表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/243

第七章 イムペラトル 場面四 国父アウグストゥス(七)

 我が身の不幸を自制心なくティベリウスにぶちまけ、少しは気持ちが収まったのだろうか。黙り込んだアウグストゥスに、ティベリウスは静かな口調で言った。

「ゲルマニクスは、弟が遺した大切な子供で、今はわたしの息子です」

 使用人が、アウグストゥスのカップにワインを注ぎ足す。アウグストゥスはそれを飲んだ。

「アグリッピナはその妻で、子供たちはわたしの孫です。どうかご安心下さい」

 アウグストゥスはゆっくりと頷く。ティベリウスの言葉を反芻するように、何度も首を縦に動かした。

「………そなたを息子に欲しかった。そなたたち兄弟を」

 ポツリと呟く。

「わたしはあなたの息子です。アウグストゥス。ドゥルーススもあなたを父と慕い、あなたのために生きました」

 ティベリウスは言った。

「早くに逝った弟の分も、わたしはあなたに仕えます。国父アウグストゥス」

「国父か」

 アウグストゥスは苦笑する。

「そうだな。わたしの身には余る、過ぎた息子たちだ」

 元老院が「国父」の称号をアウグストゥスに捧げた時、ティベリウスはロードス島にいた。元老院議員全員が起立し、アウグストゥスに「国父アウグストゥス」と呼びかけた時、この第一人者は感涙を隠さなかったのだという。

 アウグストゥスは深く息を吐き出した。再び、室内に沈黙が下りる。ティベリウスは果樹園の壁画を眺めるともなく眺めた。木漏れ日から降り注ぐ陽光の下、ウィプサーニアやドゥルースス、アントニアたちと中庭を歩いたこともあった。もう遠い昔のことだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ