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第七章 イムペラトル 場面三 アウグストゥスの焦燥(六)
また、軍事上の才能と知識の欠如がもたらしたこの贈り物は、思わぬ効果ももたらした。確かに十万の兵は、総司令官としてのティベリウスを大いに悩ませはした。だが、ティベリウスは勿論、どんな軍団司令官も思いつきさえしないであろうこの一大デモンストレーションは、局地的には慣れないゲリラ戦に苦しみはしても、なお健在なローマの国力を反乱軍に見せつけたのだ。反乱勃発から、一年半が経過している。祖国を舞台に戦うということは、国を疲弊させずにはすまない。反乱軍とて犠牲は大きい。列を成して続々と進軍してくる十万の兵たちは、武器を手に戦う者にも、それ以外の庶民たちにも衝撃を与えたに違いなかった。
そしてこの「同胞」たちの集結は、北の国境で長い戦いを続ける兵士たちを、奮い立たせ勇気づける効果もあったのだ。続々と到着する彼らを目にした兵士たちの中には、この戦役の終了は近い、と思った者も少なくなかった。軍団といっても、人の群れであることに変わりはない。たとえ野次を飛ばすだけであっても、多数であるというだけで安心するのが人の常なのだから。
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