受験勉強というクエストに乗り出さなきゃならんわけよ。知るかこんな世界の連中のことなんか!」


「それですめば……な」


 ああん?

 なに言ってんの?

 すると全員が「なに言ってんだこいつ」との顔をする。

 関口は眉間を押さえている。なにその態度。

 俺は関口に引っ張られ外に出る。

 そこには大勢の市民たちが。

 俺の姿を見た瞬間……、


「エルフの大賢者シュウ様が来たぞ!」


 割れんばかりの拍手と歓声が俺を出迎えた。

 え、なんで? なんで喜んでるの?

 暴動煽りまくったスラムの連中ならわかるけどさ。

 貴族までいるぜ!


「邪竜を倒し民を解放した英雄が誕生したぞ!」


「仇を討ってもらい感謝いたします」


「ありがたやありがたや」


 あん?

 俺は邪悪な征服者じゃねえの?

 関口は俺の肩に手を置いた。


「ドラゴンの餌が人間だぞ。そんな王が民に好かれてるわけねえだろ。お前は解放者だ。さあどうする? こいつら殺すか?」


 そういう意味か……。意味わかってなかったの俺だけなのね。

 勝てばなんでもありか。うん、そうだわ。そういう世界だったわ。

 こいつらまで恨みますか? ってそういう話ね。はいはい。恨みませんとも。


「殺さねえよバカ。めんどくせえ」


「じゃ、とりあえず手を振ってやれ」


 関口がうっざくささやく。うぜえええええええええッ!

 一瞬、中指立てて台無しにしてやろうかと思ったが我慢。

 俺はできる高校生なのだ。

 俺は拳を突き上げ叫んだ。


「邪竜は成敗した! 王国に秩序は戻り正義は成された!」


 すらすらと思ってもいない言葉が紡がれた。

 正義ってなに? なにそれおいしいの?

 俺はため息をつくと瓦礫に腰掛けた。

 俺たちは復讐を果たした。

 それは仲間との別れを意味していた。

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