第七章 イムペラトル 場面三 アウグストゥスの焦燥(三)
「慈悲深く偉大なる最高司令官アウグストゥスへ、前線より。
この度の兵の派遣に対し、心より感謝いたします。ローマ建国以来八百年の歴史を振り返っても、これほどの人数の兵士たちが、祖国を守る意志に燃え、一つ所に集ったためしなどかつて一度もありませんでした。栄光に満ちたローマ市民並びに元老院と、我が国を支える属州民、そして我々の真の友である同盟諸国が、心を一つにし、我が国の為に敢然と立ち上がり、続々と北の国境へと馳せ参じたのです。
生まれ育った場所も、年齢も、言葉も異なる彼らが、「ローマのために」―――ただそれだけを胸に集結した。
その事実こそが、愚かにも絶望的な戦いを続ける敵への強力なメッセージとなるのです。
総司令官として、元老院議員として、そしてあなたの息子として、わたしがあなたに抱いている心からの尊敬と感謝の念が、そのごく一部でもあなたに伝わるならば、それはこの上なく偉大な神々の深い慈悲によるものでしょう。
我々前線に立つ兵士たちは、もう何も恐れるものはありません。たとえ戦いに傷つき倒れても、我々には、それに数倍する同胞たちがついています。それが兵士たちをどれほど勇気づけてくれることでしょう。
あなたの忠実な兵士たち、我々の勇敢な兄弟たちの一部は、どうか時が来るまであなたの下にお留めおき下さい。時が至れば、彼らの力をも必要とするでしょう。我々前線に立つ者は、兄弟たちの誇り高い心に恥じぬよう、各々が自身の名誉を賭してこの戦役を戦い抜き、必ずこの地に秩序と平和を、そして我がローマの威光を取り戻すでしょう。
あなたとローマに、神々のご加護と栄光を。
心からの敬意と忠誠と共に ティベリウス・ユリウス・カエサルがこれを記す」
ティベリウスは、到着した兵の大半をアウグストゥスの下へ返した。送り込まれた十万近い兵のうち、手元には二万弱を残したのみだった。長い行軍で疲れた兵士たちを労い、数日の休息を与えた上で、護衛の兵をつけて国境まで送り届けた。シスキアからローマまで、ローマ街道を通り、距離にして六百マイル(九百キロ)以上の道のりだ。その労力と困難は大変なものだったが、他に方法はなかった。
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