第七章 イムペラトル 場面四 国父アウグストゥス(九)
アウグストゥスは真面目な顔になった。
「わたしの焦りが、そなたに負担をかけたことも詫びねばならぬ。そなたにだけは告白する。わたしはしばらく元老院に出席するのも恥ずかしかった。そなたほどでなくても、軍事を知悉した者たちが、わたしをどう見るだろうと思うと、夜も眠れぬほどだった」
ティベリウスは小さくかぶりを振った。
「感謝しています。確かに驚きはありました。ですが、同胞たちは軍団兵たちに勇気と励ましを、敵に脅威を与えました」
短い間がある。不意に、アウグストゥスが軽く手招きをした。
「近う」
ティベリウスは立ち上がった。アウグストゥスも席を立ち、近づいてきたティベリウスを見つめる。
「わたしを抱擁してくれ」
ティベリウスは養父の小柄な身体を抱いた。
「そなたは人を庇う時、最も滑らかに話す。気づいていたか?」
「いえ………」
アウグストゥスはティベリウスの背を軽く叩いた。
「この戦いが終わったら、まずは凱旋式だ。それから、そなたに全軍指揮権を要請しようと思う」
「アウグストゥス―――」
全軍指揮権―――イムペリウム・プロコンスラーレ・マイウスは、アウグストゥスが持っていた特権の中で、ティベリウスが与えられていなかった唯一のものだった。「アウグストゥス」という称号を除いて。ローマに配備された全二十八個軍団、全てに対する指揮権。これを与えられるということは、ティベリウスは名実共にアウグストゥスの共同統治者の地位に就くことになる。