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第五章 ゲルマニア戦役 場面五 追放(一)

 結局、ドゥルーススは何も出来なかった。二ヵ月後に成人式を迎えたポストゥムスの振る舞いは一層凶暴さを増し、アウグストゥスも人目をはばからずこの孫を叱責することが多くなった。この後、何年にもわたって父やゲルマニクスは戦場で戦い続けることになったが、ポストゥムスはローマの危機に際しても少しも行動を改めようとしなかった。相変わらず町に繰り出してはバカ騒ぎをし、時に傷害沙汰をさえ起こして夜警隊に厄介になった。そうかと思えば従者も連れずにふらりと邸を出て、町のすぐ近くを流れるティベリス河で釣り糸を垂れ、海神(ネプチューン)を気取っては人々の顰蹙を買った。

 ついに二年後の建国暦七五九年(紀元七年)、アウグストゥスは十七歳になったこの孫を最初はスレントゥム(ソレント)に、そしてローマ本土とコルシカ島の間に位置する孤島、プラナシア(ピアノーザ)島に追放した。更に翌年にはポストゥムスの姉で、人妻であったユリッラをも姦通の罪で―――もっとも、娘のユリアの時がそうだったように、国法でなく家父長権をもって裁いたのだが―――島流しにしたのだから、アウグストゥスという人は、死ぬまで身内の不祥事に悩まされ続けたのだ。「ユリウス姦通罪法・婚外交渉罪法」「ユリウス正式婚姻法」といった数々の法律を、議員たちの抵抗を押し切って成立させ、「健全な家族」によるローマの再生に執着したアウグストゥスにして、運命の皮肉と言うより他ない。

 ポストゥムスの追放を、姉のアグリッピナやユリッラでさえ悲しむ様子はなかった。憎しみに凝り固まった第一人者の孫にして養子は、もう誰の手にも負えなくなっていた。マクロも傷を負った。話を聞いて駆けつけたドゥルーススに、マクロは「あれは狂ってる」と言った。実際、頑強だったポストゥムスの肉は落ち、血走った目ばかりが力を持っていた。デュオニソス神か、どこか異国の神々の怪しげな祭儀に参加し、いかがわしい薬でも覚えたのだという噂さえあった。

 ドゥルーススも、ポストゥムスの流刑には異を唱えなかった。正直言って、ドゥルーススも途方に暮れていたし、悪化する一方の人間の相手をすることに疲れてもいた。追放とはいえ、景勝地として知られるスレントゥムが、頑なな彼の心にいささかの慰めを与えはしないかという気持ちもあった。刺激に満ちた大都市ローマが、ポストゥムスの心を毒したのではないかと。

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