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第六章 属州の反乱 場面二 属州の反乱(二)

 ドゥルーススはすぐに客間に通された。短衣の上にガウンを羽織り、室内履きをはいたアウグストゥスが、落ち着かない様子で室内をうろうろと動き回っている。部屋の傍らに甲冑姿の男が一人佇んでいた。

「アウグストゥス」

「おお………」

 アウグストゥスはドゥルーススを見ると、足早に歩み寄ってくる。ドゥルーススの両手を取り、力をこめて握った。

「ドゥルースス」

「申し訳ありません、遅くなりました。何があったんですか」

「大変なことになった」

 六十八歳の第一人者の顔色は真っ青だった。アウグストゥスは何度か説明しようと口を開きかけたが、うまく言葉が出ないらしい。気ぜわしく甲冑姿の男を手招きした。

「ドゥルーススに説明してくれ。書面を見せてやってくれ」

「はい」

 男はドゥルーススに向かって敬礼した。

「第八軍団所属、ガイウス・オッピウスです。総司令官の命でカルヌントゥムより参りました」

「カルヌントゥム?」

 ドゥルーススはギクリとした。

「父に何かあったのか」

「ダルマティアで反乱が勃発しました」

「―――」

 ドゥルーススは息を呑む。オッピウスは書簡を差し出した。ドゥルーススは急いで目を走らせる。ティベリウスが口述筆記させたのだろう。詩や散文や、形式ばった文章を書く時とは違い、こんな時の父の文章はむしろ事実のみを記して素っ気ないほどに簡潔で、歯切れがいい。

 ダルマティアはダーウィヌス河南岸からアドリア海沿岸一帯に広がる、属州イリュリクムの南半分の名称だ。

「メッサラのバカ者が」

 アウグストゥスが吐き捨てるように言った。

 書面によると、ダルマティアの反乱は、総督メッサラが、ティベリウスのマルコマンニ族攻略作戦に援軍を送るべく、現地で兵士を徴集しようとしたことがきっかけで起こったらしい。最初は小規模なものだったが、バトという男が煽動し、またメッサラが迅速に反乱を鎮圧できなかったために瞬く間に広がり、ダルマティア全土が反ローマに起ちつつあるという。既に多くのローマ人が殺害され、略奪が始まっており、直ちに鎮圧のため一隊を差し向ける、と書簡は告げていた。

 ドゥルーススはとっさには何と言っていいか判らなかった。ダルマティアはローマ本国とはアドリア海を挟んだだけの地域だ。海路なら波が許せば一日で、陸路でも半月とかからないだろう。書簡の日付は七日前だ。ティベリウスの元にダルマティアから連絡が届くまでに四日かかったとして、既に反乱勃発から十一日が過ぎている。


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