被告人に判決を言い渡された裁判長
これはフィクションです。実際に起こったできごとでは、決してありません。
この小説を見た、判事を目指している司法試験合格者のそこのあなた
決して真似をしないようにお願いいたします。
被告人に死刑を宣告された裁判官
裁判所は緊張に包まれていた
今日、ある重大事件の判決が、ここ、最高裁判所で言い渡される為だ。
この事件の裁判が始まって以来、かれこれ5年が過ぎていた。
一審、二審ともに被告人に死刑判決が下され、被告弁護側が、控訴、上告を行い
最高裁の結審が、今日ここで行われるのだ。
被告はうつむいたまま、身動き一つしなかった
傍聴席は、朝から報道陣をはじめ、多くの人が集まっていたが、物音ひとつにも
注意がはらわれ、まるでオーケストラの開演を待つかのような雰囲気であった
今回の事件における、最高裁の判事・裁判長のK氏は 、とても優秀だと評判が高かった。
若輩とは言えないが、年齢はまだ四十をすこし過ぎたぐらいで、最高裁の裁判長としては、やはり若かった。
K氏は、超エリートと言っても過言ではなく、最短で出世街道を走り抜け、
この業界・・? における、トップの座を手中に収めた。
かれには、秘密があった、秘密というよりは、変な癖とでもいうべきものか
彼はこれまで、自分が欲しいと思ったもの、学歴、地位、女性、すべての分野においてどんな手を使ってでも、必ず手に入れるという、我欲の塊であり、それは小さい頃から恐ろしいまでに徹底していた。
小学校の児童会長に立候補し、当選するために、自分の小遣い、現金をクラスメート全員に配り、それが発覚し 激怒した担任に、とび蹴りを食らったこともある。
学歴は、日本人としては珍しい、U国の超有名大学の法科卒業、もともと頭は良かったので、
これは一応本人の実力であると思われるが、大学入試をはじめ、単位の取得、卒論、司法試験、はては自動車免許の取得に至るまで、黒い噂が絶えることはなかった。
しかし、先ほどの変な癖というのは、彼のこの、突出した我欲のことではない。
むしろ、その取得した もの への執着心のなさ、に彼の家族、友人、周囲の人々は違和感を覚えた。
例えば彼が、小さい頃、プレミアつきの人気ゲームが欲しくて、父親と一緒に徹夜で並んで手に入れたというエピソードがある。
にもかかわらず、彼は、そのゲームにすぐに飽きてしまい、近所のどぶに捨ててしまった、捨てるくらいなら、ぜひ1万円で譲って欲しいと、泣いて頼んだ友人がいたが、かれは何の躊躇も見せることなく、友人の目前でその行為に及んだらしい・・・、
また、友人の恋人で婚約者でもあった女性を、強引にものにしたが、手に入れたとたん何の興味もまったく示さなくなり、すぐに彼女と別れてしまったという話や、大学の入試でも、一度、東大に合格したのだが、入学直後、サークルのしつこい勧誘に腹を立て、その日のうちに退学したという話、など、多少尾ひれがついているかも知れないが、これらは、紛れのない事実であるらしかった。
先に述べたように、これまでのプロローグは、今から判決を受ける被告人の過去ではない。
判決を言い渡す側、最高裁判所の判事・裁判長K氏の輝かしい履歴なのである。
こうしてみると、理不尽、この裁判を含め、世の中のすべてがどこか理不尽に思われてくる。
重大な罪を犯したとされるこの事件の被告人は、もしかするとなにかの間違いでここ裁判所の被告席に
立たされているのかも知れない。
実は彼こそは、非常に高潔な人格者であり、性格も良く、親孝行で、ほんの一瞬、わずかのことで社会との歯車が、かみ合わず、幾許かの齟齬を生じたがために、この場所にいるのかも知れない。
(正義は彼・被告人にあるのかも・・・?)
もし、この裁判における最大の責任者である、裁判長K氏のすべてを、知っているものがいたとしたら、
そのような空虚な想像を思いめぐらしたかも知れない。
さて、いよいよ、判決の時が来た。
この事件・裁判の被告人はもとより、検察官、弁護人、そしてこの事件の被害者家族、傍聴人が、固唾をのんで見守る中、いよいよ判決が下される。
「・・・・・・」
「なんだ、・・・・?」
法廷にいるすべてのものが自分の目を疑った。
うおおおっ・・・・ どよめきが聞こえた。
それもそのはずである。これから、判決を述べるであろう裁判長K氏が、自らの目前に置かれた、堅牢かつ重厚、歴史の重さをどこか感じさせる、装飾の施されたその壇上にひょいと、飛び乗ったのである。
「なんだ、なにが始まるのだ・・・」
わかり切っている、判決文の朗読、それ以外にはありえない。
分かってはいるが、この法廷にいる一同が皆、驚きの表情でその様子を伺った。
裁判長K氏はさらに奇態を曝した。
自らのベルトを緩め、スラックス(ズボン)およびその中にはいているトランクスを腿の上辺りにまでずりおろし、半分だけ臀部を露出させ、腰を器用に突きだすと両手をその腰辺りに据えて、人差し指を伸ばしたまま、その指を被告人に差し向けた。
「・・・判決(半ケツ)・・・死刑・・」
がああああああっ
かつて一度も、聞いたことのないような、怒涛のどよめきが、法廷に沸き起こった。
「なんだああ それはあああああ」
「裁判を、司法を、民主主義を、法治国家を、全てを、裁判長のお前が、バカにするのかあ、」
「きさまああ、絶対に許さんぞおおおっ」
法廷にいたすべての人が、裁判長K氏に罵声を浴びせた。
「お前が、お前が死刑になれええええいいっ」
判決を受けた被告人は、裁判長K氏に向かってこう叫ぶと、受けた衝撃のあまり変な笑い声を発して、その場に腰から崩れ落ちた。
裁判長K氏は、もみくちゃにされながらも、しっかりと警備員に守られて法廷を後にした。
法廷の脇の廊下で、K氏は 警備員に引きずられながらも真面目な顔をしてこういった。
・・・・・・
「まあ、これで裁判官に思い残すことはなにもない。私は明日、いや今日にでも辞表を書くとしよう」
「それにしても、一つだけ気がかりなことがある」
「何です・・それは・・?」
警備員のひとりがK氏に聞いた。
「うん、さっきのが、素晴らしきオマージュであることに誰か、気付いてくれただろうか」
50代半ばのそのベテラン警備員は、薄笑いを浮かべたが、何も答えずにK氏を引きずりながら廊下の奥に消えていった。
テレビドラマなどで、よく
「私はただ、真実が知りたいだけなんです」なんて言っている検事・弁護士さんを見かけます。
判事・裁判官にとって、真実なんてわかりっこないし、ほんとうはそんなこと、どうだっていいのです。
最大多数の人に、「それがまあ、妥当な線じゃないの・・・」と思わせられる落とし所がなにより
大切なことなのです。




