第五章 ゲルマニア戦役 場面三 ポストゥムス(九)
「案外早い再会だったな」
「誰だ」
男が問う。
「こちらはドゥルースス・ユリウス・カエサル殿だ。ティベリウス・カエサル将軍の一粒種さ」
マクロの説明に、皆一様に好奇の眼差しでドゥルーススを見た。手で傍らの椅子を示したので、ドゥルーススは少しためらった末に隣に腰を下ろす。マクロが軽く目配せすると、同席している男の一人が立ち上がり、酒を酌んで戻ってきた。マクロは自分のカップをちょっと掲げて言った。
「再会に」
ドゥルーススも中身を口に運ぶ。一口含んで思わず眉根を寄せた。それはお世辞にも上質とはいえない、ほとんど酢に近いワインで、しかも生酒だった。ドゥルーススは正直これなら水の方がマシだとさえ思ったが、ぐっとこらえて半分ほどを喉に流し込んだ。
「あなたの口には合わないか。特別なやつをオーダーしたんだが」
マクロがおかしそうに尋ねる。「特別なやつ」とは何だろう。何か入れたのか。それとも古い物をわざわざ出したのか。男たちは皆、くすくす笑っている。
「正直に言って、旨くはない」
ドゥルーススは言って、卓上のパンを口に運んだ。味を消さないと、口の中に残る酸味とも渋みともつかないものが不快だったのだ。
「おれと違って上品だからな」
ポストゥムスは言った。その間にも二杯目を乾している。
「清く正しく上品で―――アウグストゥスの受けも抜群だ。おれのような面汚しとは違う」
ドゥルーススは口を挟みかけたが、男たちの同調する声に言葉を封じられた。「違いない」とか「おれたちは仲間だ」とか。どこかエネルギーを持て余したような男たち―――皆、大なり小なり同じような境遇なのだろうか。
「ドゥルースス」
ポストゥムスは酔った眸でドゥルーススを見つめた。
「何」
「我が兄は、いつまでおれを生かしておくだろうな? アウグストゥスが死ぬまでか? それとも、もっと早いか?」
「ポストゥムス」
「ガイウスもルキウスも殺された。次はおれだ。そうだろう」
ドゥルーススは腰を浮かせた。
「本気で言っているのか」
「大いに本気さ」
「ルキウスは熱病で死んだ。ガイウスは矢傷がもとで命を落としたんだ。知らないはずないだろう」
「そんなのを信じているのはアタマの悪い連中だ。物事を表面しか見ないバカ者たちさ」
「殺られる前に殺ったらどうだ。先手必勝だぞ」
男が煽るように言った。
「せっかく、いいエサが飛び込んできたんだ」