表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/243

第五章 ゲルマニア戦役 場面三 ポストゥムス(十)

 ドゥルーススは男を見た。男は冗談とも本気ともつかない様子でニヤニヤ笑っている。マクロが口を挟んだ。

「ガイウス殿もルキウス殿も、どちらも従軍中に死んだ。このことが何を意味するか―――あなたには判るか?」

「いや」

 ドゥルーススが短く言うと、マクロは続けた。

「ティベリウス・カエサル将軍はローマの全軍団を掌握していた。ロードス島にあってさえだ。軍団の情報は配下を通して刻々と将軍の下に報告されていたんだ。自分で手を下さずとも、方法はいくらでもあった」

「首謀者はリウィアだって話もあるぜ」

「策謀の継母、あの女オデュッセウス!」

「将軍は母親に頭が上がらない。今の地位にあるのは、ひとえに母親の再婚のおかげだからな」

「おれの母にもだ。北の辺境に追いやられ、挙句ロードス島に体のいい島流しになった。あの流罪人は、女にはからきし意気地がない」

「男じゃねえな」

 一同は笑った。

 ドゥルーススは黙ったまま、口々に発せられる父への侮辱の数々を聞いた。

 こんな男たちに、一体父の何が判るというのだ。

 マクロはどこか観察するような目つきでドゥルーススを見つめている。ドゥルーススはその栗色の眸を真っ向から睨み付けた。

「あなた方が、ポストゥムスにそんな考えを吹き込んだのか」

「それは誤解というものだな。大体、あなたも風聞ぐらいは聞いているだろう」

「風聞に惑わされるのは愚か者だけだ」

「火のないところに煙は立たぬとも言うがね」

 ドゥルーススは深く息を吸い込んだ。

「話しても無駄なようだ」

男たちを見回してから、ポストゥムスに歩み寄り、腕を掴んだ。

「帰るんだ。これ以上、君をこんな連中と一緒にはしておけない」

 男たちは小さく笑う。

「こんな連中か」

「さすがにお貴族様は礼儀正しいな」

「全くだ」

 同調し、ポストゥムスはせせら笑った。

「お前、真実が怖いのか?」

「何が真実だ。どれもこれもデタラメばかりだ。物事を真っ直ぐに見ることの出来ない、卑劣漢の遠吠えに過ぎない。信じる方がどうかしている」

 ドゥルーススは怒りに駆られて言った。卑劣漢だとよ、と一人が言い、一人が口笛を吹いた。

「案外言うねえ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ