第七章 イムペラトル 場面六 夜明けの海(二)
アントニアは立ち止まって貝を拾い、砂に洗われた小さな丸い石を拾い上げ、それを女奴隷に手渡した。ティベリウスは義妹の白い指先や、ほっそりした首や、結い上げられた豊かな栗色の髪、マントを身につけていても判る、華奢な肩を眺めるともなく眺めながら、黙ってその後ろに続いた。
変化の少ないロードス島での生活の中では、手紙が大きな楽しみの一つだった。義妹は約束したとおり、ドゥルーススのことや邸のこと、そしてローマで起こった様々な出来事まで、実にこまごまとティベリウスに書き送ってくれた。一年や二年のことならともかく、七年もの間、途切れることなくそれは続いたのだ。その数は百通を優に越え、細かいものも合わせればひょっとすると二百通ぐらいあるかもしれない。ローマに戻ってからその話をすると、義妹は頬笑んで言った。
「そんなにたくさん書いたかしら。あまり意識していなかったのだけれど、七年分ですものね」
ティベリウスは私室の文箱を見せた。父の遺品で、元々文箱ではなく衣装箱だったのだが、これほど多くの手紙をまとめて保管できる文箱などそうはない。証拠を見せられて、義妹はちょっと赤面した。
「本当に、全部わたしの手紙?こんなにたまっていたの」
「七年分だ」
「ティベリウス、どうかお願いだから捨てて下さらない? つまらないことばかり書きちらしてしまって」
無論、そんなことが出来るはずもなかった。