第七章 イムペラトル 場面二 軍団基地(四)
アウグストゥスの文章は、大体「格調高い」とか「含蓄」といったものとは無縁だった。平明かつ率直で、気取ったところは全くない。思ったことを素直に綴った、という印象を受ける。
「親愛なるわたしのティベリウスよ。いつも戦況を知らせてくれて感謝している。この困難な状況の中で、そなたほど賢明かつ慎重に振舞える者は二人といないと確信している。兵士たちは皆、そなたの勇気と思慮深さを褒めたたえ、それを耳にするわたしの胸をこの上なく深い喜びで満たしてくれた。
いつもわたしの健康を気遣ってくれてありがとう。だが、この老人の体調など、そなたが健康でありさえすれば何ら大した問題ではないのだ。そなたがわたしと妻と、そして首都とのことで様々に心配りをしてくれる返礼というのではないが、このたびはドゥルーススをそなたのもとに送る。愛情深いそなたの息子が、老いた我々をどれほど勇気付け、労わってくれているか、そなたもその目で見れば、きっと誇りに思うことだろう。………」
書簡はその後に、首都でのことやこのパンノニア・ダルマティアの戦場でのことで、懸案事項や連絡事項を箇条書きに列挙していた。
いかに率直に書かれているように見えても、アウグストゥスの賞賛を文字通りに受け取ることは出来ない。曲折の末に自らの後継者に抜擢したティベリウスに対して、気遣いというのも当然あるのだろうと思う。アウグストゥスとティベリウスの間には、気軽に何かを言い合えるというほどの親密さは恐らくなかった。それは、非社交的なティベリウスのみに原因があることとも思われない。気さくで庶民的な第一人者と、高慢とさえ囁かれる貴族的なティベリウスとでは、親しくなることも元々難しいのではないだろうか。二人に共通しているのは、この国に対する、上に立つ者としての公共心と責任感、信念に従って行動する確固たる意志、そして卓越した能力、というぐらいだろうか。