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王都侵入

 アサシンたんのぶっ殺ターイム!

 と調子にのった俺たちは首都に入った。

 城壁に囲まれ、入り口は掘に門に衛兵にと守られている。

 もちろん正面から突入して皆殺しにしてもいいが……正直疲れる。

 勘違いのないように言っておくが、俺は殺人鬼ではない。

 必要なら人を殺すが、避けられる戦いまでする気はない。

 それに関口たちが先に首都に潜伏している。

 たぶん中で王族を始末するために動いているのだろう。


「さーて、どうやって入ろうかなあ」


 するとハヤトが指をさす。


「あっちだ」


 城壁の周りには、たくさんのテントが設置されていた。

 ハヤトについていくとだんだんとみすぼらしくなっていく。

 最初はきれいなテントが並んでいた。

 テントごとに護衛が立っていて、ゴミはちゃんと燃やしてゴミ捨て場に埋められている。

 それが、だんだんと路上に生ゴミが散乱して強烈なにおいを発する区画になった。

 そこらじゅうに廃材で作った掘っ立て小屋が立っていて、不潔な身なりの人が地べたに座っていた。

 なるほど。

 きれいなテントが首都に入る商人の一時滞在場所。

 今いる区画が行き場のない人々の住むスラムか。

 しばらく歩くとハヤトが城壁を指さした。


「ほら、入れる」


 警備がザルなのか城壁が崩れている。

 人々がそこから行き来していた。

 ハヤトは相変わらず冷静な声を出した。


「こんなもん維持できるはずがない。入るぞ」


「意味あんのか?」


「中でちゃんとした商売をするには手続きが必要なんだろ?」


 じゃあなんで外に小屋建ててんだよ。

 という当たり前の疑問はすぐに解消された。

 汚かったのだ。中の方がはるかに。

 縦横無尽にネズミが走り回り、ハエが飛ぶ。

 地面には馬糞やネズミの糞、黒くなった食べ物の残骸が散らばって異臭を放っていた。

 水路は黒く濁りゴミが浮かんでいた。

 そこはダンジョン攻略キャンプより数倍汚かった。


「公衆衛生の概念がないようだな。シュウ、知ってるか? 俺たちの世界でも近世まで都市部ではたびたび疫病が発生して人が死にまくってた。いや、一部地域じゃ今でもこんな感じだ」


「せめてゴミ捨て場を作れよ」


「ゴミ捨て場を作る意味を知らねえんだよ。いや一人二人は知っているだろうが、大多数がわかってねえ。こんな世界に残りたいなんて勇者(ゴミカス)ども頭おかしいわ」


「うっわひでえ」


 勇者どもは自分たちが上位貴族相当の暮らしをしてることすら知らないのだろう。

 ブツブツ文句を言いながらハヤトは進んでいく。

 この男、なぜか俺といるときだけ口数が多い。


「そろそろスラム街の出口だ。出たら体を浄化するぞ」


 確かににおいがひどい。洗浄せねばならない。俺の精神の安定上も。

 チンピラにからまれることもなく出口に到着。


「なあなあ……普通、こういうとこって追い剥ぎの一人もいるもんじゃないの? スラム街で身ぐるみ剥がされる日本人観光客みたいに」


「体の重心、筋肉の付き方それだけでも獲物の強さがわかる。鼻が曲がってれば打撃系格闘家崩れ、耳が潰れてれば投げ技系崩れ。前歯がいくつかなけりゃ相当な使い手。前歯がなくなるような戦いをして生き残っているからな。刀傷があれば武器での実戦経験がある。実力はわからなくても獲物としてのリスクはわかるだろ?」


「傷がなければ?」


「ちゃんとした訓練を受けた正規兵。騎士とかな。ろくにメシも食ってないスラムの住民が勝てるはずがない」


 納得である。


「でもさ、そういう空気読めないバカは?」


 バカはどこにでもいる。そう、高校の教室内にも。


「もう死んでる。生きてられるはずがない」


「ですよねー!」


 もう嫌! この世界。

 繊細なシュウちゃんには耐えられない!


「光の精霊よ。我らを浄化したまえ」


 ハヤトが浄化する。

 においが移った服がきれいになった。

 魔法は便利である。

 魔法が使えるようになる前は汚れを落とすのにどれだけ苦労したか……。

 スラム街を抜けると石造りの小屋が並んでいた。

 道路はそれなりにきれいで、ゴミは敷地に埋める方法で処理されていた。

 ハエはいるが先ほどよりは数が少ない。

 ここはおそらく庶民街だろう。

 動物の糞だらけじゃないってことはフランス風じゃなさそうだ。

 さてどこに行こうか。


「関口のおっさんどこにいるんだっけ?」


 そういや聞いてなかった。


「知らん」


 ほえ?


「シュウ、なにをアホ面してやがる。知らねえよ」


「いきなり迷子! ハヤトー! 頭使うのはお前の担当だろうが!」


 うろ覚えと勘だけで生きている俺にはスケジュール管理とか無理である!


「うるせえ! 向こうが探してくれるんだろ!」


 と言い争いながら庶民街をぶらつく。

 歩いていると城の塔が見えた。

 塔からは数人の男女がロープで逆さづりにされていた。

 動いている。生きているようだ。


「これから気分悪い見世物が始まるぞ」


 汚いダミ声が聞こえた。

 振り返るとフードから無精ヒゲだらけの汚いアゴが見える。

 関口だ。


「関口さん、どこにいたんだよ?」


「商人はどこだって入れる。内緒だぞ」


 するとジャーンッっと大きな銅鑼が鳴った。

 それに続いて太鼓の音が響く。

 なんとなくわかったぞ。


「なるほど……処刑か」


 ハヤトがうなった。


「そうだ。庶民を支配し法を敷くには公開処刑が一番わかりやすい」


 本当に!

 心の底から! この世界嫌い!

 俺はギリッと奥歯を噛んだ。


「きれいな格好してるけどあれは貴族ですか?」


「公式設定では下級貴族になってるが、きれいな服を着せたスラムの住民だ。余計な事を言わないように……」


 関口は舌を出し親指でカッ切る仕草をした。

 本当にこの世界の貴族ども一度痛い目にあった方がいいわ。

 そして関口は指をさす。


「見ろよ。聖龍様が来やがったぞ」


 白いドラゴンが飛んできた。

 生き物としてはとんでもない速さで塔の周りをぐるっと旋回すると、飛行したまま生け贄にかぶりつき一飲みにした。


「餌は人肉かよ!」


 俺は思わずツッコんだ。

 どこが聖龍だ! アホか!

 邪悪そのものじゃねえか!


「シュウ、あいつ殺せるか?」


 関口が俺に聞いた。


「たぶんね。あれが宇宙空間対応じゃなきゃ殺せる」


「そいつは問題ない。この世界は天動説が通説だ」


 要するに宇宙から星を見たことがないってことだ。

 もしかすると本当にこの世界が天動説の可能性もあるけど。


「じゃ、戦うわ。ハヤト、サポート頼むわ。主に俺が肉片になったときのために」


「縁起でもねえこと言うなクソバカ!」


 へいへい。

 気のない返事をしながら俺の胸は高鳴っていた。

 そうだ! 興奮していた!

 初めてだ。生き物を殺すことに喜び震えていた。

 とうとう俺はエステルの敵討ちを成し遂げる。

 残念なことに相手は当のドラゴンじゃないが。

 積年の憎しみを知りもしないドラゴンにぶつける。

 ああ、なんと人間は醜いのだろう。

 だが俺にはどうしても必要だった。

 ドラゴンを殺し、ドラゴンという種を打ち倒す経験がどうしても必要だった。

 そうすれば俺は恐怖を乗りこえることができる。

 仲間が食われるのを震えながら見ていた、そんな無力な俺を殺すことができる。

 俺は根拠なくそう考えていた。

 俺は薄ら寒い笑みを顔に貼り付けた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かった。 早く続きがみたいです
[一言] アサシンたんのくっ殺ターイム 魔法最強過ぎ!物理と科学自在に出来れば実体ある奴なら大体効く。
[良い点] 更新乙い [一言] っしゃあ!!やったれやったれ!!
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