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第三章 父の友人 場面二 招待状(二)

「もう一人の孫の方はどんな具合なんだ」

 ピソは軽い口調で言う。ティベリウスは答えなかった。だが、ピソの言わんとすることはよく判る。

 ルキウスが死に、アウグストゥスの直孫は二十歳のガイウスと、アグリッパ家に残る十二歳のアグリッパ・ポストゥムスだけになった。この上、ガイウス・カエサルが東方の任務で失策を犯したら、既に六十四歳の高齢に達しているアウグストゥスは、一体どうするつもりなのだろう。

 ガイウス・カエサルは、第一人者アウグストゥスの代理人として東方に派遣されている。今頃は二つの大河、ティグリス河とユーフラテス河に挟まれた地で、パルティアとの相互不可侵条約の調印式を行っている筈だった。現在のところ、取り立てて問題は起きていない。だが、ティベリウスはこの東方行きの成功は危ないと見ていた。

 ユダエア(ユダヤ)、アルメニア、そして強国パルティア(イラン)―――東方諸国の国内情勢はどれも極めて不安定だ。ユダエア王国は六年前のヘロデ大王の死で王国が三分割されたが、それぞれを治める王子たちの間で睨み合いが続いている。アルメニアは相変わらず内乱状態だ。そしてローマの敵国の筆頭であるパルティアは、これも六年前、三十五年間にわたって王位にあったファラーテス四世が妻とその連れ子によって殺害され、彼らによる共同統治が行われているが、国内の反発は依然として根強いという。そんな中、一触即発のユダエア王国を睨みつつ、パルティアのアルメニアへの内政干渉を牽制しながらこれと平和協定を結び、更にアルメニアの混乱を収拾し、ローマの覇権を再確認させるという任務が、二十歳のガイウスに務まると本気で考えたのだろうか。

 確かに助言者はいる。だが、ガイウスは彼らの助言に従いながら、自分は表の顔に徹するという行動が取れる器ではない。既に軍団は分裂状態になっている。アウグストゥスはそれをきちんと認識しているのだろうか。


          ※




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