第三章 父の友人 場面四 父の姿(二)
不意に、書庫の扉がノックされた。マルクスが「はい」と応えると、木製の扉が開き、ピソが姿を現した。早足に中に入っている。珍しく、少し慌てているように見えた。
「ドゥルースス」
「はい」
「父君が来た」
「―――は!?」
ドゥルーススは、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。マルクスも「ネロ殿が?」と言った。
「まさか。父はローマにいるはずです」
「いたんだろうがね。わたしもまさかと思ったが、どうも本物らしい」
父の快活な友人は、こんな時にも軽口を叩くのを忘れない。だが、ドゥルーススにはまだ信じられなかった。怪我の事を聞いてきたにしては早すぎるし、ましてこの天気だ。
「とにかく、少しでいいから顔を見せてやってくれ」
「ぼくもご挨拶します」
マルクスは言ったが、ピソはかぶりを振った。
「後にしろ。わたしから簡単に詫びは入れた。ドゥルーススの無事な姿を見せたら、その後少し休んでもらう。ズブ濡れだったから着替えだけはさせたが、相当疲れているようだ」
「はい」
「ドゥルーススを部屋へ連れて行ってくれ。わたしはティベリウスを案内する」
ピソは言い残して書庫を出て行った。
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