第五章 ゲルマニア戦役 場面二 首都(二)
ロードス島へ引退する前の父は、ひょっとするとこんなふうだったのだろうか。十歳にも満たない頃のことで、ドゥルーススもはっきりと覚えてはいない。活動的で精力的な父の姿は、ドゥルーススには最初物珍しかった。だが恐らく、今の姿もまた一つの父の姿なのだろう。書庫や書斎で文巻を紐解いている姿も、学問好きの父には似つかわしいものに見えた。しかし、本当は、この国のために、一族のために生きること―――それこそが父の真の望みであり、幸福でもあるのだろう。今、改めてそう思う。
「ドゥルースス」
二ヶ月に満たないローマでの滞在―――それは実際「帰還」というよりも「滞在」と言ったほうが近かった―――を経て、再びゲルマニクスを伴って戦場へ戻る時、父はいつものようにドゥルーススの肩に手のひらを置き、短く言った。
「後を頼む」
父の指示はいつも短い。ドゥルーススは「はい」とはっきりと答えた。
「神々のご加護を」
我ながら平凡な言葉だったが、心からそう言った。ティベリウスはちょっと頷いた。
※
後を頼む―――
ティベリウスとゲルマニクスが不在の間、カエサル家で成人した男性はドゥルーススとアウグストゥスしかいない。アウグストゥスの多忙と老齢とを考えると、ドゥルーススは特に一族のことではしばしば彼の代理を務めなければならなかったし、父に代わって小ティベリウスを後見する役目も負わなければならなかった。カエサル家の執事アスプレナスも、ネロ家のクィントゥスとシラヌスも、幸いどちらも有能で経験豊かな男たちだったし、まだ若く未熟な「代理」を侮ることもなく、よく助けになってくれた。そういう意味では、大きな問題はなかった。
問題は―――