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第二章 アントニア(十四)場面三 マエケナス(七)

「ぼくはアウグストゥスに助言したよ。ティベリウス自身の名誉や栄達を絶対に口にしてはいけないと。ああいう人間を動かすにはコツがある。とにかく、ローマのためにお前の助けが必要だと、それだけを前面に押し出して懇願しろとね」

「口を引き裂かれたいの? それとも、糸くずを詰めて縫い合わせた方がいい?」

「どちらも困るな。あなたには詩人の才能もありそうだ。わたしの墓碑銘(エピ・グラム)を書かないかね」

「人でなしもやっと冷たい土の下、とでも? あなたも叔父上も人でなしだわ」

「アウグストゥスもティベリウスも、あなたのことはとても愛しているよ。あなたも彼らを愛している。人でなしと言ったアウグストゥスを、あなたはやはり愛しているね。あなたはそういう人だ」

 アントニアは口をつぐんだ。確かにアントニアは、叔父の行為に激怒していた。だが、それでも―――そう、確かにマエケナスの言うとおりだった。アントニアはやはり、叔父を愛している。過去にいくつもの修羅場を経験してきた叔父の、目的のために手段を選ばぬ非情さを目のあたりにしても。そして勿論義兄もまた、アントニアには大切な人だった。

 アントニアには、目の前の男がさっぱり判らなかった。この男は、一体何を言いたいのだろう。自らを鏡だと言い切るこの男は、一体アントニアに何をさせようというのか。

アントニアの内心を読み取ったように、「鏡」は言った。

「彼らの傍にいてやっておくれ。勇敢なあなたなら、きっと彼らを守れるだろう。優しい腕と怒れる眸をもつあなたの力を、ぼくは心から信じているよ」

 守る? 彼らを?

 一体何から守るというのだろう?

 アントニアの疑問をよそに、マエケナスが優雅に一礼すると、行く手をふさいでいた二人の青年は、すぐに案内役に変身した。アントニアは彼らのエスコートでマエケナスの邸を出ると、用意された輿に乗り、自邸に戻った。

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