第四章 動き出した時間 場面三 対話(三)
喪服をまとったアウグストゥスは、ティベリウスが書斎に入ると、掛けていた長椅子から立ち上がった。ティベリウスは継父を前にゆっくりと一礼する。
「アウグストゥス」
ティベリウスはアウグストゥスを見つめて言った。
「重ねてお悔やみを申し上げます」
アウグストゥスは静かにそれに応じ、自身も少し頭を下げた。
「ありがとう」
「どうぞお掛け下さい」
アウグストゥスが腰を下ろし、向かいにティベリウスが掛けると、使用人のルクスがワインと白湯を持って現れた。ティベリウスが特に指示をしなくても、ルクスはアウグストゥスのカップにごく薄めのワインを注ぎ、ティベリウスには濃く作って差し出した。ティベリウスが眼で合図をすると、ルクスは丁寧に一礼して部屋を出てゆく。室内は二人きりになった。
アウグストゥスはしばらく口を開かず、じっと継子を見つめていた。昨日とはまるで違う。澄んだ眼だった。目元、口元―――幾重にも皺の刻まれた顔の中で、そこだけは依然力を持っている。この小柄で病弱な継父は、とっくに老人の域に入っている。つい昨日最愛の孫の死の報に接したばかりのこの男には、それでもいまだに強い気迫がみなぎっていた。
「ティベリウス」
口火を切ったのは、客の方だった。
「はい」
ティベリウスが応じると、アウグストゥスは不意に立ち上がり、ティベリウスに向かって深く頭を下げた。
「昨日はすまなかった」
真摯な口調が言った。ティベリウスは意表を衝かれて一瞬動けなかったが、立ち上がってアウグストゥスの身体に手のひらを置いた。
「アウグストゥス」
「感情に任せて、そなたにひどいことを言ってしまった」
「アウグストゥス、どうかおやめ下さい」
ティベリウスの制止など、まるで耳に入らないかのように継父は続けた。
「ガイウスの死は、そなたの責任ではない。このわたしの責任だ。わたしの痛恨の過ちだった。あれは若すぎた。もっと慎重になるべきだった。なのにその過ちを棚に上げて、わたしはそなたを責めた………」
話しているうちに感情が昂ぶったのだろう。アウグストゥスの声が震えた。
「あれを殺してしまった………」
「アウグストゥス」
呼びかけに、アウグストゥスはようやく顔を上げた。その頬は涙で濡れている。
「どうかお掛け下さい」
ティベリウスは継父の肩を抱き、椅子へ促した。アウグストゥスは従ったが、そのまま黙って涙を流し続けている。ティベリウスは何と言ってよいのか判らず、結局黙ったまま継父の興奮が収まるのを待った。どんなに悲しみを抑えようとしても、昨日の今日だ。
やがてアウグストゥスが洟を啜り上げた。長衣の端で涙を拭い、深いため息をつく。それから、またしばらく沈黙があった。
「………いかんな、年をとると。涙もろくなって」
ぼそりと呟き、呼吸を落ち着かせようとするように幾度か深い息を吐き出した。それから卓上のカップに手を掛ける。中身を一口飲み、それからようやくティベリウスを見た。