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第七章 イムペラトル 場面四 国父アウグストゥス(六)

 ティベリウスは黙ったまま、慰めの言葉も口にしなかった。一体、ティベリウスに何が言えただろう。血族偏重こそ、この人の持つ最大の矛盾であり、多くの不幸の原因であったと思う。子供など生ませるのではなかった、という当の人間が、ゲルマニクスをティベリウスの養子とし、自分の孫を嫁がせ、自身の血の継承に躍起になっているのだから。

 アグリッパ将軍もティベリウスも、そのために離婚を強制された。アウグストゥスの一人娘、哀れなユリアは二度未亡人になり、三度目の結婚ではティベリウスに捨てられ、愛人たちから引き離されて島流しになった。ウィプサーニアも犠牲になった。重責に耐えかねたガイウスとルキウスは、遠い異国で命を落とした。

 「自分の血を引くものを後継者に」という考えに固執さえしなければ、不出来な子供や孫たちも、全て家庭内の不祥事というだけで収まっていただろうに。そうすればアウグストゥスも、ふさわしい協力者や後継者を得て、今頃は気候温和なカプリ島にでも隠居して、悠々自適の生活を送ることすら出来たかもしれない。

 世界に君臨するこの広大なローマが、国の未来を担うにふさわしい人材を欠いていたわけではない。ただ、アウグストゥスが余りにも巨大すぎた。この養父が長い内戦を勝ち抜き、市民中の第一人者(プリンチェプス)として、「アウグストゥス(至尊者)」として君臨して既に三十年が過ぎている。昔日の共和国どころか、内戦も、三頭体制さえ知らぬ世代が育ち始めていた。この国の頂点に立つアウグストゥスの意が自らの血族にあると判っていて、敢えてその路線に異を唱え、この国の一翼でも担おうと起ち上がる事ことなど、今や誰にも不可能になっていたのだ。

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