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日本人互助会【ニホン】

 俺は考えた。

 そしてよどみなく結論を出した。

 刻は満ちた。俺は今まで逃げていたことに決着をつける。


「……システム。俺をミッドガルドに送れ」


「シュウ! 何を言ってやがる!」


「俺たちじゃ事件を解決できない。仲間がいる! システム! クエストは【ニホン】メンバーの解放。キャンプを襲撃する」


 俺はあえて区切りをつけた。

 互助会【ニホン】のメンバーは訓練を受けたものたちだ。

 そして重要な事だが……殺人鬼ではない。

 迷宮では人殺しもよくあることだ。

 俺たちの装備や体を狙った盗賊や奴隷商、恨みを買った相手。

 そして人殺しの快楽に目覚めた同郷者。

【ニホン】はあくまで生存確率を上げるための互助グループ。

 殺人鬼や問題を起こした者は出入り禁止になる。

 つまり殺人に一線を引いた、あえて言えば倫理観を持ったグループなのだ。

 彼らは信用できるし救う価値がある。

 俺が上から目線で偉そうに命の選別をする権利はない。

 だが俺はあえて選択をした。


【承認しました。サブクエスト奪還作戦発生しました。異世界に転送します】


「ハヤト、お前はどうする? 俺は強制しない」


 ハヤトは口角を上げる。


「ふっ、おまえの相棒でいるのは最高だ。やるぞ!」


 異世界の村を救った数日前に日本人解放作戦でキャンプに殴り込んだら返り討ちにされる未来しかなかっただろう。

 だが今なら、今なら力がある。


「システム! もちろん事件解決のためならニホンの連中もこっちに帰してくれるよな?」


【肯定。システムはクエスト解決に最大限の協力をお約束します】


「よし、行くぞハヤト!」


「おうよ! みんなを助けるぞ!」


 俺たちは光の粒になり、その場から消えた。

 気がつくと例の部屋だった。

 俺たちは軍事キャンプに向かう。


 軍事キャンプはダンジョンの近くに設置されている。

 目的はダンジョンから人を守るため。

 立派な志だが手段は異世界からの拉致。

 異世界人は必死なのかもしれないが、それももう終わりだ。

 キャンプの入り口には異世界人の衛兵が立っていた。


「シュウ、どうする?」


「堂々と入る。俺たちは数日間行方不明になっただけ。変なとこに飛ばされた、で終了」


「鉄のメンタルかよ!」


 俺は衛兵に手を上げる。


「おいーっす。帰れたー」


 その場でわざとらしく腰を落として疲れたアピールをした。


「おう……おまえニホンの。死んだんじゃなかったのか?」


「聞いてくれよ。ダンジョンの外に飛ばされてよー。今帰ってきたわけよ」


「おう、そうか。そりゃたいへんだったな……じゃあ宿舎に戻れ。メシでも食って休んでろ」


 俺は大股でキャンプの中に向かおうとした。

 次の瞬間、剣を抜く音がした。

 膝の力を抜き地に伏せる。

 シャンッと鉄剣が空を切る音がした。

 俺はナイフを抜き、低い体勢のまま振り返る。

 衛兵の表情は驚きで固まっていた。


「てめえ、大人しく斬られろ!」


「なぜ攻撃する!」


「おまえらはキャンプから離れたら死ぬはずなんだよ!」


【バッドステータスは帰還時に解除されます】


 そういうからくりか。

 衛兵はレベル10。本来ならレベル1の俺たちがかなうはずがない相手だ。

 衛兵もそう思っていたに違いない。

 だって二人一組でもなければ、この期に及んで仲間を呼ぶ気配もない。

 まだ自分だけで解決できると思っていたのだ。

 だが今の俺は衛兵よりもずっと速い。

 俺は短剣を衛兵の足に突き刺した。

 衛兵が悲鳴を上げるはずだったその瞬間、衛兵の顔にハヤトの拳がめり込んだ。

 ぐちゃりと音がして衛兵が前のめりに倒れた。

 それをハヤトは隅にぽいっと捨てる。


「たぶん殺してない。行くぞ」


 ねえ、俺よりハヤトの方が蛮族だよね?

 ハヤトってさ、すっごく雑じゃね?

 俺は納得できないしこりを抱えながらキャンプに侵入した。

 日本人の宿舎に向かって歩く。

 宿舎につくと誰かが設置したのれんをくぐり、中に入る。

 宿舎にはドアなどと言う文明の利器はない。

 蝿が飛びヤモリが壁を這う室内は辛気くさい。

 また誰か死んだのだろうか?

 俺たちの姿を見ると、酒を飲んでいた40歳くらいの男が指をさして怒鳴った。


「てめえら生きてやがったのか!」


「なんか生き残っちゃったー」


 てへっと俺が変顔するとおっさんがぶち切れた。


「くそ! てめえらが死んで乾杯してたのによ! ふざけんな! 死ね! 今から死んでこい!」


 おっさんは憎まれ口を叩いた。

 もー、この典型的ツンデレ。

 このおっさんこそ互助会【ニホン】の暫定リーダー。

 関口正治(せきぐちまさはる)である。

 ジョブは商人。日本では社長やってたって言ってたな。

 なお俺たちの師匠である。

 関口のおっさんも俺たちもこの世界に来てから1年くらいだ。

 ミッドガルドに来た日本人の生存期間が2年くらい。

 なぜならダンジョンはある程度のモンスターが死ぬとレベルが上がり難易度が上がる。

 逆に人間を中で殺すとレベルが下がる。

 レベル1から上がらない下級戦士が生き残ることができる限界がレベル20。

 ダンジョンの観測された最大レベルが30。2年に一度はレベル20を超える。そのたびにほぼ皆殺し状態だ。

 しかもミッドガルドはモンスター討伐にノルマ課している。

 達成できなければ斬首だ。

 だから一年も生きていればベテランなのだ。


「おう、山神も生きてるな。佐藤はどうした?」


「死んだ」


「そうか……だから走り回れって言ったのによ……」


 関口は残念そうな顔をした。

 もう時間がない。

 いつ異常に気づかれるかわからないのだ。

 だからハヤトが話を遮って言った。


「関口さんプランBだ。日本に帰る方法を見つけた」


「な……ん……だ……と」


「俺たちは一度日本に帰ってこっちに戻ってきた。聞け。拉致された日に、拉致されたときの姿で戻れる。すべて元通り、人生を失うこともない」


「そんな都合のいい話が……」


「ある! シュウは信じなくてもいいから、俺を信じろ!」


 ハヤトひどい!


「あ、ああ……俺は他のやつらを呼んでくる……待ってくれ」


 ふらふらとした足どりで関口は奥に行った。

 そりゃショックだろうな。帰れるんだもんな。

 すぐに人が集まってくる。


「おい、シュウ! 日本に帰れるってどういうことだ!」


 片眼に眼帯をした男が俺に詰め寄る。

 サブリーダー格の片岡真次(かたおかしんじ)だ。


「そのまんまだ。日本に帰れる。ただし……」


「【ただし】ってどういうこと!」


 弓を持った女性が言った。

 片岡愛理(かたおかあいり)、真次の嫁だ。

 俺たちと同時期に夫婦で拉致されたらしい。


「日本で勇者が人殺しを繰り返している。【システム】、たぶん世界を管理しているものは事件の解決を望んでいる」


「なんでもいい! 帰れるなら! 子どもたちに会えるのなら!」


 愛理が必死に訴えた。


「それは約束する……」


 約束した瞬間、カンカンカンカンカンと鐘の音がした。

 どう考えても警報だ。


「今、死ななければね。てへ♪」


 さあってとバトルの時間である。

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― 新着の感想 ―
[一言] 警報……見張りが何者かにやられているぞ!侵入者だ! かな?
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