第七章 イムペラトル 場面二 軍団基地(五)
ティベリウスは読み終えた書簡を卓上に置き、しばらく黙っていた。
「………四個軍団か」
ぽつりと呟く。少し考えを巡らせているようだった。
「父上の下には、今五個軍団がいるんですよね」
ドゥルーススは沈黙を破って口を開く。ティベリウスはドゥルーススを見て、ちょっと頷いた。
「全部がここにいるわけではないが」
「隣の宿営施設は、新たに建設なさったんですか」
「そうだ」
「人数が増えたら、また設営するんですか?」
ティベリウスはわずかに眉を上る。何故だろう、かすかに笑ったようだった。
「お前ならどうする?」
逆に問い返され、ドゥルーススは少し考えた。
「………あれだけのものをまた造るとなると大変ですよね。人手も場所もですし―――かなり堅牢に作ってある印象なんですが」
「冬は雪に閉ざされる。備えておかなければ。恐らく、わたしもここで冬を越すだろう」
「ローマには戻れそうにないんですか」
ティベリウスは苦笑する。
「更迭されなければな」
「ありえないでしょう」
つい断言すると、ティベリウスは少し興を覚えた様子で息子を見た。何か言いかけたようだったが、廊下で人の気配がしたためだろう、話を切り上げる様子で言った。
「せっかくのアウグストゥスのご配慮だ。四、五日ほど陣営を見ていくといい。案内させる。その間に返書を認める」
「はい。ありがとうございます」
ドゥルーススは立ち上がる。それとほとんど同時に入口の兵士が、シルミウムから使者が来たと告げた。
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