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第六章 属州の反乱 場面二 属州の反乱(一)
「ドゥルースス様」
囁く声に、ドゥルーススは目を覚ました。使用人のフラウィウスが、ドゥルーススの腕を軽く握って囁いている。
「ドゥルースス様」
「………何?」
フラウィウスが持ってきたらしい燭台の火が、机の上でほのかに揺らめいている。暗さから考えても、まだ夜明けまでは相当時間があるだろう。
「アウグストゥスのお召しです。お支度を」
「アウグストゥスの?」
ドゥルーススは半身を起こし、目をこすった。
「何時?」
「第八時(夜二時頃)を少し回ったところです」
ドゥルーススはフラウィウスが持ち込んだ盥の水で顔を洗い、短衣の上に外套を羽織ると、伴を一人だけ連れてすぐに邸を出た。
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