第二章 アントニア(二〇)場面四 ウィプサーニア(六)
親愛なるアントニア。あの人と結婚して、あなたと短い間でも義姉妹の間柄になれたことは、わたしにとって本当に幸せなことでした。あなたのような娘がいたらいいのに、と言ったら、夫は苦笑していました。あなたはかなりやんちゃな子供だったそうですね。夫はあなたとドゥルースス殿からは、とにかく目が離せなかった、と言いました。片時もじっとしていない上に、姿が見えないと、危ないことをしていないかと気になって仕方がなかったと。邸を抜け出したあなたたちを、使用人に命じて影から見張らせたりもしたそうです。後にドゥルースス殿がそれに気づき、そのせいで一度大喧嘩になったのだと言っていました。そんな話をする夫は、大抵苦笑していましたが、どこか愉しそうでした。自分には責任があるから、と夫は言いますが、それだけではなく、もともと夫には父性の強いところがあるようです。高みから一族を守り導く、少し突き放した面倒見のよさ、とでも言うのでしょうか。
長々と書いてしまいました。謝罪をしながらこんなことを書くのは本当におかしなことだと思うのですが、どうか夫のために、あなたのお力をお借りできないでしょうか。わたしはしばらく母の親戚を頼ってローマを離れます。夫は人と打ち解けるまでに時間がかかるほうですし、一度は義母として接した女性を妻とすることは、夫が父を尊敬していただけに、難しい面もあるのではと思います。あなたとドゥルースス殿を、夫はとても大切に思っています。勝手なお願いとは思いますが、どうかこれからも変わらずあの人の傍にいて、あの人の心温まる存在であってください。
これまでのご厚情に心から感謝します」
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