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第一章 父の帰還(二一) 場面五 共和国(二)

「グナエウス」

 宴が終わってから、ティベリウスはピソに声を掛けた。ピソは振り向く。

「気を遣わせて悪かった」

 謝ると、友人は頬を緩めた。

「随分と殊勝だな」

 そう言って、ティベリウスの肩を軽く叩く。

「少しでも力になれることがあれば言ってくれ。アウグストゥスは人遣いが荒いし、君は時々呆れるほど我慢強いからな。軍団で、訓練中に肋骨(あばら)を折ったのに最後までメニューをこなしたことがあったろう。後でそれと知って肝を潰した」

 それはティベリウスがまだ十代で、ヒスパニア(スペイン)の軍団にいた頃の出来事だった。ピソはそこで大隊長を務めていた。

「………君は烈火のごとく怒ったな」

「当たり前だ。気づかなかったわたしも迂闊だが、報告しなかった君も君だ。新入りの体調管理は先輩として当然の義務だ。新入りに何かあれば、それはわたしの責任になる」

 友人の言葉に、ティベリウスは口元をわずかに緩めた。

 「新入りに何かあれば、それはわたしの責任になる」―――そう言い切るピソの責任感と自尊心は、生まれた時から家長として一族を束ねる事を前提に育てられた貴族の長男に相応しい。第一人者の継子として目をかけられていたティベリウスに対し、ピソは初めから一切遠慮しなかった。気を遣いながら敬遠していた他の男たちと違い、ピソは当時から高慢で無愛想と囁かれていたこの新入りのどこが気に入ったのか、昼間は剣の相手を買って出て、夜にはくすねた酒での秘密の宴会にティベリウスを招いた。「ビベリウス(飲み助)カリディウス(生酒)メロ(熱燗)」という不名誉な綽名も、この男の発案だ。

「明日の晩、ルキリウス・ロングスが酒宴を開くと言っていた。君も来ないか」

 ピソの誘いに、ティベリウスは肩を竦める。

「そう毎晩毎晩呑み歩くわけにもいかない」

「元老院が終われば、どうせ呑みたい気分になると思うがな。明日もどうせ今日の続きだ」

 ピソは皮肉な口調で言う。ティベリウスは友人を見た。ピソは僅かに唇の端を上げる。

「別に無理にとは言わない。よい眠りを」

「お休み」

 ティベリウスは軽く手を振り、従者を連れて邸を出た。



     ※



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