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第四章 動き出した時間 場面三 東方からの使者(五)

 食堂に入って、アントニアはまず義兄の姿を探した。義兄はいなかった。室内の不安げな視線が集中するのを感じながら、アントニアはゲルマニクスに歩み寄り、小声で言った。

「ティベリウスは?」

「ドゥルーススに先に帰るとだけ言ってから出て行かれました」

「そう」

「何があったんですか」

 アントニアは軽く息子の肩に掌を置き、それから室内を見渡した。

「お集まりの方々」

 アントニアの声が、静まり返った室内の隅々に届いた。

「皆様に、辛いご報告があります。ガイウス・カエサル殿が、東方で病を得てお亡くなりになりました」

 食堂内の空気が一瞬凍りつき、それから騒然となった。アグリッピナは悲鳴を上げ、ポストゥムスは寝椅子から跳ね起き、「嘘だ!」と叫んだ。

「嘘だ! デタラメだ!」

 後ろに控えていた青年の従者が、ポストゥムスを落ち着かせようとした。だが、ポストゥムスはそれを振り払い、裸足で奥へ駆け込んでいった。従者はその後を追う。

 室内はざわめいていたが、アントニアが再び「皆様」と呼びかけると、静寂を取り戻した。

「深い悲しみの中にあるアウグストゥスに代わり、わたくしがご挨拶申し上げることをどうかお赦し下さい。宴もたけなわのところ、それぞれお忙しい中お運び下さった方々には本当に申し訳なく思いますが、今宵はこれにて散会とさせていただきたく存じます」

 アントニアはゆっくりとした口調で言った。

「この場にお集まり下さった方々は、ガイウス殿をよくご存知の方ばかりです。せめて最後に、若くして亡くなられた方の思い出を胸に杯を干し、悲しみを分け合い、この困難に耐える力にしたいと思います」

 アントニアは杯を手に取る。全員がそれに倣った。

「ガイウス・ユリウス・カエサル殿に」

 全員が厳かな声で復唱し、杯を干した。アントニアは杯を置き、「ありがとうございました」と言って深く頭を下げた。客たちはそれぞれ寝椅子から起き上がり、アントニアに次々にお悔やみを述べてその場を退室していった。いつの間にか、執事のアスプレナスが食堂に姿を現していた。リウィアの指示だろうか。ユリアとアグリッピナの二人を家人に任せ、それから来客の応対に当たり始める。ゲルマニクス、ドゥルースス、リウィッラの三人は、客たちの姿が消えてからアントニアを囲んだ。

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