表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/243

第六章 属州の反乱 場面二 属州の反乱(四)

 ドゥルーススは心臓を冷たいもので突かれた気がした。カルヌントゥムはダーウィヌス河沿いの古都だ。ダーウィヌス河北岸にはマルコマンニ一族がおり、南岸にはパンノニアが広がっている。ドゥルーススも顔色が変わったのだろうか。ピソがドゥルーススの肩に軽く手を置いた。

「ドゥルースス殿」

「あ………はい」

「大丈夫かね」

「はい」

 ドゥルーススはそう答えたが、声は掠れていた。

「君の父君は並の指揮官じゃない。必ず何とかなる。イリュリクムは、一度はカエサル御自身が征した地で、マルコマンニ族の族長マロブドゥスはカエサルの古い友人だ。少しは気休めにならないかな」

 神祇官ピソは落ち着いた口調で言った。

「いえ」

 ドゥルーススはかぶりを振る。アウグストゥスが、執政官でもないピソをこの場に呼んだのがよく判る。かつてアウグストゥス不在の間に首都で暴動が起こった際、執政官として陣頭指揮を執ったのがこのピソだった。その落ち着いた口調や、前向きで適度に楽観的な態度には、人を落ち着かせる何かがあった。

「ありがとうございます。ぼくは大丈夫です」

 そこへ、アッルンティウスが現れた。ピソはアッルンティウスに短く事態を説明してから、書簡を手渡す。レピドゥスはアウグストゥスへの話を続けた。

「とにかく、議会の召集を。マロブドゥス配下の軍勢は六万は下らない。ダルマティアとパンノニアで、二十万はいるだろう。カエサルの手勢は補助軍(アウジリアリス)を合わせても五万に満たない」

 書簡を読み終えたアッルンティウスが、声高に怒鳴った。

「蛮族どもめ!」

 アッルンティウスは、四十代半ばだろう。我慢できない様子で気短に言う。

「奴らの為に、我々がどれだけの人と物とカネをつぎ込んだか。誰が町を作り、道路を作り、水道を引き、村を守ったと思う。彼らが手にしている武器とて、奴らの村を守るために我々が与えたものではないか。それを、こともあろうにローマ軍に協力せず、逆に剣を向けるとは。思い知らせてやるぞ!」

 室内の人間の顔が一様に青ざめていたのと対照的に、アッルンティウスの顔だけは怒りで真っ赤になっていた。単純なその怒りが、どうやらアウグストゥスを救ったようだった。

「明日、政策委員会(コンシリウム)を召集する。明後日には元老院を集めよう」

 アウグストゥスはレピドゥスの手を握って言った。

「我が国の力を見せてやろう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ