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第七章 イムペラトル 場面二 軍団基地(三)

 ドゥルーススはゲルマニクスと共に司令部の門をくぐった。ゲルマニクスは親衛隊兵たちを控えの間に通すように指示し、二人きりになって奥へと進んでゆく。そして最奥の部屋の前で立ち止まった。ドゥルーススは傍らに立つ兵士に言った。

「総司令官に取り次いでくれ。ローマから使者がお見えだ」

 ドゥルーススの名前を出さなかったのは、恐らくゲルマニクス流の悪戯心が顔を出したのだろう。すぐに目通りを許されたドゥルーススは、ゲルマニクスに促されて中へ入った。ティベリウスはアウグストゥスからの使者を迎えるために席を立ち、中央を譲る形で立っていたが、さすがにその目に一瞬の驚きが過ぎったようだった。だが、それはすぐに消えた。

 案内されたのは、執務室といった雰囲気の部屋だった。壁には青銅製のアウグストゥスの肖像盾が掲げられている。奥には大きな机が置かれ、その手前に応接用らしいテーブルと布張りの椅子があった。堅牢な石造りの空間は少し薄暗い。半年ぶりに見る父は、少し痩せたようだった。その背後には、軍装姿の青年が一人立っている。父個人の従者だろう。

 ドゥルーススは父に向かって丁寧に一礼する。

「総司令官に、アウグストゥスよりの書簡をお持ちしました」

 ティベリウスも一礼してそれに応えた。

「遠方よりおいで頂いて感謝する」

 それから入り口に立ったままだったゲルマニクスに向かって言った。

「案内ご苦労だった。下がってくれ」

 ゲルマニクスは少し物足りなそうな様子を見せたが、敬礼して部屋を出てゆく。恐らく同席するつもりだったのだろう。ティベリウスがドゥルーススを見たので、ドゥルーススは持ってきた箱を開け、筒状に巻かれた書簡を取り出した。

「アウグストゥスは、兵の増強を視野に、現在様々な方策を考えておられます。東方の軍団には既に移動をお命じになりました。執政官格のアウルス・カエキーナ殿並びにシルウァヌス・プラウティウス殿指揮下の四個軍団が、九月にはこちらに到着する予定です。その他にもいくつか懸案事項がありますので、こちらの書簡をお読み下さい」

 ティベリウスは書簡を受け取り、手で椅子を示した。

「掛けなさい」

 ドゥルーススは腰を下ろす。ティベリウスも椅子に掛けた。

「まさかお前が使者とはな」

 ティベリウスは苦笑して言った。どうやら、もう「第一人者の使者」として振舞わなくてもいいらしい。誰かが同席していては、そうもいかなかっただろうが。ドゥルーススはホッとして言った。

「一度、陣営を見てくるようにと言って、この役目をお任せ下さいました。アウグストゥスの書簡にもありますが、首都の食糧危機もほぼ落ち着いたとのことで」

 実はこの春、首都では小麦の不足でかなりの規模の暴動が起こったのだ。過密気味の首都ローマでは、食料の海外依存度が高い。食糧の供給は豊作不作の影響も勿論あったが、海外からの交易の安定度にも大きく左右された。また、港の設備も、高まる一方の需要に追いついていない。

 ティベリウスはちょっと頷き、書簡に目を落とす。かなり長い書簡だった。

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