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第七章 イムペラトル 場面五 月の光(二)

 ふと気付くと義妹がティベリウスを見ていた。笑みを含んだスミレ色の眸に見つめられ、ティベリウスはやっと微笑する。

「リウィッラは大丈夫なのか」

「大丈夫よ」

 アントニアは明るく言った。ティベリウスは少し間をおいて言う。

「アウグストゥスは、まだご存じないのか」

「ご存じないはずだわ。わたしも、まさかこんなところであなたにお会いするとは思わなかったもの。明日の朝お話しするつもりでいたのよ。あなたから話して下さる?」

「そうしよう」

 ティベリウスは答えた。夏の終わり、ということならば、恐らくティベリウスは初孫を一門に迎え入れる儀式の数々に、参加する事はできないだろう。顔を見ることさえ、いつの事になるか判らない。今年の冬は、ローマに戻れるのだろうか。愛する者たちは、ティベリウスを奮い立たせもし、感傷的にもする。ティベリウスはもう「家長」ではない。ドゥルーススが生まれた時、ティベリウスは家長であり、執政官でもあった。ドゥルーススを抱き上げて一族の一員として承認し、清めの儀式を執り行い、魔よけの首飾り(ブッラ)を贈った。家父長権を失った今、それはアウグストゥスの役割になる。

 アントニアは頬笑んだ。

「ごめんなさい、つい長話になってしまって。お疲れでしょう? わたしは少し庭を歩いてから部屋に戻るわ」

 ティベリウスはかぶりを振る。

「これほど喜ばしい話はない。ドゥルーススにも知らせてやらなくては。―――それよりも、敷地内とはいえ、不慣れな庭園内を深夜に一人でさまよわせるような事をあなたにさせるわけにはいかない。邪魔でなければ、付き合おう。あるいは誰か他の者をつれてくる」

 使用人を誰か起こすなりすればいいのにと思うが、この義妹のことだ。恐らく気を使ったのだろう。アントニアは少しためらった様子だったが、わずかに頬笑みを浮かべる。

「とても魅力的な提案だけど、じゃあ今夜は休むわ。その代わりというのではないけれど、明日か、無理ならいつでも構わないから、昼間に二刻(冬の一刻は一時間弱)ほど付き合って下さる? お忙しいとは思うのだけど」


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