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呪い

 それは罠だった。

 バグを起こしたメッセージを聞いた瞬間、意識が混濁する。

 俺は白目になった。

 呼吸だけはまるで瞑想しているかのようだった。


「お、おい! シュウ! しっかりしろ! 今誰か呼んでくるから!」


 真穂は俺の様子がおかしい事に気づき人を呼びに行く。

 俺の脳内にエルフ語の文章が書込まれていく。

 ミッドガルド首都、宮殿の奥。ミッドガルド王の寝室の場所。

 ミッドガルドに伝わる各種毒の製法。

 呪いの呪式。

 あの世界の連中はクソだ!

 俺たちをゴミ扱いし、ダンジョンの餌にしやがっただけじゃない。

 帰ってきたら今度は暗殺の手伝いをさせようとしている。

 誰だ! 誰が俺を奴隷にしようとしてやがる!

 俺はてめえらの奴隷じゃねえ!


「ふざけんじゃねえ!」


 俺は身体の中からわき上がる怒りに身をまかせた。

 王族は殺す。

 だがそれはシステムに言われたからじゃねえ!

 復讐は俺のものだ! 俺たちだけのものだ! 指図するな!


「【光の精霊よ! 我の呪いを解け!】」


 俺の体から闇が追い出された。

 それでも俺の意識は切れそうになる。

 王族への憎しみがあふれ出す。

 この世界を捨てても王族に復讐せよと心が叫んでいた。

 たしか記憶や人格を改変する呪いへの抵抗方法は名前を連呼すること。

 俺はエルフ語で叫ぶ。


「【俺の名は神宮司修一! 商人関口とエルフの賢者エステルの弟子! 暗殺者にして帰還者! 勇者を狩るもの!】」


「【さささささささ逆らうもののののの。きききききき危険。さささささささ殺処分するるるるる】」


 俺の鼻と口からドバッと血が噴きだした。

 目からも血が流れてくる。

 だが俺はまだ余裕があった。

 てめえこの程度で俺が折れるとか思ってんじゃねえだろうな!

 俺を勇者と同じと思いやがったか!

 レベル20ダンジョンで何度も生き残った俺を! この俺を勇者と同じと思うなよ!

 俺は血を吐き出した。

 血なまぐさい息が鼻を通った。

 血は鮮血。

 内臓の中の大きな血管が破裂したわけじゃない。

 ヒールでリカバリー可能だ。まだ戦闘続行レベルだ。

 頭もクラクラしない。よし酸欠も起こしてないし、血圧も下がってない。死なない!


「シュウ! 大丈夫か!」


 ハヤトの声がした。


「げほッ! システムに疑問を持つと発動する呪いが埋め込まれてる! げほッ! くそッ! 黒幕は黒田の野郎じゃない! 誰だ! 誰なんだ!」


 俺は血をまき散らす。

 だが表情は笑っていた。

 俺はずっと考えていた。呪いの主に仕返しする方法を。


「【光の精霊よ! このものの呪いを解け!】」


 ハヤトはダメ押しで解呪をかける。

 その間も俺の頭に情報が書き込まれていく。

 そのすべてはエルフ語。

 なぜエルフ語なのだろう?

 エルフはミッドガルドでは下層階級だ。

 公式文書はミッドガルド標準語。

 翻訳魔法もミッドガルド標準語。

 エルフ語は魔法を行使するときだけの特殊言語扱いだ。

 エルフの国があるなんて話を聞いたことがない。

 俺はあの国の外に国家があるかどうかすら知らない。

 キャンプの外だってあの村くらいしか知らない。

 キャンプにいたエルフは数百年前に人間と戦をして敗北、以後王国の領土に編入された。

 異世界召喚で呼び出した俺たちの扱いから考えて、エルフにとって人間による統治が幸せであるはずがない。

 攻略キャンプにいるのだからダンジョンの餌にされてるのだろう。

 俺の師匠、エルフ語と弓の師匠であるエステルとはダンジョン攻略キャンプで出会った。

 エステルはジョブが戦闘職じゃないせいで常に食い物に飢えていた。

 貢献度によって配給の量が変わるからな。

 俺たちは関口が全員の分を集めて再分配していたから、誰も飢えなかった。

 だがそこまでのお人好しと秩序大好きマンは日本人くらいだ。

 だからそこにつけ込んでいろんな知識を教えてもらった。

 エルフの文化やエルフ語、精霊との対話、礼法。

 最終的には正式な弟子として認められた。

 そして彼女はあっけなくダンジョンで死んだ。

 俺だけだ。エルフ語を理解できるのは俺だけだ。

 勇者どもはちゃんとエルフ語を理解しているわけがない。

 解決できるのは俺だけだ。


「お姉ちゃん! シュウが倒れたって!」


「歌穂! 助けて! ヒールをかけて!」


 俺は真穂の言葉を聞いて閃いた。

 痙攣しながら歌おうとした歌穂の手を握る。

 いいこと思いついちゃった♪


「歌穂……呪いを辿れ。【鷹の目】の魔法だ。満里奈姉さんと呪いの元を探せ」


 呪いの主さんよお、俺から逃げられると思うなよ!


「バカ! 死んじゃうよ!」


 真穂が泣きながら俺をたしなめる。

 よく見ると慌てた顔の咲良もいた。

 歌音は脇で泣いていた。

 楓もどうしていいかわからずに立っている。


「俺は大丈夫。死ぬ感じじゃない。まだ余裕がある。敵は俺が弱ってると思ってやがる。今がチャンスだ呪いを辿って敵を突き止めるんだ」


 俺は呪文を詠唱した。


「【闇の精霊よ。呪いの元を辿れ】」


 呪いは常時発動する魔法だ。

 俺に常駐するプログラムと考えればいい。

 ただし呪いをかけた当人にも魔法の痕跡が残る。

 呪いは魔法を行使したものと行使されたものを繋いでしまうのだ。

 あとは闇の魔法でその繋がりに闇の魔法のワイヤーを引っかける。

 これだけじゃなんの意味もない。


「お姉ちゃん! 私のギター持ってきて!」


 歌穂の声が聞こえる。

 そしてもう一人も来る。


「シュウ、まだ死んでないね! 水晶玉持ってきたよ!」


 年齢詐称のグラビアアイドル満里奈だ。

 これで役者は揃った。

 呪い如きで俺を止められるわけがねえ。

 あんまり俺をなめるなよ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] すげえ……ゾクゾクする。
[良い点] 更新乙い [一言] それはそれとして、王族共はぶっころ!! せやな
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