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第四章 動き出した時間 場面三 対話(八)

 ティベリウスは小さく息を吐き出す。

「アウグストゥス」

「ん」

「アントニアと結婚は出来ません。ですが、ゲルマニクスをわたしの養子にと仰るなら、それはお受けします」

 短い間がある。ティベリウスは言った。

「それでよければ、お話を受けます」

 アウグストゥスは息を呑んだようだった。それから深く息を吐き出す。

「ティベリウス―――」

 安堵の響きだった。継父はティベリウスの手をとり、そこに額を押し付けた。柔らかな手だ。ほとんど剣を握ることも、手綱を握ることもなかった手。さらさらと乾いた、老人の手だった。

「ありがとう。これで安心した。ローマは安泰だ、ありがとう………」

 継父は顔を上げた。灰色の眸は、少し潤んでさえいるようだ。ティベリウスがロードス島に退いてから、九年になる。その間、孫の成長だけを頼りに、たったひとりでこの大国を背負い続けたこの小柄な老人の精神力には感嘆するほかはない。長い間、勝手なことをしました、という謝罪の言葉が思わず喉まで出かかったが、ティベリウスはそれを飲み込んだ。謝罪をする筋のことではない。

 これほどの執念を、ティベリウスは持つことが出来るのだろうか。

「アウグストゥス」

 呼びかけると、アウグストゥスは顔を上げた。ティベリウスは立ち上がり、継父の肩に手を触れる。

「どうかお掛け下さい」

 アウグストゥスは苦笑する。ティベリウスに促されるまま、元の席に腰を下ろした。ティベリウスは混酒器のワインを自分のカップに注ぎ、それから柄杓で混酒器に水を足した。それをアウグストゥスのカップに注ぎ足す。

「気を使わせるな」

「いいえ」

 ティベリウスも再び席に掛けた。

「アウグストゥス」

「何だ」

「ドゥルーススも、ユリウス一門に加えて下さい」

 アウグストゥスはわずかに眉を上げる。

「ネロ家を継がせないのか」


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